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● ダーク 桐野夏生
ダークダーク
桐野 夏生

講談社 2002-10-29

再読。

女探偵ミロシリーズの・・・第3作目っていうことでいいんですよね。「顔に降りかかる雨」「天使に見捨てられた夜」の続編です。(短編集「ローズガーデン」と、番外編「水の眠り 灰の夢」もあります。)。ジャンルとしては、ハードボイルドミステリィ、って感じです。

この本にはとにかく驚きました。桐野さん、そこまでやるか!というような内容。シリーズにありがちな「お約束」とか「安心感」とか、いっさいなしです。

前2冊の長編でじっくり描かれたミロという女性は、強くて、たくましくて、でも、辛い過去を背負い、孤独で、いつも緊張して生きている。痛々しくて、可哀相な女性でした。そんな彼女だから、ファンも多かったはずです。

でも「ダーク」のミロは、全然違います。人間としてどうなのよ?っていうくらい、堕ちるところまで堕ちています。どう読んでも、この本のミロのファンにはなれない。かなりの悪役です。

前2作で、一応はミロの味方、ということで定着していたキャラクター達も、それぞれの身勝手な理由であっさりミロの敵に回ります。そもそもこの「ダーク」は、今まで、土壇場で登場しては、ミロのピンチを救ってきた養父、村野善三とミロが決定的に決裂し、結果的にミロが善三を見殺しにするところから始まるのです。

だから結局この本には、「悪人」しか出てきません。良い事には何か裏があり、良い人には弱みがある。例外は、赤ん坊くらいでしょうか。登場人物がみんな、恋愛感情=欲望で、その他には、良いことをする理由も、悪い事をしない理由もないんですよね。徹底的に、人間を悪く描いた本かもしれません。「ダーク」というタイトル、ぴったりです。

いろんな意味で、潔い本でした。

この潔さは、私にはかなり心地よかったです。シリーズものの登場人物には、多くの作家さんが愛着を持っているとおっしゃいますし、それぞれのキャラクターにファンもつくから、大事に育てておられる方が多い。でも桐野さんはそうじゃない。現状維持に満足しない、読者に媚びない。桐野さんは気持ちいいくらいにスパッと読者を裏切ります。こういう作家さんは、なかなかいませんから、いつまでも、こういう桐野さんでいて欲しいと思います。希少価値、あり、ですよね。

というわけで、いまさらながら、この本はオススメ。私の味わった衝撃、あるいは快感を味わいたい方は、最低でも前2作、できれば番外編等も読んでから、この本をどうぞ。

ずいぶん昔の記憶なので、出典がはっきりしないのですが、以前、桐野さんは「ミロと自分を重ねられるのは、良い気分ではない」と、言っておられた気がします。でも、この本で生まれたミロの子供の名前は、ハルオ。春生?なんかこのあたりにも、桐野さんの潔さというか、開き直りを感じるのですが・・・考えすぎかな?
| か行(桐野夏生) | 07:08 | - | - |
● 光源 桐野夏生
photo
光源
桐野 夏生
文藝春秋 2000-09

by G-Tools , 2006/05/08

「ポートレート24」という映画の製作に関わった、身勝手な人々のドロドロストーリー。

どの人も自己中心的で、折れるという事を知らないので、撮影現場は大混乱に陥ります。さて、この映画、どんな仕上がりになることか?それが気になって、途中で読むのをやめられません。ぐいぐい読ませます。とても面白い本だったと思います。

最近の桐野作品は、暗くて重くて苦しいものが多かったけど、こういうエンターテイメント的な作品も上手い人だったんですよね。そういえば。

エピソードの一つ一つは、型どおりの芸能界もの、といった感じでリアルではないのですが、登場人物の心情描写がとてもリアル。全体を通してみると、ストーリーも、どこか現実的。この「リアル」に関するあとがきが、興味深かったので、引用しておきます。
「光源」の世界は、アンチ・リアル=フィクショナルであることの徹底性において、すこぶるアクチュアルなのだ。桐野夏生は、退屈な小説家がしようとするように(そして、それさえも往々にして失敗しているように)、何らかの方途で「現実」を映し出そうとするのではなく、凶暴な「虚構」の力によって「現実」を突き通しているのだ。
さて。

どの人も、いい作品を作るために一生懸命になっている、という「ちょっといい話」なら、ありきたりですよね。それこそ、プロジェクトX風。でも、この作品には、そんな純粋な人はいません。主要人物が5人とも身勝手で、自分のことばっかり考えています。それぞれの思惑が、それぞれの視点で、延々と綴られるのですが、その心理描写がリアルで上手い。さすが桐野さんです。

