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■ 黒髪 谷村志穂
黒髪黒髪
谷村 志穂

講談社 2007-11-27
ただひたすらに、ひとりの男を愛した女の物語
ロシア人との命懸けの恋 恋愛大河小説の最高傑作

1930年、高田さわは函館のロシア人家庭に女中奉公に出た。そして、いつしか、主人のドミトリーと恋に落ちてしまう。戦争という激動の時代の中で、国境を越え、恋に生きた1人の女。『海猫』の谷村志穂最高傑作

一つにまとめていた髪が解かれた。そのとき、真っ黒な光沢のある髪が滑り落ち、彼女の肩や首筋を覆い、命が広がって見えた。そこに命が漲っていた。――<本文より>
夫と共に3人の娘を育て上げ、可愛い孫にも恵まれて、平穏な毎日を送っている60代になるりえ。幼いころから自分の出生について疑問を抱いていた彼女が、自分のルーツをたどりる物語です。

並行して、りえの実の母親である、さわの人生が描かれます。1930年の函館。貧しい農家の娘だったさわは、亡命ロシア人の屋敷に奉公に出ます。戦争へ突き進んでいく、外国人への偏見に満ちた当時の日本で、さわはそこの主人と不倫の恋をし、彼の子供を産み、最終的には彼を追いかけて太平洋戦争の真っただ中に、大陸へ渡ることになるのです。

ロシア革命もロシア文化も日露外交史も、学生時代に勉強したはずだけど、それを個人のレベルで捉えた事は一度もなかったので、この本はとても新鮮でした。

この小説はもちろん、ひとりの男性をひたすらに愛した女性の一代記であり、恋愛小説なのですが、その部分はあまり好みではないです。谷村小説で描かれる恋愛は、なんだか芝居がかりすぎている気がして、私はところどころで冷めてしまいます。ラブシーンがやけに多く長く生々しいのも、マイナスポイントに感じられる事が多いし。

だから恋愛部分だけなら、ああ谷村小説だなあ、似たようなの前にも書いてたよなあって、好きでも嫌いでもなく、感動もなく、けっこういい小説だと思いながらも、辛口の記事をアップして、終わっていたと思います。個人的には、正直「海猫」も「余命」もそんなに高く評価してないし。

でもこの「黒髪」については、いい小説に出会ったな、と、素直に思っています。時代背景を丁寧に描いているというだけで、こうも小説に厚みが出るのか、というより、こうも自分の中での評価が変わるのか、と、びっくりです。
| た行(谷村志穂) | 22:11 | - | - |
● 静寂の子 谷村志穂
静寂の子静寂の子
谷村 志穂

祥伝社 2006-07

北海道で、子供相手の学習塾兼、自然体験ツアーの企画運営を営む「Burns」。「Burns」は、アウトドア体験の豊富な夫、靖季が主催者であり、中心人物です。妻である百合香はお嬢さん育ちで、両親にはろくな学歴もない靖季との結婚を反対されていますが、まっすぐに彼を慕い、常に夫として彼を求め、彼との間の娘を大切に育てています。

物語は、「Burns」のメンバーであった戸田勇の水難事故死から始まります。勇の二人の子供が「Burns」に通っており、それをきっかけに勇も、水への恐怖心を克服し、泳げるようになったのです。しかしある日、勇は、1人で危険な海に潜り、なくなってしまいます。

この事故に責任を感じた靖季が、百合香や娘と距離をおきたいと考え、勇の未亡人である理津子と、その子供たちを慰めようとして、彼らに接近していった事から、2つの家族にも、「Burns」にも亀裂が生まれ、人間関係がそれぞれすれ違っていきます。

靖季、という人物は、「すべての人に愛を与えたい」などという、実際には不可能な理想論を口走ってしまうロマンチストでありながら、やっていることはその場その場の感情に流されるだけの「少年の心を持ち続けている」人です。私はかなり早い段階で、カリスマ的な存在でみんなの憧れであると描写されている彼を、嫌いだな、と、思ってしまいました。でも、この小説の前半部分では、靖季は勇の死に責任を感じ、彼の遺族を思いやる善意の人として描かれます。

