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▲ 夜を着る 井上荒野
夜を着る夜を着る
井上 荒野

文藝春秋 2008-02

旦那の尻尾を掴んでやろうぜ──スイミングスクールで知り合った美穂と秋郎は東北へと向かう。男女に微妙な変化をもたらす8つの小さな旅
ドロドロとした人間関係ばかりを扱っているのに、とても淡々とした短編集でした。これが井上さんの魅力なんだろうなあ。それはわかるんだけど、この短編集は、私には正直、ちょっと退屈でした。でも、タイトルは素敵。
| あ行(井上荒野) | 12:17 | - | - |
▲ 誰よりも美しい妻 井上荒野
483871632X誰よりも美しい妻
井上 荒野
マガジンハウス 2005-12-15

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「誰よりも美しい妻」こと、園子は、ヴァイオリニストの惣介の妻。惣介は子供のような無邪気さと可愛らしさのある人物。芸術家ならではの感情的で我侭な人物とも言えます。

園子はそんな夫だけを見つめ、夫のすべてを受け入れ、人生のすべてを彼に捧げているような女性。古風な良妻賢母という感じです。

惣介も園子を愛しているのですが、「恋」を捨てることはできません。大学教授という立場をいかして、若い女子学生との浮気を繰り返します。惣介はその無邪気さでそれを隠す事などできず、園子の前でも新しい恋にはしゃいでしまう。遊びに来る若い学生の態度からも、経験豊富(夫の浮気の経験・・・)な園子には、惣介の浮気はバレバレなのです。

それでも、何があっても、気がつかないふりをし続ける園子。

結局は自分のところに戻ってくる、ということを信じているからなのか。
惣介にとって「恋」が絶対に必要だという事を、認めざるを得ないからなのか。
そんな惣介を愛しているからなのか。

どんな風にも読み取れる本でした。

個人的には、ちょっと、退屈だったなあ。でも、現実感のない設定、透明感のある文章、淡々と綴られるストーリー。好きな人は好きなのかも・・・。

インパクトがとても強いタイトルだったので、「誰よりも美しい」ということが、ストーリー上あまり必要なかったことが残念です。
| あ行(井上荒野) | 14:29 | - | - |
▲ 潤一 井上荒野 
4838714726潤一
井上 荒野
マガジンハウス 2003-11

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9人の女性の揺れ動く日常を、潤一が横切る。
愛とセックスと寄る辺ない一瞬を鮮やかに切り取った連作短篇集。
14歳から62歳まで、9人の女性が、潤一という青年を絡めて、自分の人生を語る連作短編集になっています。最初のほうは、誰とでも寝る男と、そんな男にひっかかる女の、セックスメインの小説って感じで、あまりにしょーもない感じしかしなくて、読むのをやめようかと思ったのですが・・・途中からそうでもなくなってきました。

切ないエピソードのてんこもり。一番印象的だったのは、潤一が抱かなかった14歳の少女の物語。犯罪を犯さなかったのは立派ですが、こういう行動ってどうなんだろうね?ラブホの前に置き去りだよ。潤一サイテー。でも、瑠依ちゃんは、まだまだ若いんだから大丈夫!的なラストの前向きさが、小説としてはいいんだか悪いんだか・・・。とにかく、印象的でした。

不倫がばれて妻に階段から突き落とされて、身体が不自由になった男と、その後、愛人から妻に昇格して介護生活を送る女のストーリーも、恐かったなあ。ぞっとした、というか、ぞっとしない、というか・・・。

最終章が、潤一本人の章ということで、潤一の新しい側面を見られるかと思ったのですが、そうでもなかったのが、少し残念。やっぱり潤一はそのまんま。裏もなく、深みもなく、そのまんまただの潤一でした。子供みたいに自由で、落ち着きがなくて、でも不必要なところで無駄に真面目で。たくさんの女たちに愛されているのに、孤独な男。・・・・・・・っていうか男の子。そのまま歩いて歩いて、どこにもたどり着けなそう。