1番、いい作品を作りたいと考えているのは、新人の監督三蔵でしょう。だけどちっとも彼を応援したくならない(笑)。映画への情熱ゆえに、理想と現実のギャップに苦しむ彼の姿はまさに青春!しかし、三蔵は「いい作品」と「自分の思い通りの作品」の違いすらわかっていない、ほとんど素人。それなのに自信過剰でプライドが高く、他人の意見を素直に聞き入れることがなかなかできない。さらに、「自分の思い通りの作品」すら具体的には定まっておらず、迷ってばかり。彼には本当に同情しているのに、彼が、ベテラン撮影監督の有川や、スポンサーでプロデューサーの優子、人気俳優の高見などにやっつけられるシーンでは、溜飲が下がります。

他の人たちも似たようなものです。有川には、監督の目になりきって撮るというポリシーがありますし、ベテランなので作品のために良いこと、悪いこともわかっています。職人気質の彼は、登場してしばらくは、なかなかかっこよく見えます。しかし、彼の場合、何よりも優先されるのが、保身です。彼には今まで積み重ねてきた撮影技術者としての評判という財産があります。その価値を下げるわけにはいかないのです。だから撮影が進むにつれて、作品は悪くても、撮影だけは良くしておこう、そう思うようになります。しかも、過去に自分を捨てた女である優子に対する、恨み、怒り、そういったものも、完全にふっきれてはいないようです。

プロデューサーの優子は、とにかく金勘定で頭がいっぱい。家を抵当に入れて作った自分の金なのですから、この映画がこけては困るのです。それに優子には、夫や、夫の元妻との確執という、プライベートでのプレッシャーもかかっています。「いい映画」よりも、「自分が有名になれる映画」を目指して、あえて新人の監督を起用し、彼のフォローをさせるために、自分が昔捨てた男を利用しようとする。実に自己中心的で計算高い女性です。こういう女性にはなりたくないけど、キャラとしては、優子はかっこよかった・・・かも(びみょー)。

人気俳優の高見は、義理と人情を重んじ、俳優としてのプライドをしっかり持った、まともな人物かと思っていたら、途中からだんだん化けの皮がはがれます。臆病だし、陰険だし、不誠実だし、意外に小者です。彼を応援する気にも全然なりません。しかも、終盤で突然出てくる、彼と妹とのエピソードは、この小説の中での必要性がまったくなくて、不自然に浮いてるし・・・。

元アイドルで、したたかに芸能界を生き抜いてきた佐和。彼女は「いい作品」のことなど、これっぽっちも考えていません。この映画を利用として、女優として花開きたいと考えていますから、自分が目立つこと、自分が美しく映ること、それしか考えていません。

5人の主要人物、それぞれの思惑には、共感できなくもないのです。気の毒に思ったり、かっこいいと思ったり、するのです。だから主人公を誰かに絞れば、もっと良かったんじゃないかなあ、と、思ったりしています。個人的な希望としては、やっぱり優子が主役のこの本が読みたいです。でも、有村でも、三蔵でも、高見でも、主役をはってくれれば、一本筋の通った小説になったと思います。(佐和には無理。)

登場人物の誰のことも応援できなくて、ストーリーにはオチらしいオチもなくて、ラストに不満が残っていて・・・それでも●マーク。とにかく、読んでいる間ずっと、ワクワクしてハラハラして、楽しくてしかたなかったのです。
| か行(桐野夏生) | 12:31 | - | - |
▲ アンボス・ムンドス 桐野夏生
4163243801アンボス・ムンドス
桐野 夏生
文藝春秋 2005-10-14

by G-Tools
小学5年生を担任する若い女性教師は不倫相手の教頭と夏休み、キューバに旅立った。人生で一度だけ、思い切ったことをしよう。その言葉通り、夢のような時を地球の裏側で過ごし、帰国した2人を待っていたのは女生徒の死と非難の嵐だった―。

研ぎ澄まされる少女たちの悪意を描く表題作をはじめ、直木賞受賞後から6年間にわたる桐野さんの変遷を示すいずれも刺激的で挑戦的な粒揃いの作品集です。人間のダークサイドを焙りだす短篇ならではの世界をどうぞお楽しみに。
文芸春秋公式サイトより

大人の書いた本だったなあ・・・いろんな意味で。人の心の弱い部分・醜い部分を描いたら、桐野さんはやっぱりすごいですね。暗い。恐い。つまりは、上手い!印象的だったのは、「怪物たちの夜会」と「アンボス・ムンドス」。