一方、彼の妻、百合香は、夫がいない寂しさを、他の男との肉体関係で埋め合わせようとするような女として描かれていきます。靖季からすると、ヒステリックで情緒不安定で、娘の面倒もろくにみれない、やっかいな女として描かれます。そして、対照的に、勇の未亡人である理津子は、女性らしい、しなやかなたくましさを持った、魅力的な人物として描かれます。靖季はみるみる理津子に魅かれて行きますが、あくまでも善意の人である靖季は、理津子と不倫関係をもとうなどという下心はない、ということになっています。

ああ、本当に靖季ってダメ男じゃん!だからって、百合香もダメじゃん!・・・というわけで私は、個人的に、前半を読んでいる間、主人公の二人に不満だらけでした。このまま靖季が理津子とくっつくようなことがあったら、この本のことは永遠に忘れてしまおうと思ったくらいです。私、靖季タイプの人間を個人的に知っていて、その人の身勝手に、かなり迷惑した経験があるので、「一見、善意の人。でも実は、勝手な人。」って本当に嫌いなんです。

でも、さすが、谷村さん。主要登場人物それぞれの深層心理をちゃんと描き、それぞれにエピソードを与えてちゃんと成長させ、さりげなく視点を逆転させて、私の不満を解消してくれました。北海道の自然を背景に読後感の良い物語に仕上がっていました。ラストシーンはかなり型どおりでしたが(「余命」に雰囲気が似すぎ・・・)、いい本でした。

| た行(谷村志穂) | 07:48 | - | - |
■ 余命 谷村志穂
余命余命
谷村 志穂

新潮社 2006-05-30

外科医の滴は、自分が結婚10年目にしてやっと妊娠したことを知りました。しかし同じころ、14年間恐れ続けてきた乳がんの再発にも気がついてしまいます。妊娠は、体のホルモンバランスに影響を与えるため、がんを進行させてしまう可能性があります。高齢出産であることもあり、誰からも出産を反対されることは必至。でも、滴は、どうしても産みたいと考えます。

って、もう、出だしを書いただけで、泣けるじゃないですか。ついでに、ストーリーもだいたいわかるでしょう?泣くに決まってるじゃないですか。ええ、私も泣きましたよ。号泣。

ファンタジーぬきの市川拓司さんって感じです。「いま、会いにゆきます。」系が好きな人は、きっとこの本も好きだと思います。(性別の違う作家さんなのに、2人の作家さんの、セックスシーンの雰囲気が似てるなあ、と、感じるのは不思議ですね。)

でもね。一晩たって、冷静になるとね。そんな名作ってわけでもないっていうか、なんで昨日はあんなに泣けたんだろう、と、思うような本です。(たぶん、飲み会で摂取したアルコールが残っていたせいでしょう。けして、年のせいではなく。)

もちろん、自分の命を削ってでも、新しい命を生み出そうとする滴の思いは感動的なんです。滴と、生まれてきた子供を守っていく夫、良介との絆も素敵なんです。滴が胎児やがんをエコーで見るシーン、がんの花が咲くシーンなど、描写力に圧倒される力強いシーンも印象的なんです。この本の良さは、良さとして、あるんです。

でも、どうしても納得できないことが2つあって。

まず、妊娠中の検診も、乳がんの検査も、自分でできる立場の滴ならではのことではあるけれど、なんで乳がんを治療しないで放置するわけ?

そもそも滴は医者で、乳がんの経験がある。妊娠中にもできる治療があることくらい知っていたはずだと思うし、知らなかったとしても簡単に調べられる立場にあった。もしかしたら、こっそり自分を治療することくらいはできたかもしれない。そうしようと思えば協力してくれそうな友人の医師もいる。なんで、出産したいからって、自分の治療を放棄しなくちゃいけなかったの?治療しろよ!子供に命を託すって言ったって、自分の命をあきらめる理由にはならない!納得できません。

