すれ違い続ける、片想いの物語。泣けます。
市川拓司さんというのは、小説のカラーがはっきり決まっている方で。
彼女が死ねば、それだけで感動できるっていうんですか、とか。ださい男がもてまくる、単なる男の願望&妄想小説だ、とか。市川さんって、背の低い華奢な女がタイプなんですね、とか。
冷たいつっこみを入れたくなる。っていうか、すでに↑で入れてしまった。
でも、純愛ブームの他の作品群よりは、わたしは、市川さんの本が好きだ。たぶん、ファンタジーだからだろうと思う。「ありえない」っていう意味でファンタジーなのではなくて、(読んだ人にはわかると思うけど)設定に童話的要素が入っているから。
実際に苦しんでいる人がいる病気や、事故・事件を取り上げておいて、浅はかにも「読者を泣かすために最後に殺す」ような小説を作られると、腹が立つ。(それでも泣くが…)。現実には、「助かって幸せになる」「後遺症は残るけど助かる」「助かるけど2人は別れる」など、色んな選択肢があるだろうに、ブームだからって死なせちゃうなんて安易だ。楽なオチに逃げたんだな。なんて、思ってしまって冷める。
市川さんの作品はファンタジーなので、腹が立たない。だって、それ以外に選択肢がないように、初めから世界が設定されているのだから。その中で登場人物が、健気にがんばれば…そりゃあ、私だって泣くよ。
それにこの本は、当然だけど「Separation」よりずっと上手になったなあと思う。文章もクセが抑えられてうまくなってるし、色んな意味でバランスがいい(たぶん)。そして「いま、会いに行きます」や「その時は彼によろしく」より、物語に広がりも深みがある、というか、想像力を刺激する、と思う。市川さんの小説の中では、イチオシ。
わたしはこの本を図書館で借りてよんだ。だから、誠人と同じ視点で、静流の体質や病気の事を何も知らずに読み始めた。だから、誠人と同じように静流を待ってしまって、真相を知って愕然として、本当に悲しかった。
でも、この本って帯にでっかく「恋をすると死んでしまう」って書いてあるんだよね。本屋さんで買って読んだ人たちは、この予備知識があって読むんだよね…。どうせ死ぬんだろ、それで泣かそうっていう魂胆なんだな、なんて思いながら読んだら、わたしなら感動したくてもできないと思う。(うちの市の図書館本には、一部背表紙の裏に帯がはってあるものがあって、それで読み終わってから気がついたの。先に見なくて本当に良かった。)
映画のノベライズとはいえ、「もうひとつの物語」で「オリジナル小説である」と書かれているのに、帯にこんなに重要なネタバレがあっていいのかなあ?