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● 出口のない海 横山秀夫
出口のない海出口のない海
横山 秀夫

講談社 2004-08-06

神風特攻隊員の話はよく知られていますが、この本で描かれているのは、その潜水艦版とでも言いましょうか。爆薬をたくさん積んだ、脱出装置のない潜水艦で、敵の船に突っ込んでいく。人間魚雷「回天」の、乗組員の物語です。

太平洋戦争も始めのうちは、学生は兵役を免除されていて、この本の主人公である並木も、大学の野球部の活動を続けています。並木は、ひじの故障が原因で、満足な球は投げられないのですが、野球に対する情熱を失わず、仲間たちと共に練習に打ち込んでいました。しかし戦況は悪化し、野球部員たちも、出陣することになります。そして並木たち、海軍に配属された者たちに、ある日、特攻の任務が下されるのです。

そこからが、この小説は、けっこう長くて切ないんです。「回天」に乗ると決まっても、すぐには死ねないんです。まずは、「回天」を操縦するための特別な訓練を受けなければなりません。自分が死ぬための訓練です。並木は訓練中も、野球への情熱を捨てることができず、こっそりピッチング練習を続けました。そして、日本の負けを予感し、自分が何のために死ななければならないのかと、考え続けました。

やがて訓練は終わり、出航の日がやってきて・・・

野球部の仲間たちの友情と、野球への情熱が、素敵な本でした。並木は、さすが主人公で、全編を通してかっこよく、圧倒的な存在感があるのですが、仲間たちそれぞれの個性も、しっかり描かれていて、彼らの思いも伝わってきて、群像劇として素晴らしかったです。ストーリーは、オーソドックスな戦争文学なのですが、青春小説としても素晴らしかったです。それに若者が死を見つめる姿には、「ノルウェーの森」や、「世界の中心で愛を叫ぶ」のような、いい意味での若さというか、瑞々しささえ感じられて、横山さんの筆力は、やっぱりすごいと思いました。

そして、素晴らしい分だけ切ないんです。悲しいんです。滅入りました・・・。最近私は、なんとなく戦争文学を読むことが多くて、かなり耐性はついていたはずなんです。それに、この本には戦闘シーンはありませんし、戦場の凄惨な描写などもないのです。いわゆる「怖い」シーンは皆無です。

それなのに、古処さんの数々の戦争文学より、真保裕一さんの「栄光なき凱旋」より、大学時代にたくさん読まされたノンフィクションより、子供の頃読んでトラウマになった戦争ものの児童文学より、滅入った。この滅入り度は、半端じゃありません。読者をこれだけ滅入らせるんだから、これは、名作なんだと思うけど。ああ、滅入ったー・・・。

映画のチケットをペアで持ってるんですけど・・・行くの、やめようかなあ。
| や行(横山秀夫) | 00:24 | - | - |
▲ 震度0 横山秀夫
photo
震度0
横山 秀夫
朝日新聞社 2005-07-15

by G-Tools , 2006/04/19

阪神大震災のおこった日のこと。N県警では1人の幹部が失踪しました。なぜ彼は消えてしまったのか、生きているのか、死んでいるのか。なにもわからないまま、N県警幹部6人は、この不祥事を隠蔽しようとします。これをきっかけに、6人それぞれの思惑が絡み合った、ドロドロの権力闘争劇が、これでもかというくらい描かれます。

うーん。横山さんの警察小説にはちょっと前から惚れこんでいて、立て続けに読んで、どれも好きでした。でも、なんでかなあ、この本は、ちょっと違ったみたい(^_^;)

6人が6人とも、自分の保身と野心のためだけに動いているのが、どうにもこうにも見苦しい。現実はこんなもんなんだろうと思うけれど、だからこそ、別に読みたくなかったみたい。わざわざ阪神大震災を背景に持ってくることで、彼らの自己中心性を強調しているので、横山さんは「それ」を描きたかったんだと思いますし、「それ」はきっちりと描かれているのですが、私は「それ」を別に読みたくなかった・・・。こういう醜い争いは、どこにでもあることだし、警察内部の腐敗に関しては、もう満腹なんですよね〜。

ストーリーも弱いなあ、と、思いました。失踪した幹部は「見つからないなんてありえない」というようなところから発見されます。明らかになる失踪の理由は、小説全体の雰囲気にも、ずっと他の人の口から語られてきた彼の人間像ともそぐわない、プライベートで感情的なもので、なんだか微妙でした。