でも・・・私は、桐野夏生さんの作品は、長編が好きなようです。

私の好みの問題だけではなくて、ネタにはふさわしい長さというものがあって、桐野さんの取り上げるネタは、長編のほうが向いているんだろうなあ、と、つくづくこの本で思いました。この短編集に収録されているネタにも、ぜひ長編に仕上げて欲しいと思うものが多かったんです。短編でいいかな、と、思ったのは「愛ランド」くらいかなあ。

・植林
・ルビー
・怪物たちの夜会
・愛ランド
・浮島の森
・毒童
・アンボス・ムンドス
| か行(桐野夏生) | 09:57 | - | - |
▲ 冒険の国 桐野夏生 
410130632X冒険の国
桐野 夏生
新潮社 2005-09

by G-Tools

1988年の「すばる文学賞」最終候補となった作品に、加筆修正をほどこしたものだそうです。20年近く前の作品ということになりますね。

この小説の「時代を切り取った」という一面に関しては、桐野さん自らがあとがきに書いておられるように、今読むと「懐かしい」感じです。「時代を切り取った」小説は、やはり古くなるのだなあ、と、思いました。

それはそれとして、人間の描写に、桐野さんらしい苦みがしっかりと出ています。登場人物がみんないい人、という本は、最近の癒し系ブームや、泣ける本ブームで、たくさんありますが、登場人物がみんな好きになれない、という本は珍しいかと思います。一人称の主役である美浜の事も、どうしても好きになれませんでしたからねー。けっこう可哀想な目にあっている人なんですけど、どうにも性格が陰湿で・・・。

それからやはり、女同士の関係というのは、桐野さんの小説の中では、エグいものなんですね。主人公の美浜とその姉、美浜の勤め先の大家さんとその妹、という二組の姉妹が出てくるのですが、二組とも最悪の関係です。これは不幸です。

読後感、悪いよ・・・。

桐野作品に、爽やかさとか、癒しとか、求めてないからいいですけどね。
| か行(桐野夏生) | 02:33 | - | - |
● 魂萌え! 桐野夏生 
4620106909魂萌え !
桐野 夏生
毎日新聞社 2005-04-21

by G-Tools

関口敏子、59歳、専業主婦。夫婦2人で建てた家もある。貯金もある。年金ももらえる。贅沢さえしなければ、夫と2人で平穏な老後を送れると思っていた。でも、夫が心臓麻痺で急死し、彼女は突然世間の荒波に放り出される事になる・・・。

8年ぶりにあらわれた息子・彰之は、アメリカで事業に失敗し、妻子と共に敏子の家に転がり込もうと、強引に同居を迫る。これからの敏子の生活に必要な貯金も、遺産として分割するように要求する。この彰之というどうしようもない男の身勝手さには、読んでいて本当に腹が立った。娘・美保は、彰之よりは少しまし。でも、自己中心的なところは変わらない。兄への反感と、自分の将来のために、父親の財産を狙う。

思いもよらなかった相続をめぐる争いに戸惑うばかりの敏子に、追い討ちをかけるように、生前の夫の10年にわたる不倫という事実が発覚する。ただの浮気ではない。夫は500万円を出資して、彼女と共に蕎麦屋を営み、彼女の家族とも親しく交流していたのだ。

敏子が頼ろうとする、古くからの女友達も、夫の死後知り合った人たちも、それぞれに自分の事で手一杯で、親身に敏子に寄り添うものなどいない(あたりまえだ)。女友達それぞれの描写が興味深い。何歳になっても、女の友情って、やっぱりちょっと複雑。騙されたり、裏切られたり、人の本性を知ったり、そんな事を繰り返して、敏子は変わり始める。

強く、たくましく変わっていく、敏子の再生の物語。前半は、世間知らずで、流されたり騙されたりするばかりの敏子に、腹が立って仕方なかった。どうしてそこで黙る!どうしてそこで金を払う!って感じで。でも、後半の彼女は、彼女なりに、かっこよく見えてきた。私には夫はいないし、敏子よりだいぶ若い。だから、この本の真髄を理解したとは言えないだろう。でも世間と老いと孤独に立ち向かい、前向きに生きようとする、最後の敏子の姿は、とても素敵だと思う。こんなに後味のいい桐野作品が読めるとは思わなかった。

