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■ やってられない月曜日 柴田よしき
やってられない月曜日やってられない月曜日
柴田 よしき

新潮社 2007-08

どんなにちっぽけだったとしても、いつだって「私の世界」の主人公は私自身!

私、高遠寧々、28歳。実はコネ入社だけど、いちおう大手出版社経理部勤務。彼氏なんていなくても、気の合う同僚もいるし、お気楽な一人暮らしを満喫中。でも、そんな平凡な日々にも、いろんな事件は潜んでて――不倫、リストラ、社内イジメ。「あるあるある!」って思わず呟いちゃう、本音満載のワーキングガール・ストーリー。
会社という世界で働いたことのある女子なら、きっとみんなが共感できる「やってられない」感が、軽やかに描かれていて、楽しく読めました。コネで大手出版社に入社だなんて、個人的にはそれだけで、羨ましいことこの上ないですけどね(笑)。

模型作りという「私の世界」を思う存分満喫する時間と、現実の社会の中での「私の世界」であるところの会社と。その両方を愛せるようになった事が寧々の成長だなあと思いました。その成長を、寧々が会社の模型を作るという作業を通して描いていくという、作者のアイデアが素敵でした。世間は何かと殺伐としているけれど、よーく見れば、どんな人にも組織にも、きっと愛すべき部分があるんだよね。遅ればせながらそれに気がつく寧々に、共感できる本でした。
| さ行(柴田よしき) | 17:45 | - | - |
▲ 朝顔はまだ咲かない 柴田よしき
朝顔はまだ咲かない―小夏と秋の絵日記朝顔はまだ咲かない―小夏と秋の絵日記
柴田 よしき

東京創元社 2007-08

高校でいじめにあったために、ひきこもりになってしまった小夏が、外の世界へ踏み出すまでの成長ストーリー。連作短編集になっています。一応、一話一話は、ミステリー的な感じで、軽い謎解きもありますが、そこはちょっと弱い感じです。爽やか青春小説でした。

母子家庭の、小夏と母親の関係が素敵です。ひきこもりの娘を1人で守っている、優しくてたくましいお母さん。小夏を追い詰めたり、焦らせたりせず、温かく見守っています。きっとここに至るまでには様々な葛藤があったと思いますが、全然家事をやらなくても、多少だらしないところがあっても、本当にいいお母さんだと思う。

それから、小夏の親友である秋も、素敵な女の子です。ひきこもりの小夏をそのまま受け入れつつ、でも、秋なりに小夏の事を心配しています。小夏が外に出られるように、少しずつ引っ張ってくれます。小夏がかなりネガティブなキャラクターなのに、作品がこんなに爽やかなのは、秋というキャラクターの明るさと素直さのおかげだと思います。

少しずつ成長していく小夏と秋のようすを見ていると、なんか、また明日から頑張っちゃおうっかなあなんて、前向きな気持ちになれる本でした。人生の新しいステージに進むのは誰だって恐いけど、だからって足踏みしててもしかたないしねー、なんてね。

でも、これ、現実的な物語ではないよね。ひきこもりのためのおとぎ話って感じでしょうか。でも、本物のひきこもりで悩んでいる人がこの小説を読んだら、それこそ小夏のように、自分は彼女とは違う、彼女は恵まれすぎている、って思って苛立つんじゃないかなあ。小夏には、ひきこもりの娘を愛し続けて守って信頼してくれる母親がいる。心配し続けて定期的に訪ねてきてくれる、気の合う親友がいる。ひきこもりなのに、素敵な出会いが向こうからやってきて、恋人まで出来ちゃう。自立しようと思い立ったら、バイトもコネで世話してもらえる。うん、恵まれすぎだねえ〜^^ってことで、評価は低めです。でも、楽しい本でした。
| さ行(柴田よしき) | 21:13 | - | - |
▲ 水底の森 柴田よしき
水底の森水底の森
柴田 よしき