それから、長屋のようにつながった公舎で暮す、それぞれの幹部の奥さん達が、これまた旦那様によくお似合いの、嫌な女ばっかりで・・・。彼女たちの競争心と虚栄心も、これでもかというくらい描かれます。こっちも別に読みたくなかった感じです。

女同士のこういう醜い戦いって、あると思うんです。でも、この本に出てくる奥さんたちは、あまりにもステレオタイプ。エピソードもどこかで聞いたようなものばかり。全然リアルじゃないんですよね。男性の作家さんが、こういう風に女性を描写するのは、なんだか女性全体がバカにされているようで・・・感じ悪い。

というわけで、残念。
| や行(横山秀夫) | 13:20 | - | - |
● 深追い 横山秀夫
4408534307深追い
横山 秀夫
実業之日本社 2002-12

by G-Tools

横山秀夫さんらしい、警察短編集。

印象的だった作品。

・深追い
交通事故死した被害者の妻は、昔の恋人でした。交通課事故係主任の秋葉和彦は、被害者の遺留品であるポケベルを預かります。ポケベルには毎日のように、彼女から亡くなった夫あての、「今夜の夕飯のメニュー」が届き続けます。彼女のメッセージの意味は?

すべての謎が解けたときの、秋葉君がとってもかわいそうだった作品。

・仕返し
三ツ鐘署次長の的場には、遅く生まれた小学校6年生の息子がいます。官舎で暮らす同年代の子供たちの父親は、みな的場より下なので、的場にぺこぺこしています。そんな様子を見ながら育った警察官の子供たちの中には、親の階級による上下関係が発生し、歪んだいじめが起こっていました。そんな時、所轄内で、ホームレスの死亡事故が起こります。

自分の子供がいじめにあっている、という状況は、親も本当に辛いでしょうね。心配だし悲しいし、してあげられることは少ないし、頭がおかしくなりそうですよね。でも、自分の子供が、いじめをやっていると知った場合はどうなのかな。私は、こっちのほうが、親の心に与えるダメージは深いような気がします。親だって、自分の育てた可愛い可愛い子供が、外ではいじめっ子だなんて傷つくよね。

この作品の最後に、的場が下した結論には、拍手!でした。父としてまっとうだと思う。でも、なかなか出来ることじゃない。がんばって!

・人ごと
会計課課長の西脇は、遺失物チェックのときに、自分が行っている花屋さんのものと同じ花屋の会員カードを見つけ、それの入っていた財布を、持ち主に届けることになります。くたびれた財布にいくらかの小銭しか入っていなかったことから、一人暮らしの孤独な老人だろうと考えられていた持ち主ですが、彼は、高級マンションの最上階に住み、毎日花を大量に買って、リッチに暮していました。西脇は、彼が小銭入れをわざと落としたのではないかと考えます。

最後の1ページがとても切ない物語でした。

ほかに
・引き継ぎ
・又聞き
・訳あり
・締め出し

この4つも、いいです。どれもなんらかの感動がある、名手の手による短編といった感じでした。
| や行(横山秀夫) | 11:45 | - | - |
● 真相 横山秀夫
4575234613真相
横山 秀夫
双葉社 2003-05

by G-Tools

事件が終った後におこる人間ドラマを描いた短編集。

うーん、すごかった。

横山さんの本は、どれも、硬くて、暗くて、重くて・・・。だから私は、横山さんの本を「すごい」「上手い」「面白い」とは思っても、「好きだ」という自覚をしていなかったんです。でも、私はどうやら横山秀夫さんが、かなり好きみたいです。とうとう自覚しました(笑)。私の中で、「好き」の新しいベクトルです。

以下、印象に残った順に・・・。

・花輪の海

大学の空手部の合宿中に、仲間の1人が亡くなりました。全員、先輩たちからの暴力的なしごきに、気力も体力も極限状態に追い込まれていました。亡くなった1人は、真っ暗な海での練習中に、力尽きて溺れたのです。主人公は、その事故により合宿が終るという事が「人生で1番嬉しかった瞬間」であり、その感情に、いまだに罪悪感を持っています。

12年後、その思い出を共有する5人の仲間たちが再会する事になります。仲間の死を、それぞれがどんな風に背負ってきたのか。本心が初めて語られます。

これがこの本の中で、1番印象的な作品でした。描かれた事件は陰惨で、関わった人の心情も苦くて重い。でも、ラストがすごく素敵!そのコントラストにしびれました。

・他人の家

強盗の前科のある男は、罪を償って出所した後も、就職をすることや、アパートを借りる事に苦労しています。いまのアパートの大家にも、過去がばれて、立ち退きを迫られています。そんなとき、近所の老人が「自分の養子になって、自分の家に住み、名字を変えないか?」と、申し出てくれます。