結局、夫、良介を自立させるために、すれ違いエピソードが欲しくて、そのために彼に病気を秘密にする必要があったってことなのかなあ・・・?。いや、まさかそんな流暢な・・・。そうそう、そういえば、この、滴の秘密主義も、2つめの納得できない点なんだよなあ。誰に反対されたって、産むって決めてたんだから、良介には言わなきゃだめじゃん。こんなに大事なことを、妻に秘密にされた良介に、ひたすら同情してしまう。この物語、夫婦の強い愛の物語として成立しちゃっているんですけれど、こんな大きな嘘と秘密が夫婦の間にあったら、後々まで感情的な亀裂をひきずってしまってもおかしくはないと思う。そうならなくてよかったけど・・・良介の寛大さに拍手。

それに、こんな言い方は冷酷なようですが・・・余命、長すぎ。予想より余命が長かったなんて、よくある話ですが、だからこそ、ここまで延ばされると・・・私の涙を半分返してって感じで・・・。そのあたりのロマンチストぶりも市川拓司さんを思い出しました。

というわけで、忘れたころに冷静に再読し、もう一度ちゃんと感じたり評価したりしたいなあという一冊です。
| た行(谷村志穂) | 20:41 | - | - |
雀 谷村志穂
photo
谷村 志穂
河出書房新社 2004-10-22

by G-Tools , 2006/05/29

かつてはダンスと言う同じ夢を追った、学生時代からの5人の女友達の物語。みんなそれぞれに、ダメなところのある女たちで、仲間はみんなその部分を知っていて、反感を持ったり、ぶつかったりしながらも、友情は続いていく。友情っていいですよね。学生時代からそれが途切れずに続いているという部分だけは、ちょっと羨ましい気もしました。

でも、この本の中の友情って、共依存っぽくてあまり健全には見えなかったなあ。個人としてはそれぞれに幸せではないからこそ、結びついている5人って感じで・・・。5人それぞれに、テレビドラマみたいな設定と悩みを与えたことで、やたら薄っぺらくみえてしまったし。だから友情小説としてイマイチな仕上がりで、その部分には序盤で期待させられて読み進めたただけに、残念でした。

それに、恋愛小説としては最初から最後までイマイチで・・・。

主人公は、お金持ちの愛人と暮す、雀。雀は、誰とでも寝てしまう。気に入れば、その部屋にいついてしまう。働いたこともなく、その時々の男に小遣いをもらって暮している。

彼女の事を、作者はあとがきで「純粋」だと言っています。確かに、彼女の友達思いなところや、物欲があまりなくて、気前よく人に物を与えるところなどを見ていると、良いところもたくさんあるんだろうとは思います。ブランド物のバッグより、セックスと物語を聞いてもらうことに喜びを覚える部分なども、無邪気で可愛らしく、それを純粋といえなくもないような気もしないではないような・・・うーん。

私は、彼女にまったく共感できません。どっちかというと、嫌いなくらい。「誰とでも寝る女」という段階で、道徳観的にアウトなんですが、そこにもっともな理由や、同情すべき余地が多少あれば、小説の登場人物としては許せる。けれど、彼女にはそれがなく、ただ楽をしているだけなんです。いくら物欲がないからって、生きていくために必要な分すら、働こうとしないなんて、人間としてどうなのよ。そして、さんざん甘やかしてもらったパパが、癌だとわかったときの冷たすぎる仕打ちはなんなのよ。パパの要求を受け入れるかどうかは、もちろん雀の自由だけど、人に優しくないにもほどがあると思います。そして、最終的には、母親になろうというときにまで、まったく現実を見つめることなく、女友達にどっぷり頼って流されて、それを「友達が家族だから」、などと表現する、その甘えた根性はなんなのよ。そして、そういう彼女に棚ボタの幸せを与える、この小説ってなんなのよ。

谷村志穂さん、けっこう好きな作家さんなんですけど、この本は、全体的に残念でした。
| た行(谷村志穂) | 14:56 | - | - |
▲ エデンの旅人たち 谷村志穂 
4087487660エデンの旅人たち
谷村 志穂
集英社 1998-03

by G-Tools

大学を卒業して1年。20代前半の男女の仲間の恋愛と成長を描いた物語。平成六年の作品だが、古さは感じない。「青春の終わり」と言えばいいのだろうか、誰もが一度は通る道という感じの、ぎっしりつまった本でした。

