幼い頃に両親をなくし、祖父母の元で暮してきた、菜穂子と和貴子の姉妹。姉の菜穂子は地元の大学に進学し、そのまま大学で遺伝子の研究を続けています。妹の和貴子は東京の大学を卒業後、故郷に戻り、ラジオ局でDJをしています。姉が中学時代に淡い思いを抱いていたクラスメート、樫村と、妹が婚約したことを発端に、2人の間には亀裂が生まれてしまいます。
帯に書いてあったのはここまで。だから、ありきたりの三角関係の物語かと思って読み始めたんです。でも、すぐに、婚約者の樫村くんが亡くなっていることがわかって、いい意味で裏切られました。
樫村くんの死後3年の間に、半ば無意識のうちに2人の溝はどんどん広がっていました。この物語は、そんな姉妹の和解の物語です。思春期に両親を亡くした2人が、悲しみに崩れ落ちることなく、しっかり立とうとしている姿が印象的でした。北緯四十三度の町の、張り詰めた冷たい空気と、凛とした2人の姿が、よく調和していました。男の人なのに、思春期の女の子を嫌味なく書けるなんて、珍しい作家さんですよね。
挿入される、姉の回想シーンと、妹のラジオ番組での語りを上手に使って、姉妹双方の心の動きを丁寧に描いています。浅倉さんは、上手いなあ。
私には姉妹はいないし、両親は健在だし、恋人が死んだこともないです。でも、この姉妹に共感できるところはありました。一度出来てしまった、人間同士の溝を埋める難しさ、というところで。一度狂ってしまった人間関係の歯車というのは、双方が仲直りしたいとどんなに思っていても、本当に難しいですよね。お互いを思う気持ちがあればあるほど、かつてあった絆が強ければ強いほど、難しいのかもしれません。2人は何度も仲直りしようとして、何度も失敗します。そのあたりは、とてもリアルだったと思います。
ただ、残念なことに・・・。ラジオのパートに親近感を覚えることが出来ませんでした。あんなに自分の事ばっかりしゃべる、説教臭いパーソナリティって、かっこいいですか?ああいう人がラジオでは、人気が出るんですか?本当に?
それに、和貴子って、あまりにもその時の気分で仕事をしてますよね。いいの?10代の新人アイドルというのならともかく、20代も後半のプロのDJが、音楽を愛してやっている仕事とは思えない。というわけで、私は和貴子がどうにも好きになれず・・・。
逆に、菜穂子のほうは、個人的に共感しやすいキャラクターでした。典型的な長女体質ですよね。なんでも1人で抱え込んでしまうタイプ。正しいと思うことをやっているうちに、自分の気持ちがわからなくなってしまう。で、妹体質の甘え上手な和貴子のような人に、勝手に頼られたり、勝手に恨まれたりして、振り回されるんだよね。あー、わかる。
中学時代の思い出の人が、妹の婚約者として現れた・・・なんていう背景があったとしても、あの年齢まで他の男性の影がないのはあまりに不自然だよなあ、とは、思ったのですが。菜穂子は樫村の思い出ではなく、母親の最後の言葉「和貴ちゃんのこと頼むわね」に縛られていたんですね。和貴子と和解することで、彼女の心も解放されたんじゃないかと思います。菜穂子、個人の物語は、この本のラストで、やっとはじまったんでしょう。
だから、ラストで真の主人公って和貴子だったのね、という事になり、和貴子が言いたい事を言って幸せになって、物語が終わってしまったとき、なんだかすごく不満でした。とても、いい本だなあと思ったし、どっちかといえば好きな本だと思うんだけど・・・。読了直後は、全然泣くどころじゃありませんでした。残念〜。
そうそう。雪子ちゃんって、あの雪子ちゃんだよね?