うますぎる話に不安を覚えながらも、嬉しそうな妻のために、老人の申し出を受けた主人公。老人の真意は、彼の死後に明らかになります。この作品は上手かった!終盤の展開は圧巻です。

奥さん側から見た同じストーリーを読みたいなあ。何不自由なく育ったお嬢さんが、強盗犯を愛してしまったために、送ることになってしまった人生。どんな感情が混ざり合っているのか・・・。

・真相

自慢の息子を殺されて10年、ようやく犯人が捕まりました。しかし、それは、新たな苦しみの始まりでした。犯人の語る殺人事件の「真相」、娘が語りはじめた息子の親には見せなかった一面。子供への「愛」の強さを比べる事は出来ないけど、やはり母親のほうが問答無用な感じで、心を乱される父親はとてもリアルでした。

・18番ホール

秘密の「ある理由」から、村長選挙に出馬することになった樫村。彼はその「ある理由」から、どうしても勝たなければなりませんでした。しかし、絶対に勝てるから、と、説明されていた選挙戦に強力な対抗馬が登場し、票を伸ばしていきます。味方の誰かが、「ある理由」を知っている敵側のスパイではないか?と、疑心暗鬼に陥った樫村は・・・。

この話は、絶妙なタイミングでストーリーが終っており、かなり引きずります。えー!それで結局どうなったの?誰か私に教えて(泣)

・不眠

リストラされた中年男の悲哀が、読んでいて苦しいほどに出ていた短編。ある交通事故に関わった事で、彼は変わります。複雑な読後感で・・・これはなんて言ったらいいのか・・・。
| や行(横山秀夫) | 11:41 | - | - |
■ 陰の季節 横山秀夫
4167659018陰の季節
横山 秀夫
文藝春秋 2001-10

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刑事ドラマや犯罪小説にはめったに出てこない、警察組織の管理部門や、内勤の警察官が主役となった短編集。警察内部の「事件」を扱った、出版当時は珍しかったであろう本です。いえ、今でも珍しいと思うんですけど、横山秀夫さんってそういう作家さんなんだって、私が認識したので、今回はもう、もの珍しくはなかったです。収録作品は、

・影の季節
・地の声
・黒い線
・鞄

の、4つ。

すごく良かったです。男のドラマって感じで、全体として雰囲気がかっこよかった。ストーリーも興味深くて、堪能しました。

ただ、どれも読後感が良くない。暗い。重い。一作一作が重厚で、単独では悪くない作品なんですけど、短編集として見ると、一作くらいは後味のいいものや、爽やかなものが、混ざっていたほうが良かったような気がします。

再読・・・だったんですよねー。おそらくは去年か一昨年読んでます。ごく最近のはずです。その事に、4編収録の3編目を読みながらやっと気がついたという・・・。記憶力の衰退には、我ながら驚きます。

3編目の「黒い線」の印象が強く残っていたのは、この作品に登場する似顔絵捜査官、平野瑞穂が主役の、「顔」という短編集を読んでいたから。「顔」は女性が主人公ということで、横山さんの警察小説の中でも、ちょっと異色。「顔」も、好きな本でした。

「影の季節」で、第五回松本清張賞受賞
| や行(横山秀夫) | 10:53 | - | - |
■ 看守眼 横山秀夫
4104654019看守眼
横山 秀夫
新潮社 2004-01-16

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どの作品も心理描写が鋭くて、ちょっぴり苦い本でした。

好きだったのは、やはり「看守眼」。印象的だったのは、「口癖」。

警察小説だと思って読み始めたら、それは表題作を含めて二編だけでした。 新聞記者ものあり、ライターものあり、家裁ものありの、実にバラエティに富んだ短編集でした。一冊の本として評価すれば、「第三の時効」や「臨場」のほうがすごい、とは思う。比べてしまうと、この本は、ちょっと物足りないような気がする。

でも、舞台や登場人物を同じくした連作短編集では、人物造形などに一冊分ページを使う事が出来るわけで。この本はそういう手を使わない、正統派の短編集で。だからこそ横山さんの「短編の名手」という評価を、再確認できたと思います。本当に上手いんだなあ。

