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■ 北緯四十三度の神話 浅倉卓弥
4163244905北緯四十三度の神話
浅倉 卓弥
文藝春秋 2005-12

by G-Tools

幼い頃に両親をなくし、祖父母の元で暮してきた、菜穂子と和貴子の姉妹。姉の菜穂子は地元の大学に進学し、そのまま大学で遺伝子の研究を続けています。妹の和貴子は東京の大学を卒業後、故郷に戻り、ラジオ局でDJをしています。姉が中学時代に淡い思いを抱いていたクラスメート、樫村と、妹が婚約したことを発端に、2人の間には亀裂が生まれてしまいます。

帯に書いてあったのはここまで。だから、ありきたりの三角関係の物語かと思って読み始めたんです。でも、すぐに、婚約者の樫村くんが亡くなっていることがわかって、いい意味で裏切られました。

樫村くんの死後3年の間に、半ば無意識のうちに2人の溝はどんどん広がっていました。この物語は、そんな姉妹の和解の物語です。思春期に両親を亡くした2人が、悲しみに崩れ落ちることなく、しっかり立とうとしている姿が印象的でした。北緯四十三度の町の、張り詰めた冷たい空気と、凛とした2人の姿が、よく調和していました。男の人なのに、思春期の女の子を嫌味なく書けるなんて、珍しい作家さんですよね。

挿入される、姉の回想シーンと、妹のラジオ番組での語りを上手に使って、姉妹双方の心の動きを丁寧に描いています。浅倉さんは、上手いなあ。

私には姉妹はいないし、両親は健在だし、恋人が死んだこともないです。でも、この姉妹に共感できるところはありました。一度出来てしまった、人間同士の溝を埋める難しさ、というところで。一度狂ってしまった人間関係の歯車というのは、双方が仲直りしたいとどんなに思っていても、本当に難しいですよね。お互いを思う気持ちがあればあるほど、かつてあった絆が強ければ強いほど、難しいのかもしれません。2人は何度も仲直りしようとして、何度も失敗します。そのあたりは、とてもリアルだったと思います。 

ただ、残念なことに・・・。ラジオのパートに親近感を覚えることが出来ませんでした。あんなに自分の事ばっかりしゃべる、説教臭いパーソナリティって、かっこいいですか?ああいう人がラジオでは、人気が出るんですか?本当に?

それに、和貴子って、あまりにもその時の気分で仕事をしてますよね。いいの?10代の新人アイドルというのならともかく、20代も後半のプロのDJが、音楽を愛してやっている仕事とは思えない。というわけで、私は和貴子がどうにも好きになれず・・・。

逆に、菜穂子のほうは、個人的に共感しやすいキャラクターでした。典型的な長女体質ですよね。なんでも1人で抱え込んでしまうタイプ。正しいと思うことをやっているうちに、自分の気持ちがわからなくなってしまう。で、妹体質の甘え上手な和貴子のような人に、勝手に頼られたり、勝手に恨まれたりして、振り回されるんだよね。あー、わかる。

中学時代の思い出の人が、妹の婚約者として現れた・・・なんていう背景があったとしても、あの年齢まで他の男性の影がないのはあまりに不自然だよなあ、とは、思ったのですが。菜穂子は樫村の思い出ではなく、母親の最後の言葉「和貴ちゃんのこと頼むわね」に縛られていたんですね。和貴子と和解することで、彼女の心も解放されたんじゃないかと思います。菜穂子、個人の物語は、この本のラストで、やっとはじまったんでしょう。

だから、ラストで真の主人公って和貴子だったのね、という事になり、和貴子が言いたい事を言って幸せになって、物語が終わってしまったとき、なんだかすごく不満でした。とても、いい本だなあと思ったし、どっちかといえば好きな本だと思うんだけど・・・。読了直後は、全然泣くどころじゃありませんでした。残念〜。

そうそう。雪子ちゃんって、あの雪子ちゃんだよね?
| あ行(浅倉卓哉) | 13:25 | - | - |
▲ 雪の夜話 浅倉卓弥 
4120035840雪の夜話
浅倉 卓弥
中央公論新社 2005-01-22

by G-Tools

和樹は、高校生のとき、雪の公園で不思議な少女・雪子に出会います。年を取る事がなく、他の人には見えないらしいその雪子は、成長していく相模の前に、ときどき姿をあらわします。

