事件が終った後におこる人間ドラマを描いた短編集。
うーん、すごかった。
横山さんの本は、どれも、硬くて、暗くて、重くて・・・。だから私は、横山さんの本を「すごい」「上手い」「面白い」とは思っても、「好きだ」という自覚をしていなかったんです。でも、私はどうやら横山秀夫さんが、かなり好きみたいです。とうとう自覚しました(笑)。私の中で、「好き」の新しいベクトルです。
以下、印象に残った順に・・・。
・花輪の海
大学の空手部の合宿中に、仲間の1人が亡くなりました。全員、先輩たちからの暴力的なしごきに、気力も体力も極限状態に追い込まれていました。亡くなった1人は、真っ暗な海での練習中に、力尽きて溺れたのです。主人公は、その事故により合宿が終るという事が「人生で1番嬉しかった瞬間」であり、その感情に、いまだに罪悪感を持っています。
12年後、その思い出を共有する5人の仲間たちが再会する事になります。仲間の死を、それぞれがどんな風に背負ってきたのか。本心が初めて語られます。
これがこの本の中で、1番印象的な作品でした。描かれた事件は陰惨で、関わった人の心情も苦くて重い。でも、ラストがすごく素敵!そのコントラストにしびれました。
・他人の家
強盗の前科のある男は、罪を償って出所した後も、就職をすることや、アパートを借りる事に苦労しています。いまのアパートの大家にも、過去がばれて、立ち退きを迫られています。そんなとき、近所の老人が「自分の養子になって、自分の家に住み、名字を変えないか?」と、申し出てくれます。
うますぎる話に不安を覚えながらも、嬉しそうな妻のために、老人の申し出を受けた主人公。老人の真意は、彼の死後に明らかになります。この作品は上手かった!終盤の展開は圧巻です。
奥さん側から見た同じストーリーを読みたいなあ。何不自由なく育ったお嬢さんが、強盗犯を愛してしまったために、送ることになってしまった人生。どんな感情が混ざり合っているのか・・・。
・真相
自慢の息子を殺されて10年、ようやく犯人が捕まりました。しかし、それは、新たな苦しみの始まりでした。犯人の語る殺人事件の「真相」、娘が語りはじめた息子の親には見せなかった一面。子供への「愛」の強さを比べる事は出来ないけど、やはり母親のほうが問答無用な感じで、心を乱される父親はとてもリアルでした。
・18番ホール
秘密の「ある理由」から、村長選挙に出馬することになった樫村。彼はその「ある理由」から、どうしても勝たなければなりませんでした。しかし、絶対に勝てるから、と、説明されていた選挙戦に強力な対抗馬が登場し、票を伸ばしていきます。味方の誰かが、「ある理由」を知っている敵側のスパイではないか?と、疑心暗鬼に陥った樫村は・・・。
この話は、絶妙なタイミングでストーリーが終っており、かなり引きずります。えー!それで結局どうなったの?誰か私に教えて(泣)
・不眠
リストラされた中年男の悲哀が、読んでいて苦しいほどに出ていた短編。ある交通事故に関わった事で、彼は変わります。複雑な読後感で・・・これはなんて言ったらいいのか・・・。