でも・・・敏子は恵まれてるよねー。まず家があるし、かなり貯金があるってだけで恵まれてる。親とか、舅・姑などの、面倒を見なくてもいいってのも大きい。勝手な子供たちは「もう大人なんだから」と突き放せても、介護の必要な年寄りがいたら、魂萌え!なんて言ってられないもんね〜。

(よく考えたら、うちの親はもうあと数年で、敏子の年になるんだよなあ。常々思っていることだが、二人揃って長生きして欲しい。片方だけ残されたら本当にかわいそうだ。うーん。母親が残った場合は、敏子のように、第二の人生をたくましく生きてくれそうな気がする。父親が残った場合のほうが心配だなあ。さいわい我が家には、相続問題はありえないので、それだけは安心だけど。)

| か行(桐野夏生) | 09:40 | - | - |
■ アイムソーリー、ママ 桐野夏生 
4087747298アイムソーリー、ママ
桐野 夏生
集英社 2004-11

by G-Tools

相変わらず桐野さんはダークです。この本も、元児童福祉施設の先生と卒業生の夫婦が結婚20周年を祝ったその日に、施設時代の仲間だったアイ子に再会。その夜、理由も思いあたらないまま、彼女に殺される、という放火殺人から始まります。

この小説の主役・アイ子は、物心ついたときには娼館の押入れに寝起きしており、誰が面倒を見るでもなく、母親の形見だと教えられた汚い靴に、毎日話しかけてるような少女でした。娼館がつぶれたあと、自分で警察に助けを求め、その後は児童福祉施設で育ちます。愛情に飢えた少女が、どんな人生をたどったのか。そして、アイ子が求め続けていた母親の行方は…?

アイ子の人を人とも思わず、命を命とも思わないすさんだ人生には、鳥肌が立つような恐ろしさがありました。それだけでなく、アイ子をそんな風にした周囲の登場人物の嫌な部分が、これでもかというほど描かれていて、これまた鳥肌が立ちました。正直、恐くて気持ちの悪い本です。

そしてやはり、桐野作品にはずれはないなあ。というわけで、読み応えのある、濃厚な本で、オススメです。しかし…。物語が短い分、桐野作品の中では、「OUT」「グロテスク」などの大作や、最近の「残虐記」などには、少し負ける感じはします。

だから、桐野作品が分厚いのでなかなか手が出せない、という人に、この本は特にオススメ。この本の恐ろしさや気味の悪さに、心のどこかが「でも、やっぱり読みたい」とささやく人は、上記のような長い作品にも手を出してみるといいと思います。
| か行(桐野夏生) | 16:45 | - | - |
● 残虐記 桐野夏生 
4104667013残虐記
桐野 夏生
新潮社 2004-02-27

by G-Tools

実際にあった少女監禁事件を元にした、と、思われる、10歳の少女の監禁事件と、その事件が彼女の心に与えた影響、そして彼女のその後の人生の物語です。

成長し、小説家になったかつてのその少女が失踪するところから物語は始まります。彼女は親しい編集者にあてて、過去に自分に起きた事件を描いた小説を残しました。誰にも語った事のなかった、自分と犯人との関係、監禁中の生活の実態。それは、22年後に初めて明かされる「真実」として、読者に提供されることになります。その描写はとてもリアルです。

しかし、これは本当に「真実」なのか?という疑問は常に読者につきまといます。たとえば、作中作の中で主人公は独身をつらぬいていますが、実際の彼女には夫がいることを、読者は冒頭の「夫から編集者への手紙」で知っています。いったい何が「真実」なのか、あれか、これか、それとも?などと読者は考えをめぐらすことになります。

この本の大きなテーマとなっているのが、「想像力」というものの残酷さです。彼女は事件後、周囲の人間の「想像の愉楽」に傷つけられつつ、自分もそれを楽しみ、そこに逃げ込むことでなんとか生き抜いています。この本が上記のような複雑な入れ子構造になっていることで、読者も「想像の愉楽」を実体験することになります。読み終えたとき、読者は自分の中に、彼女が憎悪し恐怖しているものを、見出すことになるのです。

桐野夏生、恐るべし。です。

それにしても、監禁事件を含めて、全ての性犯罪の犠牲者やそのご家族には、読んで欲しくないです。きっととても傷つくと思うから。それに、おそらくそれを考えて、この本を酷評された方も多かったでしょうねー。でも、そんなこと全部わかっていて、わざと、あえて、それを描いていく。桐野夏生さんという人は、いろんな意味で、強い方ですね。
| か行(桐野夏生) | 21:59 | - | - |
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