和樹は、美大に入り、在学中からデザイン事務所でアルバイトをし、そのまま商業デザイナーとして就職。非凡な才能を認められるものの、社長の庶子である上司に気に入られていた事や、相模自身も人間関係に無頓着であったことから、ねたみをかい、追われるように会社をやめます。

傷つき挫折した和樹の再生の物語に、雪子がからんでくる・・・そういう物語です。命とは何か、人は死んだらどうなるのか、そんなテーマも含まれています。

すべてが手作業だったデザイン・印刷業界に、Macが進出してきたあのころ、というものには、個人的な思い入れがあるので、前半は面白かったです。和樹の仕事ぶりをずっと読んでいたかったなあ。和樹を囲む少ない人々のキャラクターも印象的。会社の成長と、社内の派閥争い、それに気がつく人、つかない人の対比もリアルで読ませます。

でも作品としては、すごくまとまりのない印象。言いたい事がありすぎて、テーマが絞りきれずに、散ってしまった感じ。絵画・色彩・デザインというもののイメージと、雪子の物語のイメージが最後まで融合しなかったなあ、と、思います。白い世界の中の白い少女、と、和樹が住んでいるカラフルな世界を対比させたかったのかなあとも思いますが、あんまり効いてない。雪子の物語を大事にするなら、和樹の職業は、視覚的でないものにするべきだったと思います。同じようにクリエイティブだけど、孤独な職業って、たくさんあるんだから。

浅倉卓也さん、大仕掛けのあるエンターテイメント系の小説のほうがむいているみたいですねー。それから彼は、「純真」とか「無垢」とかにこだわりがあるのかな。この本はイマイチだったけど、前の2作がよかったから、次の作品に期待します。
| あ行(浅倉卓哉) | 00:59 | - | - |
● 君の名残を 浅倉卓弥
4796641335君の名残を
浅倉 卓弥
宝島社 2004-06-15

by G-Tools

★★★★☆

幼馴染みの白石友恵と原口武蔵は、それぞれに男女の剣道部の主将を務める高校生。小さい頃から共に剣の腕を磨いてきました。ところが2人はある日、友恵の友人由紀の弟・志郎と共に、平安時代末期の世界へタイムスリップしてしまいます。

コバルト文庫(女の子向けライトノベルの老舗です)に、きっとシリーズという倉本由布さんの歴史恋愛小説があります。かなり人気があって、20冊以上出たと思います。「君の名残を」を読み始めたとき、すぐにこのシリーズと重なりました。タイムスリップで過去に飛ばされた主人公が、歴史上の有名人と恋に落ち、結婚をし、子供を生み、気がつけば自分も、歴史上の有名人になっている。きっとシリーズの最初は、女子高生の濃子が、織田信長の妻・濃姫になるストーリーでした。この「君の名残を」では、友恵と武蔵という名前の2人が過去に飛ばされます。と、くれば、巴御前と、武蔵坊弁慶だな。と、大河ドラマの「義経」を見ているので、すぐに思いついてしまいました。と、なれば、2人が敵同士になってしまう、切ない系の恋愛小説なんだな。まるで少女小説!と、勝手に思ってしまいました。

前作「四日間の奇蹟」がかなり良かったので、期待していたのですが…。あれはまぐれかな、やっぱり2作目でコケたかなと、思いました。

ところが。ここでなめてかかってはいけませんでした。

この小説、この後、かなり骨太な歴史小説をちゃんとやっていくんです。「タイムスリップ」や「恋愛」の要素はあくまでもスパイスで、平家物語を元にした歴史小説の部分が大きい。過酷な運命を二重三重に背負い、苦しみながらも、義経を守って戦い続ける武蔵。愛する人(木曾義仲)の死という歴史上の事実に、懸命に逆らおうとする巴。後半では、意外に重要だった士郎の役割も明らかになります。ややご都合主義な感はありますが(まあ、ご都合主義でないタイムスリップ小説なんて読んだことないですけど…)、筆力があるので、どっぷりひたれます。文章に貫禄があるんですよね。いくつも賞を取った有名な作家さんが、新しい分野にチャレンジしたような雰囲気。これが2作目だなんて…絶句です。タイトルも素敵ですよねー。歴史小説に抵抗がない方には、オススメできます。