集英社 2004-02

「もう森へなんか行かない」シャンソンがエンドレスで鳴り響くアパートの一室で顔を潰された男の死体が発見された。部屋の借主である高見健児と風子の夫婦は行方不明。翌々日、高見の絞殺死体が見つかるが、風子は依然姿を消したまま。刑事・遠野要は、風子の過去を追ううちに、忘れ得ぬ出来事の相手が風子であると気づき、烈しく風子を求め…。時間と距離を超え、繋がる謎。愛とは何か、人間性とは何かを真摯に問い掛ける、長編ミステリ。
これは力作でした!とても読み応えがありましたし、長いのに、最後まで引きつけられる小説でした。さすが柴田さんです。

事件自体、謎が多く、関わる人も多く、人間関係もややこしく、また小説としても、追う側の刑事である要の視点と、逃げる風子の視点が交互に使われ、時系列が時々前後する、凝った構成でややこしく、時々頭の中を整理しながら読みました。ややこしかったけど、読みづらくはありませんでした。特に前半は、事件の真相が気になってどんどん読み進めずにはいられない、という感じでした。

ただ、物語が後半に入ると、犯人なんてどうでもいい…という気分になってきます。次から次へと自分を襲う不幸をただただ受け入れ、その不幸に自分と関わる男たちを巻き込み、堕ちていく風子。彼女が不幸を呼ぶ原因はいったい何だったのでしょうか?指名手配され、警察に追われながら、記憶の中の「本当の父親」を探す風子に、救いはあるのでしょうか?また、すべてを捨てて風子と共に逃避行をする事になる、要の隠している心の闇とは、いったい何なのでしょうか?風子と要が、たがいに対して持っている思いは、いったいなんなのでしょうか?2人はどんな未来を選ぶのでしょうか?

そんなわけで、事件に関してはすべての謎がスッキリ明らかになったし、真犯人はなかなか意外な人物でしたし、よくできたミステリーだったのですが、それらが明らかになったあたりではもう、この小説を謎解きメインのミステリーとしてではなく、風子と要の心情をメインに読んでいたので、なんだか盛り上がりませんでした。前半と後半が乖離しているというか、なんとなく、まとまっていないものを読んだ気になりました。

個人的には、要にも、風子にも、最後の最後まで感情移入ができず、かわいそうな2人なのに同情しきれなくて、残念でしたねー。風子に関しては、なんか、個人的に嫌いなタイプの女性でね。私って可哀想、なんて不幸な私、ああ、どうして私ばっかりこんなに不幸なの?っていうキャラクターなんだけど、最初は、いくらでも幸福を追いかけられる立場にいたはずなんだよね。ただ本人が人生を諦めちゃってただけで。自分から幸福になるために行動する事はなくて、その場その場で好きでもない男に身を任せて、さらに不幸になる。自業自得なんだよなあ。そんな彼女が唯一、積極的に行動したのは、親友の恋人を奪った時でした。うーん、やっぱり嫌いなタイプだ(笑)。それでも、最後の最後で、彼女はやっと「ふりはらう」事を覚えた。それなら、そこで水底に逃げてしまうんじゃあ、お話がつまらないんですけど〜。

要のほうは、もう何から何まで納得できない〜。そもそも、要は娘が自分の子であるのかどうか、ちゃんと確かめてないじゃない?妻と話し合ってもないし、DNA鑑定をしたわけでもない。それを確かめもしないで娘を殺したいほど憎んで、不倫に走って、そんな自分から逃げ出したいから風子と一緒に逝っちゃおう!…なんて、もう、わけがわからん。そういえば、その直前まで要は、不倫相手だった夏樹に未練たらたらで、ストーカーか!って勢いで、追いかけていたはずなんだよね。本当にこの人、なんなんだろう…というより、著者はこの人をどういう風に描きたかったんだろう。つかめないまま読み終わってしまいました…。最後に風子にふりはらわれたとき、彼は何を思ったんだろう。それをちょっと知りたいような…知りたくないような。
| さ行(柴田よしき) | 21:15 | - | - |
● 回転木馬 柴田よしき
回転木馬回転木馬
柴田 よしき

