| 銀の犬
光原 百合
角川春樹事務所 2006-06 |
今回光原さんはミステリィではなくて、ファンタジーです。そういえばもともと、童話や詩を研究されている方なんですよね。
どうやら、声なき楽人(バルド)シリーズというシリーズものの第1作らしいです。声を失った祓いの楽人オシアンと、その相棒、少年ブランの物語。あとがきによると「ケルトの民話に触発されて生まれたひとつの異世界の物語」だそうで、ケルト民話に登場する妖精や妖魔が次々と現れる、連作短編集になっています。
オシアンは祓いの楽人(バルド)なのですが、祓いの楽人というのは、竪琴の音によって、この世の理を正す力があります。・・・まあ、日本で言うところの、幽霊を成仏させる力があるんです。未練があってこの世にとどまっている魂を、あの世に送ることができる。他にも、川の氾濫をおさえたり、天気を操ったり、怪我や病気を治したりもできるらしい・・・って、ほとんど万能の神みたいな存在ですね。この祓いの楽人というのは、たぶん、光原さんのオリジナルです。彼のなにやらいわくありげな過去は、まだ明らかになっていないので、気になるところです。
□ 声なき楽人
子供の頃から竪琴の名手で、将来を期待された才能ある楽人だったフィル。彼は、「歌比べ」に出場するための旅の途中で、物取りと思われる何者かによって、殺されてしまいます。その後しばらくして、荒野にフィルの霊と思われるなにものかが出て、竪琴の調べで人を害する、という噂が出ます。フィルの幼馴染で婚約者だったモードは、真相を確かめようとします。
モードとフィルの関係が、かわいくって、大好き。小さな恋の物語って感じですね。本当にお似合いの2人です。悲しい物語だけど、明るいラストでよかった。
△ 恋を歌うもの
どんな異性の心も、おもうままに操れる「恋をうたうもの」、妖精族のガンコナーはある人間の娘を愛するようになり、彼女を妖術を使ってしばり、共に暮らすようになります。しかし、2人の生活は悲劇的な結末をむかえ・・・
スカボローフェアーが出てきたのが嬉しかった。この曲は大好き。
□ 水底の街
人生をやり直すことが出来る街がある、という噂を聞いて、イースの街にやってきたロディの物語。「水の底の夢見る街」というイメージは幻想的で素敵でした。
ちょっと、「流星のワゴン」重松清 を思い出しました。
○ 銀の犬
幸福な新婚生活を送っていた若妻、リネットは、可愛がっていた忠実な飼い犬のクーに、噛み殺されました。クーは、獣使いによって呪いをかけられ、主人に逆らえないように縛られていたにもかかわらず、です。愛情と呪い、二重の絆で飼い主と固く結びつけられていたはずの犬に、いったい何がおこったのか。
これも悲恋の物語でした。
○ 三つの星
世継ぎの王子トゥリン、旅芸人だった親を失い、子供の頃から城でトゥリン王子の遊び相手として育った騎士のフィン、ある失われた国の王女で、トゥリン王子の婚約者ディアドラ。仲の良い幼馴染だった3人は、トゥリンの即位とディアドラとの婚礼を前に悲劇をむかえます。フィンとディアドラは不義密通を疑われて城を逃げ出し、追ってきたトゥリンに殺されるのです。しかし、事の真相は別のところにありました。
オシアンはどのように、3人の魂を癒すのでしょうか?
最後の2作は、本当に悲しい物語で、ケルト民話の雰囲気が他の物語より濃厚に感じられて良かったです。どこかで聞いたことのある名前やエピソードがちらほら。私は特にケルトの民話に詳しくないんですが、大学時代の語学の先生の専門がケルトの文化で、教材として扱われたので、記憶がよみがえりました。懐かしかったです。
どのストーリーも恋愛がらみで、死者の魂を送るというパターンが繰り返されるので、もうちょっとバリエーションが広がってくれたほうが嬉しかったかなあ。それから、声を失ったオシアンの調べを、聞き取り、説明をするブランが、大事な場面でしゃべりすぎ。そのしゃべりも「子供らしい」感じなので、たまに雰囲気を壊している気がしました。
でも、透明感のある、哀愁を帯びた、素敵な短編集ではありました。完全に、女性向けだと思います。
私としては、このシリーズの続きも楽しみではありますが、ミステリィのほうもよろしく、って感じです。