潤一も、女たちも、本当にどうしようもない人たちなんだけど、どこか憎めなくて。誰も幸せじゃないことが、切ない本でした。読み終わってから表紙を見ると、またいちだんと切ない。
| あ行(井上荒野) | 14:39 | - | - |
■ しかたのない水 井上荒野 
4104731013しかたのない水
井上 荒野
新潮社 2005-01-26

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あるフィットネスクラブを舞台にした、6篇の恋愛短編。フィットネスクラブという空間は不思議ですね。見ず知らずの他人が、すぐ近くで大量の汗をかいたり、必死の形相で踊ったりする。「裸の付き合い」なので、外で会うと誰だかわからない事もある。友達を作って仲良く楽しんでいる人たちもいれば、1人黙々と運動する人もいる。この本にはそんな不思議空間の中で起こる、どろどろの恋愛ばかりが出てきます。登場人物は、性別も年齢層も幅広いですが、不幸でかわいそうな人たちばかりで、切ない本でした。

第1話「手紙とカルピス」の主人公は、本格的に水泳に打ち込んでいたのに、水着泥棒の嫌疑をかけられて退部になり、投げやりな人生を送るようになった「俺」。彼には同情の余地がたっぷりあるのですが、それでも彼の女性に対する扱いの乱暴さには、嫌な気分になりました。

でも、この短編集では、この話が一番嫌な感じで、次からだんだん共感できる話になっていきます。若い受付嬢に騙される、中年男の悲哀を描いた短編があったり。かと思えば、その受付嬢がそうしなければならなかった、悲しい裏事情を描いた、別の短編があったり。

全部の短編を通して、このフィットネスクラブでは、フラメンコ教室の担当だった冴美先生の行方不明事件が噂になっています。彼女の夫で、このクラブの支配人である新藤が、最後の短編の主人公です。第6話は、夫婦の絆を描いた、おちついたストーリーでした。

連作短編集や、テーマのあるアンソロジーでは、最初の方はすごく面白いのに、真ん中でだれて、最後に無理やり閉める、といったパターンがよくありますが、この本は私にとっては逆でした。読み始めたときは「期待薄」だったのが、だんだん面白くなっていって、余韻を残して終わっていく。満足感のある本でした。

ただ、私はミステリー馴れしてしまっていて。この本はミステリーではないのに、謎がすべて明かされる事を期待してしまうんですよね。清川ナオはなぜ何年も文通を続けていたのか。勝子が表れ、そして消えた理由は何なのか。他にも色々な謎が、「想像にお任せします」と、放ってあるのが気になってしまいました。教えて〜って感じでした。
| あ行(井上荒野) | 21:33 | - | - |
■ 森のなかのママ 井上荒野 
4834250652森のなかのママ
井上 荒野
集英社 2004-03

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この本が、初めて読んだ井上荒野さんの本で、いまだに荒野さんの本の中ではダントツで好きです。

有名な芸術家だったパパが死んでから、いずみは、ママ毬子さんと2人で、パパの絵を展示した美術館で暮らしています。

自由奔放で、天真爛漫で、そのくせ棘も毒もしっかりあって。繊細なようで、たくましく、行動力がありすぎて、「攻撃は最大の防御」などと言って澄ましている。そんな毬子さんは、確かに魅力的です。でも、それに振り回されっぱなしの、いずみと毬子さんの取り巻きの男性たちも、それぞれに魅力ある人物として描かれています。そして、それぞれが毬子さんに振り回されつつも、快適な距離を保って、なんとか仲良くしている感じが、読んでいてとても心地いいです。

「美術館で暮らしている」という設定がもう、個人的にツボだったのですが、この設定は少しだけ現実離れした雰囲気をこの小説に作り出し、それはこの小説の必須アイテムです。