祥伝社 2007-03-13

失踪した夫を追い続ける女探偵・下澤唯の前に、忌まわしい過去の事件が浮かび上がる。
渋川さわ子という関係者。
夫の目元を残す美少女…。
夫は唯を本当に裏切っているのか?
希望と哀しみが交錯する著者渾身の感動ミステリー。
「観覧車」「回転木馬」の主人公、女探偵の下澤唯という人物が、私はとっても好きなんです。本当に魅力的な女性だなあって思うんです。柴田よしき作品の登場人物の中で、一番好き。まあ、失踪した夫を一途に待ち続けている妻、という設定であるので、暗いキャラクターではあるんですけど、強くたくましく、不器用なほどに正直で、そして、とても優しい女性です。すごくカッコイイんです。

だから、「観覧車」の続編が出るのをずっと待っていて、「回転木馬」の出版が、とてもうれしかった。そして「回転木馬」を読んでみても、私は下澤唯がとても素敵だと思いました。夫に近付けば近付くほど、夫が自分を裏切ったのであろう事がわかってきて、おそらくもう自分のところには戻って来ないだろうとも思い、それでもただ、もう一度彼に逢いたいというだけの理由で、夫を探し続ける。愛だなあ。切ないなあ。そんな苦しい過程においても、そこで出会う他の人々に対しての、気配りと思いやりを忘れない。偉いなあ。私は彼女にどっぷり感情移入しながら読んで、そして、あのラストに本当に救われました。しみじみとハッピーな気持ちに満たされました。

ただこの本は、下澤唯だけの本ではありません。唯の関わる様々な女性たちの人生も描かれていきます。言美さんの人生は、唯に負けないくらい不幸で辛くて、でも、これからきっと強く生きていってくれそうで、良かったです。唯とお友達になって、これからも付き合い続けてくれないかな、言美さん。渋川雪さん、ね、ラストでいきなりいい人になっちゃいましたけど…やっぱりあなたはずるいと思うなあ。子供作っちゃうなんて、そりゃあ無いよ。

このシリーズはこれで完結だと思いますが、貴之が帰ってきて、唯はどうするんだろうね。ゆいちゃんと一緒に暮らすのでしょうが、家族に同姓同名がいるってややこしいよねえ。貴之は探偵に戻るのかなあ。個人的には、唯にも探偵を続けていってほしいけど、子供を産んで育てて…みたいなごく普通の暮らしにもどるのかなあ、とも思います。
| さ行(柴田よしき) | 17:42 | - | - |
■ 銀の砂 柴田よしき
銀の砂銀の砂
柴田 よしき

光文社 2006-08-22

売れない作家・佐古珠美はかつて、ベストセラー作家・豪徳寺ふじ子の秘書でした。珠美は、恋人だった俳優の夕貴斗をふじ子に奪われ、それをきっかけに秘書をやめました。その後、夕貴斗はふじ子とも別れ、音信不通になっています。ある日、珠美のもとに、フリーライターの島田という男がやってきて、夕貴斗の話を聞きたいと言います。この小説は、夕貴斗に関する数々の謎と、珠美とふじ子のドラマチックな人生を軸に描かれた悲劇です。

小説って内容だけじゃなくて、書き方しだいなんだな、作家さんってすごいな、と思わせてくれた一冊でした。読み終えてみれば、この本で描かれたいくつかの事件や、人間関係や、それぞれの登場人物の心情は、小説の世界ではありきたりなものでした。女同士のゆがんだ友情や、憎しみや嫉妬、それぞれの「欲」や「業」などが、どろどろに、ディープに描かれていました。でもそれは、ほかの似たようなテーマの作品と比べて、際立って深いということでも、突き抜けて「どろどろ」っていうことでもありませんでした。主要キャラクターもみな、レディースコミックか昼ドラに出てきそうな、型にはまったものでした。