・看守眼
いつか刑事になる日を夢見ながら、留置管理係としてすごした近藤。まもなく定年を迎える彼は、証拠不十分で釈放された容疑者の男を執拗に追います。マスコミをにぎわした「死体なき殺人事件」の真相を見抜いたのは、長年培った「看守の勘」でした。

・自伝
自伝ブームにのって、そのゴーストライターをはじめた只野は、ある一流企業の会長から依頼を受けます。取材を始めた只野に、会長は、自らの殺人について告白し、只野はその殺人が、自分の母親の失踪に関わっている事を確信し始めます。

・口癖
家裁の調停委員であるゆき江は、離婚の調停に訪れた若い妻の顔に、見覚えがあることに気がつきます。それは、昔、自分の娘をいじめ、不登校に追い込んだ少女でした。横山さんって女の人なんじゃ・・・。っていうくらい、ドロドロ系の女性心理を書くのが上手い。この短編は、後味が悪くて好きじゃないけど、横山さんの腕には感服。

・午前五時の侵入者
二編目の警察小説。県警ホームページがクラッカーの進入を受け改ざんされた。ホームページ担当である警務部情報管理課課長補佐・立原は、アクセス履歴を手がかりに、犯人を追います。そして同時に、セキュリティーの不備という「不祥事」を隠すために、この「犯罪」を隠そうとしますが・・・。それにしても横山さんの小説では、警察官がしょっちゅう保身に走りますねー。

・静かな家
この作品は、オチがイマイチ。でも、似たような仕事をしていたことがあるので、ちょっと印象的でした。広告屋でオペレーターをしていたころ、1億円の物件を1000万円で印刷しちゃったんだよねー。数字1つのミスで、人が死ぬような仕事なんて、絶対嫌・・・。

・秘書課の男
小心者の秘書課の男が疑心暗鬼になって右往左往するお話。たいして面白くはない。でも、ときどきハッとさせられる言葉があった。

その立場にならないと、わからない事ってある。「ありがとう」という言葉に、人は、様々な思いを込める。受け取る人の受け取り方で、それは様々な意味を持つ。
| や行(横山秀夫) | 06:18 | - | - |
★ 第三の時効 横山秀夫
4087746305第三の時効
横山 秀夫
集英社 2003-02

by G-Tools

すさまじい検挙率で、最強部隊・常勝軍団と言われている、F県警捜査第1課・強行犯係を描いた警察小説。

1班の班長は、刑事の中の刑事のような、笑わない男、朽木。2班の班長は、公安上がりの冷徹な男、楠見。3班の班長は、天才的な直観力で勝負する男、村瀬。激しく競い合うこの3人を中心に、様々なタイプの刑事の、生き方や、矜持や、競争心や、信頼関係が描かれます。すみからすみまで、男だらけの短編集。

ある短編では主役を、別の短編では脇役をつとめる、それぞれの刑事が立体的です。こんな刑事はいないだろう・・・って感じで、リアルではないのに、読んでいる間は、彼らが本当に存在しているように感じました。どの刑事もクセがありすぎるほどあるのですが、どこか清潔感がある人物で、読みやすかったです。

6つの短編がどれもすごくいい!これはもう、職人芸ですね。このシリーズはこれで終わりなのかな?もっとこの人たちの物語を読みたいんだけど・・・。

・沈黙のアリバイ
朽木が可哀想で、かっこいい。島津は可哀想で、リアル。

・第三の時効
本当に良く出来た物語でした。さすがタイトルロール。でも・・・森刑事のエピソードは、この短編の中では、ちょっと邪魔に感じました。

・囚人のジレンマ
田端課長は、親近感の持てるキャラクター。物語も温かくて好きです。普段は争っているもの同士でも、いざという時には、語らなくても通じ合えるなんて、素敵。

・密室の抜け穴
意外すぎる展開でした。やられた!!イヌワシの兄弟のエピソードが、ラストに効いてきました。

・ペルソナの微笑
矢代を、そして、勇樹を見守る朽木が渋くてかっこいい!終盤からラストにかけての、矢代対犯人の対決は、ものすごいスピード感で、手に汗を握りました。

・モノクロームの反転
ラストの余韻がたまらない。やっぱり朽木が一番かっこいい。
| や行(横山秀夫) | 13:03 | - | - |
● ルパンの消息 横山秀夫 
4334076106ルパンの消息
横山 秀夫
光文社 2005-05-20

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タイトルがもう、ほとんど反則っていうくらい、魅力的。ミステリーファンは、これを見逃せないですよねー。このタイトルだけで、もうワクワクします。そして、そのワクワクを裏切らない面白さでした。