なぜなら、ストーリーは、よく考えると実は暗いから。毬子さんの取り巻きの一人に、いずみは片想いをしていて、母娘で三角関係をやっていたりします。死んだパパと毬子さんの間には、いずみの知らない秘密もあるようです。でも、それらをさらりと読ませてくれるのです。とても不思議な本でした。

親子であっても計り知れない、人の心の中は、森のように深い迷路ですね。
| あ行(井上荒野) | 13:36 | - | - |
▲ だりや荘 井上荒野 
4163231706だりや荘
井上 荒野
文藝春秋 2004-07-22

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事故死した両親が残したペンション「だりや荘」。残された娘の椿と、妹の杏、そして杏の夫の迅人が、だりや荘を営業していくことになります。迅人はだりや荘にやってくる以前から、繊細で美しい義姉の椿と不倫の関係にありました。しかし、明るく無邪気な杏のことも愛し続けています。この3人が交互に語り部をつとめる構成になっています。

まず、この状態で、3人で同居して一緒にペンションをやろうと考える迅人の神経がよくわかりません。っていうか許せません。それに作中で、無邪気に見える杏が、姉と夫との関係をずっと知っていた事がわかるので、そこでまた驚かされます。時々ストレス性の発作を起こし口がきけなくなる椿は、ある意味一番まともですが、この不倫劇を積極的にしきっているのは結局彼女なのです。登場人物はお互いに、思いをぶつけ合うこともなく、誰かを責めることもありません。ただ静かに淡々と、様子を伺っています。特に杏の表面的な平静ぶりは、恐いくらいです。

作中で、椿には、新渡戸さんという求愛者があらわれ、アルバイトに雇われた青年翼は、杏を愛するようになります。こんなにも緊迫した、崩壊一歩手前の人間関係が、小さなペンションの中で、どんな結末を迎えるのか・・・。2重3重にからみあった、ドロドロの不倫劇です。昼ドラの原作になりそうです。信州の美しい四季を背景にしていても、ドロドロ感は薄まりません。

正直、私の、苦手とするタイプの小説です。3人の語り部がいるとはいえ、1人称の小説なのに、登場人物の考える事が、理解不能。私は不倫小説が苦手なんですよね。でも、井上荒野さんという作家さんは、上手なんだな、というのはわかります。
| あ行(井上荒野) | 22:46 | - | - |
▲ もう切るわ 井上荒野 
4334737692もう切るわ
井上 荒野
光文社 2004-10

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ネタバレあり!

一人の男がいて、彼は不治の病におかされ、死期を宣告される。彼には「妻」と「愛人」がいる。この「妻」と「愛人」が交互に、彼が死に至るまでの時間の、自分の物語をつづっていく・・・という小説。

色んな意味で難しい小説でした。まず、読み始めた頃は、人間関係図が複雑でよくわからなかったし、時系列もよくわからなかった。でも、それはあとがきによると著者の計算内のようです。「誰にもある、心の中の迷路を、ただスケッチしてみたかった」ということで、このわかりづらさも、著者の意図どおりだそうです。

また、文庫本の背表紙では「男が最後に愛したのはどちらだったのか、あるいは女たちが真実愛したのはだれだったのか。」という謎が提示されているのですが、答えは出ないまま、男は死んで、物語は終わってしまいます。そのあたりも、どう考えればいいのかわからないままで、難しい顔をしたまま本を閉じてしまった感じ。

それに、一番に、この男のどこがそんなにいいのかがわからない!「妻」は経済力もあるし、芯の強さもあるし、それに「色気」というのでしょうか、大人の女性として魅力的な人です。「愛人」は明るくて、優しくて、こちらもまた魅力的な人です。なんでこんな二人が、このダメ男(浮気性のインチキ占い師ですよ!)にいつまでも振り回されているのか?謎!

とりあえずわたしは、この本から、「死」というものの、唐突さと、暴力的なまでの絶対性を感じました。でも、この感想は、この本にも、著者の意図にもふさわしくないんでしょうね。
| あ行(井上荒野) | 22:44 | - | - |
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