それでもこの小説は面白いのです。視点を変えたり、時系列とは違う順番でエピソードを並べることで、謎を作り出し、読者を最後までひっぱってくれる。予想外のところに謎があり、オチがある。小説には、まだまだいろんな可能性があるんだなあ、と、思いました。

私は、柴田よしき=ミステリィ&サスペンスの作家さん、というイメージを持って読んだので、何が謎なの?何が起こるの?と思いながら読んで、この小説に大変満足しました。でも、そう思わずに、女の人生や情念を描いた小説を読んでいるつもりだと、たぶん、ラストに不満が出るんじゃないかと思います。「とってつけたよう」とか、「リアリティがない」とか、言われてしまいそうな気がします。それにやっぱり男性には、このどろどろはわかるまい、という気もします。評価の分かれる本だろうなと思いました。
| さ行(柴田よしき) | 21:08 | - | - |
▲ 求愛 柴田よしき
求愛求愛
柴田 よしき

徳間書店 2006-09

連作ミステリィ短編集。主人公はフリーの翻訳者、弘美。第1話で、弘美は親友の婚約者の死の真相を暴きます。その心の傷も癒えないうちに、第2話でまた友人を殺され、弘美はその事件を、単独で潜入調査までして解決します。この2つの事件をきっかけに、弘美は探偵に転身し、最終的には、最初の事件の黒幕を暴き、自分の心にも決着をつけます。

終始、暗いトーンですすむ本ですし、それぞれの事件の動機は、けっこう黒い。私はこういうのは嫌いじゃないんです。同じ作者の『観覧車』は大好きな本で、よく似ていると思ったし、若竹七海さんの葉村晶シリーズなども似た雰囲気で、私は大ファンなのですから。

だけど、この本は微妙に、弱かった気がします。キレがないというか、中途半端というか・・・。

△ 金と銀の香り
銀木犀の存在を知っている人には、あまり楽しめる部分がありません。弘美が、親友と元彼、それぞれに向ける感情が、もうちょっと濃厚だったり強かったりしたほうがよかったと思います。中途半端でいまいち。

□ 細い指輪
ストーリーは楽しめました。余韻が切なくて、良かったです。でも、病院が弘美に、患者さんのプライバシーをあっさりばらすところからストーリーが始まるので、のりきれず・・・。だって、ありえないでしょう?

□ 憎しみの連鎖
今までは友だちが災難にあうばかりだった弘美ですが、とうとう本人が狙われる事件が起きます。ここで弘美は、探偵に商売変えする決意をするのですが、そして、彼女の性格からしてそれは正しかったとも思うのですが・・・。それまで長いこと携わってきたはずの翻訳の仕事に、執着も情熱もない様子なのが、ちょっとがっかり。正義感が強くて、行動力があって、女の勘も鋭くて・・・それなのに、弘美というキャラクターがいまいち魅力的でないのは、彼女に「自分」がないからだと思いました。友人が殺された事件に、人生をまるごと振り回されているように見えます。

  紫陽花輪舞
弘美は、初仕事で突然少女の尾行を任せられました。

△ 飛魚の頃
浮気調査の話。自分がキラキラ光っていた、「飛魚の頃」の思い出があることを、わたしは羨ましいと思ってしまうのですが、当人には不幸なことなのかもしれませんね。それにしても、この短編の依頼人である旦那、どうしても好きになれない・・・。

○ 復讐
お話としては、これが1番面白かったと思います。でも、この復讐計画は、一か八かの賭けって感じですね。

  求愛
何年か間をあけて発表された、最終短編。弘美が成長して、新しい一歩を踏み出す決意をする物語。その決意が、「求愛」なのです。正直、ラストに不満が大きいです。長編として読んだ場合、一貫性に欠けていると思う。最初の事件がきっかけで、弘美が「求愛」をしなくなっていた、というのならこのラストはおさまりがいい。でも、弘美が恋をしなくなったのはその前からだったと、はっきり書いてあるので、ラスト数ページだけが、とってつけたような不自然さでした。
| さ行(柴田よしき) | 01:02 | - | - |
■ 窓際の死神(アンクー) 柴田よしき
窓際の死神(アンクー)窓際の死神(アンクー)
柴田 よしき