第9回サントリーミステリー大賞の佳作作品で、15年間刊行されずにいた幻の処女作品だそうです。

15年前に自殺として処理された、女性教師の墜落死は他殺だった・・・。一本のタレ込み電話が、当時の被害者の教え子であった男子高校生3人を犯人として名指しします。時効成立まで、わずか24時間。事件の真相は明らかになるのでしょうか。

個性豊かな刑事たちが登場する、横山さんらしい「警察小説」の側面。大人になったその高校生たちが、当時行った「ルパン作戦」を回想する「青春小説」の側面。殺人事件の真相を明らかにする「ミステリー」の側面。様々な面が見事にミックスされていて、一瞬も飽きません。恋愛も、友情も、家族愛も盛り込まれています。スピード感があって、ぐいぐい引き込まれました。夢中で一気に読みました。良かったです。

最近の横山作品と比べると、色々と甘い印象があるかもしれません。こまかいところを突っ込もうと思えば、突っ込みどころは満載です。それに、やはり「力み」のような物が、素人の私にも感じられて、ネタをつめこみすぎて、ごちゃごちゃした印象はあります。特に、三億円事件と絡ませたあたりは、ラストも含めて全部いらなかったな、やりすぎだな、って思いました。(でもそこをなくしちゃうと、あおりの「昭和という時代が匂いたつ」は使えなくなってしまうのか・・・。ほかには特別、昭和らしいところってなかったもんね。)

でも、そんなことも、この文章を書かなくちゃいけないから、今思っただけで、読書中には、全然気になりませんでした。私は、十分満足しました。エンターテイメントとして、傑作だと思います。

と、いうわけで、オススメです。

読み終わってから、タイトルについて考えると、また興味深いです。
| や行(横山秀夫) | 18:22 | - | - |
■ 臨場 横山秀夫 
4334924298臨場
横山 秀夫
光文社 2004-04-14

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主人公は、検視官・倉石義男。検視官のメインの仕事は、変死体が出たときに、他殺か自殺かを、早い段階で見極めることです。倉石は、豊富な知識と経験に裏付けられた鋭い観察眼と、天才的な洞察力で、自殺に見せかけた他殺死体や、他殺に見える自殺死体を見抜いていきます。

倉石に心酔する部下は多く「倉石学校」の「校長」などと呼ばれています。しかし、その辛らつな物言いで、階級が上の人間とも対等に渡り合い、出世を断り一匹狼を貫く。当然、上司からは煙たがられる存在です。

おお!主人公の人物像だけでもう、ハードボイルドな臭いがぷんぷんしますねー。うん。かっこよかったです。でもハードボイルドというよりは、トリッキーなミステリーでした。横山さんにしては珍しい気がしました。リアリティより、トリック重視の短編集。横山さんって、こんな本も書けるんですね。

面白かったです。
| や行(横山秀夫) | 16:50 | - | - |
● 影踏み 横山秀夫 
439663238X影踏み
横山 秀夫
祥伝社 2003-11

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主人公は“ノビ師”の真壁修一。空き巣ではなく、夜、人が寝ている家に忍び込む泥棒。

基本はハードボイルド。でも、修一は、亡くなった双子の弟を自分のうちに宿しており、会話をする事ができる、というファンタジックな設定もあります。横山さんには珍しいですよね。

弟の名前は啓二。19歳のまま成長しない啓二には、天才的な記憶力があります。修一と啓二が遭遇する様々な事件を描いた、哀しい哀しい、連作短編集です。

修一と啓二は高校生のときに、久子という女性をめぐり、三角関係にありました。久子が選んだのは修一。それをきっかけに啓二は、受験勉強を投げ出し、家を出、空き巣として警察から追われる身になり、最後は将来を悲観した母親に殺されます。無理心中です。火をつけられ燃える家の中から、二人を救おうとした父親も、その時に死んでいます。その時から、修一は内耳に啓二を宿しているのです。

と、いうような過去と事情があるにも関わらず、基本=ハードボイルドが一切崩れていないのがすごいです。お涙頂戴の臭いが、まったくしない。くさかったり、こっぱずかしかったり、全然しない。哀しい哀しい小説なんですが、あくまでも、ハードボイルド小説の「哀愁」の域を出ていないんです。すごいなあ。うまいなあ。ジャンルにこだわらずに本を読める方には、これは、かなりオススメの本です。

短編として印象に残ったのは「抱擁」「遺言」。「使徒」も素直によかったです。
| や行(横山秀夫) | 00:11 | - | - |
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