再読。
大学生の僕は、自殺志願者が集まるHPの掲示板で、昔の恋人と同姓同名の自殺志願者を見つけます。静かに遺書を書ける場所が欲しいという彼女と、お金がなくて食べるものにも困っていた僕の利害関係は一致し、彼女は僕の部屋で長い遺書を書くことになりました。
そしてその間に、僕は彼女に恋をします。この恋の行方は?
芥川賞受賞の伊藤たかみさんの本を再読中です。伊藤さんの本は、全部好き、とは言えないのですが(難解なものもあって、昨日1冊挫折してたりします・・・)、児童文学と恋愛小説に関しては、好きです。この本も好きでした。大好きでした。
でも、どこが良かったのかは、上手く言えません。読んでいる間、波乱万丈の展開があるわけでもなくて特に楽しくないし、けして読後感は良くないし、言葉にすると感想は「切ない」になってしまうけど、だからといって手放しで泣ける感動のストーリーというわけでもない。僕も彼女もまだ若く、お姉さまの私はちょっとだけ、彼らに説教したい気分になって、全面的に共感もできません。この本が本当に恋愛小説なのかどうかも、ちょっと疑ったりしています。それに、彼女の遺書の内容がほとんど描かれていないのも不自然でした。
でも私には、僕の気持ちも、彼女の気持ちも、少しずつわかるような気がするのです。彼らの感じる虚しさも、大切な人を失うことの辛さも、それをいつまでも引きずっている心細さも、それから、死ぬんだという固い決意も。
で、薄い本であることを幸いに、二度読みしました。一度目より、二度目のほうが泣けました。私にとっては、リアリティのある本でした。みんなにオススメとは言いません。完成度の高い小説だとも言いません。でも、タイミングによっては、スポっとはまります。私、初読のときの記憶、全然ないんです。印象に残らない本だったんです。それなのに、今読むと、こんなに泣ける。やっぱり三十路になると涙腺がゆるむんですね(笑)。
人生をリセットしたいと思ったことのある人に。そして、その場所から、いまだに卒業できていないような気がする人に、おすすめです。(すごいピンポイントなオススメ本(笑)。)
伊藤たかみさんに初チャレンジ、という方にはオススメしません。伊藤たかみさんの作家人生においては、過渡期の実験的作品と思われ、この本が好きだからといって、伊藤さんの他の作品を読み漁っても、似たような作品には出会えないと思うからです。