双葉社 2004-12

Ankou(アンクー)
フランス・ブルターニュ地方に伝わる死神。
アンクーを見ると、
自分または自分の愛する人が、死ぬ、とされている。
一見普通の窓際サラリーマンに見える、島野、という男。彼は死神です。普通の人には、見ることができません。彼を見ることができ、彼と話すことができる人には、「死」が近づいているのです。

「おむすびころりん」「舌きりすずめ」の2つの中編が収められています。

「おむすびころりん」のOL、多美には、ずっと片想いをしている男性がいて、彼を思うあまり、彼の婚約者の死を、繰り返し妄想するまでになっています。「舌きりすずめ」のOL、麦穂は、愛人をしながら小説家を目指していましたが、同じ会社の別の女性社員が、自分が応募したのと同じ新人賞を受賞し、小説家になってしまったことで、嫉妬のかたまりになってしまいます。2人にはまだ死ぬ運命の時が来ていたわけではないのですが、彼女たちには、島野が見えてしまいます。運命が、定まらずに揺れているのです。島野と接触したことで、多美も、麦穂も、とある決断を下さなければならなくなります。

日本のおとぎ話を絡めて、ある日突然「死」と向き合うことになった普通のOLを描いた、異色のファンタジックサスペンス。どちらかというと暗い、ドロドロとした女性心理を扱っているのに、なぜかサクサクと読みやすい本。女性の共感を呼ぶ作品だと思います。二人の女性に前向きな結末が用意されているので、読後感もいいです。二つの中編と共に語られる、少年のエピソードが残す、複雑な余韻もたまりません。

伊坂さんの「死神の精度」とどうしても比べてしまうのですが・・・。残念ながら現段階では、「死神の精度」が上だと思います。理由は、「窓際の死神」ではまだ、死神というキャラクターが描ききれていないから。2作しか収録されていないので、しかたないと思うんですけどね。もう何作か作ってエピソードを重ね、「窓際の死神」の魅力、というのがもっと出てきたらいいのに、と、思います。続編超希望です。(でも、この本の構成を見ると、出そうにないけど・・・。)

個人的には、私はアンチ運命論者なので、どちらの本にも特別思い入れはありませんが、「窓際の死神」の「舌きりすずめ」の最後のラストシーンは、ものすごく好きです。
麦穂はその店に座ってワイングラスを傾けている時、感じるのだ。
自分には才能があるのだ、ということを。
創造の神が自分を包んでいるのだ、ということも。
そして、
それは決して幸運なことではなのだと、麦穂は知っている。
いつの日か自分は、想像の神の掌の上で断末魔の悲鳴をあげるのだろう。

たぶんその時、その最後の瞬間に、向かい側の空席に座っているものの姿が、見えるのだろう。

| さ行(柴田よしき) | 14:37 | - | - |
● 激流 柴田よしき
photo
激流
柴田 よしき
徳間書店 2005-10-21

by G-Tools , 2006/05/11





多少のネタバレがあります。

いやー、面白かったですねー。ページを繰る手が止まらない。長い本なのに中だるみを感じることもない。(物理的に重いので、肩こりは感じたけど・・・)。事件は派手なものではないし、謎の数も多くないのに、これだけの長さを読ませるなんて、柴田さんのテクニックを感じます。集中できる場所で、時間のあるときに、一気に読むことをオススメ!