それから、私は女だからどうしても友恵ちゃん目線でばかり読んでしまったのですが、それはちょっと失敗でした。この本は、絶対に、武蔵君目線で読むべきです。絶対です。(武蔵君目線でも、と言うべきですね。)男性なら、そして女性でも武蔵君目線で読めば、この本のラストシーンは、感動ものです。
| あ行(浅倉卓哉) | 16:00 | - | - |
● 四日間の奇蹟 浅倉卓弥 
4796630597四日間の奇蹟
浅倉 卓弥
宝島社 2003-01-08

by G-Tools

★★★☆☆

ピアニストの如月は、海外留学中に銃撃戦から7歳の少女の命を助けますが、その時に、千織というその少女は両親を失い、如月は左手の薬指の先を失って、ピアニストとしての生命をたたれてしまいます。

その後帰国した如月は、千織の脳に障害がある事を知り、また、彼女に天才的な音楽の才能があることも知るようになります。如月と千織、そして、2人が向かった山奥の診療所で出会う、そこのスタッフで如月の後輩、真理子、この3人に四日間の奇蹟が起こります。簡単に言ってしまえば、挫折した音楽家の心が癒され再生される物語、です。上品で感動的な小説です。来年、映画化されるらしいです。きっと私は見に行きます。私が好きな種類の小説でした。

興味深かったのは、「弾く自由を奪われたピアニストに、もう一度鍵盤に向かえるとしたら、どの曲を弾くか」という自問に対して、如月が、「10人中9人が、ベートーベンのピアノ・ソナタ、「月光」だろう」と答えているシーンです。これはいくらなんでも言いすぎだろうと思うけど、(だってピアノ曲は無数にあるのに9割が同じ答えなんて、ねえ。)弾いて気持ちがいい曲、っていうのは確かにある。その快感は、楽器に魂を奪われた人にしかわからないし、それに、挫折した時にしか本当に実感はできないと思う。それは、名曲でなければならないし、好きな曲でなければならないし、死ぬ思いで身につけた技術を思う存分に発揮できる曲でなければならないし、余韻を残して終わらなければならない。私はバイオリンの曲から、その1曲を選ぼうとしてみたけど、できませんでした。難しすぎる。

さて。かなり感動したのに、★★★☆☆、というこの評価なのはなんでかといいますと。まず、1つ目の☆はあまりにもこの本が、とある有名な作品にそっくりだったからです。完全にネタバレになってしまうのでその作品の名前は出せませんが。

新人賞をとったこの作品には、選評というものが4人分ついています。4人が口を揃えて言っているのは、先行作とネタがまるっきり同じだったとしても、全く別の作品に仕上げているし、完成度の高い作品だ、という事でした。先行作とネタが同じだという点を、鬼の首をとったかのように言い立てる読者は、狭量だそうです。ええ、私は狭量な読者ですよ。でもね、だってね、私はその「先行作」がとても好きだったんだもの!

確かに、ストーリーは全然違います。でも、ミステリーを名乗るなら、タネと仕掛けは大事でしょう?同じネタを使って、似たような作風で本を出すなら、先行作をどこか一箇所でいいからこえるものであってほしい。新人だと思えないような貫禄のある作品だとは、私も思いました。新人賞だって聞いてびっくりしました。でも、先行作をこえてはいない。と、思う…。キャラクターの魅力で負けてる。小道具の使い方で負けてる。作品の厚みというか、「ネタ」の中心人物の心境の複雑さというか、その描き方の部分でも負けてる。悪くも下手でもないんですよ?でも、私はその「先行作」が好きだったの!それとどうしても比較しちゃうから、なあ…。この著者、勇気はあるよね。比べられちゃう事はきっと覚悟してただろうから。

もう1つの☆は、イデオ・サヴァンに関する調査が足りないか、あるいは、あえて描かなかったのか分からないけど、千織の障害に関する説明に説得力がないことです。それに、その設定があまり生かされていないような気がする。だから、奇蹟後の千織の変化に関しても、どう解釈させたいのかよくわからない。篠田節子さんの「ハルモニア」を思い出したのですが、あの中では、確実にゆきさんはイデオ・サヴァンでなければならなかった。でも、この小説において、千織をイデオ・サヴァンであるという設定にする必要があったのかなあ。両親を殺されたショックで口がきけなくなった、でも、音楽的な才能はずばぬけていた、その設定で十分だったような気がします。よくある「脳の不思議」みたいな部分でミステリーを味付けしたかったんだとしたら、それはちょっとよくばりだったかも。

あーあー。けなしすぎちゃったなあ。でも、この本は好きなんですよ。オススメです。泣けます。泣きました。本当です。基本的に私は、好きでオススメだった本の感想しか書きませんから。
| あ行(浅倉卓哉) | 00:52 | - | - |
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