長さのわりに、主要登場人物が多い。ハードカバー220Pで、7人のグループの男女の恋愛模様を描いていて、当然、それ以外にも7人の誰かにとっての大事な人、という役割で登場する人がいるわけで…。極端に言うと、誰が誰だかわからないうちに、話が終わってしまった、という印象。女性3人はともかく男性は、誰が誰やら…。誰に感情移入することも出来ず、主人公である茗子は、私にとってはイマイチ魅力的ではなかったので、印象の薄い本だった。

それにしても、青春の終わりには、エデンがあるの?あったかな〜?
| た行(谷村志穂) | 23:24 | - | - |
■ 海猫 谷村志穂
4104256021海猫
谷村 志穂
新潮社 2002-09

by G-Tools

再読。出てすぐに読んで、谷村さん、気合入ってるなあ〜、と、思った。内容を忘れた頃に映画化されて、その映画を見たとき、物足りないなあ、って思った。原作の中の何かとても重要なものが、映画では描かれていないなあって思った。でも、その「何か」を忘れちゃってたので(笑)、もう一度読もうとずっと思っていた。

前半は、北海道で昆布漁をする家に嫁いだ、ロシア人と日本人のハーフの女性の物語です。映画化するより、昼の帯ドラマにしたほうがよかったんじゃないかと思う。ドロドロ系恋愛文学。「運命の歯車は再び狂い始めた」というようなナレーションが入りそうなストーリーです。

主人公の薫は、夫との間に娘をもうけた後、夫の弟と恋に落ち、義弟の娘をも産みます。嫉妬に狂った夫と姑に監禁され、衰弱し、最終的には、彼女を助け出そうとした義弟と、追いかけてきた夫の争いを止めようと、自殺してしまいます。義弟もすぐに後を追います。ここまでが前半です。

映画では、ここまでを中心に描いていたんです。だけど、わたしには、その後のほうが面白かった。残された薫の二人の娘の物語です。薫の夫の子供である長女と、義弟の子供である次女は、薫の母・つまり二人の祖母にあたるタミに育てられる事になります。

この後半部分でやっと、薫という人の人間像が見えてくる気がします。そしてタミの人生、娘たちの人生、それぞれのつながり。後半部分がなければ、前半は本当に昼ドラかレディースコミック。後半があってこそ、「文学」だと思います。(文学の定義、とか、わかんないけど・・・なんとなく。)映画でも、なんとかこの部分を描こうとがんばってはいたのですが・・・いかんせん、時間の制約があるせいか描ききれていなかった。ただ、薫役の伊東美咲の美しさと、演技の初々しさばかりが目だっていました。

女性による、女性のための物語。様々な女性の生き方を描いた大作です。共感できない部分も多いのですが、読み応えはありました。函館の描写がとても素敵です。旅行したくなります。
| た行(谷村志穂) | 02:10 | - | - |
▲ 白の月 谷村志穂 
4087747336白の月
谷村 志穂
集英社 2004-11

by G-Tools

大人の恋愛小説集。どれも「妊娠」にまつわる小説です。そんなに分厚い本ではないのに、8篇収録なので、短いストーリーばかりです。だけど、読み応えがありました。

・冬瓜色
腎臓に障害のある妻が妊娠した。出産には大きなリスクが伴うといいます。この事態に関する意見の相違が、一気に二人の関係を壊します。

読み終わってみれば、これが一番心に残っています。なかなか重いテーマです。

・卵色の愛
優しい夫がいて、生まれたばかりの子供はとてもかわいくて。でもなぜか、梨花は母親になった実感も、自信ももてずに、追い詰められていきます。子供をベビーシッターにあずけ、旅に出た梨花が出会ったものは・・・。単純な育児ノイローゼの話かというとそういう事でもなくて。うまく言えないけど、癒し系でした。でもこんなにいい旦那さん、うらやましー。

・白の月
妊娠8ヶ月。子供の父親にプロポーズされている。それなのに、入籍も、同居も迷っている美咲。彼女には、忘れられない過去の不倫の経験がありましたとさ。

基本的に、不倫小説が嫌いなので、どうもこの話に共感はできなかったんだけど、美咲の新しい恋人・伸之が、なんとも素敵な人で、印象的でした。
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