20年前、中学校の修学旅行の班行動中に、冬葉という女生徒が消息を絶ちました。状況から、自分の意思でこっそりバスを降りてしまったと思われ、同じ班だった6人の生徒は、周囲の人々やマスコミから、冬葉をいじめたのではないか、という中傷をされて傷つきました。また、冬葉がいなくなったことに気がつかなかったことで、それぞれに自分自身を責めています。20年たっても冬葉の失踪は謎のままです。

そんなある日、35歳になって、それぞれの生活を送る6人のもとに、「わたしを憶えていますか? 冬葉」というメールが届きます。差出人は本当に冬葉なのか?20年前何があったのか?メールを送ってきたのは誰か?かつてのクラスメートが再会し、当時のかすかな記憶をてがかりに、真相を追います。

謎解きうんぬんよりも、中年といわれる年になってから、中学時代、そしてそれからの自分の20年を振り返る、それぞれの心理描写に読み応えがある本です。

班長だった圭子は、大手出版社の編集者として着実にキャリアをつんできました。しかしプライベートでは、学生結婚した夫が浮気相手に走り、現在離婚協議中です。

ロック少女でクラスでは浮いていた美弥は、小説家・歌手として芸能界で有名になりましたが、麻薬で逮捕されて、現在は多額の借金を抱える身です。ちょうど再起をかけた映画の主演が決まったところです。

中学時代からその美貌でみんなに好かれていた恵子は、モデルとしてデビューしましたが、芸能界が肌に合わず引退。現在は専業主婦ですが、夫がリストラにあって失業中。

鉄道オタクだった豊は、東大を出て一流企業に就職しましたが、現在は窓際に追いやられています。1年前に妻と離婚し、その後つきあった女性からストーカー行為を受けています。

豊の親友で、同じく鉄道オタクだった耕司は、紆余曲折を経て刑事になっています。

副班長だった悠樹は、行方不明になっていて、連絡がとれません。

5人それぞれの職業や立場は、ストーリーのために配置された感じがあり、よく考えればリアリティには欠けるかもしれません。でも、一人一人の心情がきちんと描きこまれていてそこにはリアリティがあったし、ストーリーが面白かったので、全然気になりませんでした。私にとって感情移入しやすかったのは、一番一般人の圭子でしたが、ほとんどの人が誰かに感情移入して読めると思います。しかも、心情的には、どの人物に感情移入していても、未来に希望の持てるラストで、満足感がありました。

謎解きでは、圭子に対する嫌がらせ事件と、担任教師の失踪事件は、真犯人の目論見ではなかったというところが気に入りました。すべてが綺麗に結びついてしまって、すべてが犯人の思惑通りだった、なんてことになったら、あまりのご都合主義展開に、冷めてしまったと思います。

現在(20年後)の奇妙なメール事件の謎解きにも、すごく納得できました。特に、真犯人の弱さと卑小さに。へんに高潔な人間が犯人で、みんなを納得させるような動機で行った事だったりしたら、逆に私は納得できなかったと思います。1人の矮小な人間の悪意が、様々な人の悪意を増幅させ、具現化し、たくさんの悲劇を生んだ。やりきれない真相ですが、説得力はあったと思います。

私は、「なぜ今頃になって、事件をむしかえすのか」の答えは、美弥が復活しようとしている大事な時期だからである、っていう予想を最初のほうでしていました。だから、冬葉が失踪したことで、特に美弥を恨んでいるということは、冬葉の音楽の才能を認め、美弥が成功したことを逆恨みしている人なんだろう、つまり、ピアノ伴奏をしていた人が真犯人だろう、それはきっと冬葉の恋人で、ナガチがそうなんじゃないだろうか、と、そんな予想をしました。ところどころで、微妙にあたっているけれど、全体としては大ハズレでしたね。

20年前の冬葉失踪事件の真実のほうは、ちょっと拍子抜けだったなあ。謎が魅力的だっただけに、えーそんな〜・・・、って感じでした。そこが残念で、1点だけマイナスしました。

ほとんど失踪中で、出番の少なかった悠樹の20年を、もっと詳しく聞きたいと思いました。貴子が最後に話せる状態ではなく、すべてを語れないまま終ったようなのも、気になっています。そんな「もっと知りたい」という「不満」、というか、「余韻」を含めて、この本には大満足です。映画化か、2時間ドラマ化したら、面白いと思います。
| さ行(柴田よしき) | 21:55 | - | - |
▲ 好きよ 柴田よしき
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好きよ
柴田 よしき
双葉社 2002-08

by G-Tools , 2006/04/25




董子の同僚だった愛果は、「好きよ」というたった一言を遺書に自殺しました。2年後、董子は愛果のものとしか思えない指紋が、FAXについているのを発見。その後、董子の身の回りには不可解な出来事が頻発するようになります。愛果の突然の自殺の理由は何だったのか?誰が、誰の事を好きだったのか?

恋愛よりのミステリィだな、と思って読みすすめていたら、だんだん様子が違ってきます。

瀬戸内海の孤島、真湯島には、恐ろしい怪物の伝説が伝えられており、シャーマン的な存在の女系家族が、その怪物を封じてきました。董子はその一族の末裔であり、真湯島にいる祖母が寝込んだことから、島の人々が彼女を探しはじめるのです。これは伝奇小説?怪奇ホラー?SF?ジャンル分けをするのは、不可能な作品でした。柴田よしきテイストが色々つまっていて、ものすごーく読み応えがあります。

愛果の短い人生と、彼女の思いは、胸に迫るものがありました。悲しいなあ。

ただ・・・。ミステリィだと思って読んでいたら、ホラーやファンタジーやSFとして処理されてしまった、というのは、苦手なパターンだったりします。それなら何でもありなんじゃん!と、思ってしまうので。
| さ行(柴田よしき) | 14:14 | - | - |
■ ワーキングガール・ウォーズ 柴田よしき
photo
ワーキングガール・ウォーズ
柴田 よしき
新潮社 2004-10-21

by G-Tools , 2006/04/21





墨田翔子、37歳、未婚、恋人なし。入社15年目、有名企業企画部係長。たまりにたまったストレスを解消すべく、何年ぶりの海外旅行を思い立ちます。ペンギンを見に、ケアンズへ。

そこで翔子が出会ったのが、嵯峨野愛美、30歳、未婚。ケアンズの小さな旅行会社の契約社員です。自分の現状に満足できない2人の生活と、友情を描いた連作短編集。働く女性の本音と弱音が描かれた、応援歌的小説。元気が出ます。

柴田よしきさんの本の中では、そして、いわゆる「負け犬」本としては、ライト。さくさく楽しく読めてしまいます。翔子やその周辺の嫉妬や悪意、愛美の海外コンプレックスや、家族コンプレックスなど、暗いことも描かれていましたが、それも適度におさえられていました。

1人でいるときはうじうじしていても、仕事ができて、責任感があって、部下の相談には親身になって・・・翔子さんはとてもかっこいい。わがままなようで、意外に世話好き、いつも貧乏くじばかり引いている・・・愛美も、なかなか素敵です。

柴田さんって、女性をこういう風にも書けるんだね。「重くて暗くて深くてリアル」な心理もじっくり描ける人が、それをおさえてこんな爽やかな小説を作るというのは、感じがいいです。柴田さんって、引き出し多いなあ、そして上手いんだなあ、と、再確認。こういう小説って、バランスが難しいからねー。

心情的には、2人の女性の抱えるストレスや、迷いや、決断に、いちいち共感できました。でも、実際には、リアルな同世代の女性が共感するには、2人ともちょっと遠いキャラ。どちらかというと「あこがれ」の存在なんですよね。翔子のようなキャリアウーマンにあこがれている人は多いはず。だって社長でもなくフリーの仕事でもなくて、安定収入1000万超なんて、日本の女性でどれだけいることか!しかもマンションがあって、将来有望な部下とちょっといい感じ・・・なんて羨ましすぎますよ。それに、愛美のように、英語を身につけて、海外で旅行関係の仕事をしたい、と夢見ているOLやフリーターが、日本にどれだけいることか!私の友達の中にも3人はいます。

だから、なんというか、一昔前のトレンディドラマのような本でした。こういう2人を主役に持ってきたことで、共感と憧れを両方受け取り、この本を軽やかに仕上げた、柴田さんに拍手。
| さ行(柴田よしき) | 07:17 | - | - |
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