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■ マルコの夢 栗田有起 
4087747883マルコの夢
栗田 有起
集英社 2005-11

by G-Tools

日本で就職活動に失敗したカズマは、姉のつてでパリの三ツ星レストラン「ル・コント・ブルー」の、キノコの担当者として働く事になります。前半は、就職できない主人公といい、複雑な構成のおかしな家族といい、かなり個性的な同僚たちとのエピソードといい、ユーモラスでユニークで、栗田さんらしいなあと思いました。

様子がちょっと違うぞ、と、思ったのは終盤です。マルコ、という幻のキノコを探す冒険の中で、カズマがキノコのプロとして目覚めて、やる気を起こす・・・そんな成長物語になるかと思ったら、大間違い。

独特の、人を食ったような語り口はそのままで、くすっと笑ってしまうのですが。カズマがキノコのプロとして目覚めるのも予想通りだったのですが。この展開は想定外でした。いやあ、恐いですよ。これは完全にホラーです。シュールなだけではなく、ホラーの域までいってしまいました。こわーい!

栗田さんらしい小説だけど、ある意味、新しい引き出しと言ってもいいかもしれません。こっちの方向に行ってくれるなら、個人的な好みとして、私は嬉しいです。

ただ、前半と後半が分離している印象があります。レストランや同僚を緻密に描く必要あったの?家族構成を複雑にしたり離婚騒動を起こす必要あったの?

パリ部分を短くして、純和風の民話っぽく描いたら、どんな風になったのかなあ。あるいは、もっとつけたして、パリに戻った後のカズマとマルコをきっちり書くとどうなるのかなあ。読んでみたいです。

とりあえず、やっぱり、栗田さんは面白い。次作が楽しみ。
JUGEMテーマ:読書


| か行(栗田有起) | 22:25 | - | - |
● ハミザベス 栗田有起
4087746291ハミザベス
栗田 有起
集英社 2002-12

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「ハミザベス」と「豆姉妹」の二本だて。テーマは両方とも、自立、です。

一作目は母と娘、二作目は姉と妹の、2人だけで完結し、お互いがお互いとの境界線を見失ってしまっているような、共依存関係からの脱却。

・ハミザベス
20歳のまちるが、父親の遺産であるマンションを相続するところからはじまります。母親の口からあかされる、奇妙な出生の秘密とは?

この小説を、特に好きとは言えないんだけど、畳一畳分の折りたためるあれ、というのがまったくもって想像を絶する。「卵を産む」という事も、それをネックレスにするという事も。小説になっていて、それを読んでも想像を絶するのに、それを0から考えつくなんて。想像力豊かというか、なんというか…。それだけでも、栗田さんはすごい才能の持ち主だと思う。

まちると幼馴染の関係が優しくて悲しくて、かなり切なかったです。

・豆姉妹
双子のようにそっくりな姉妹と、その家族の物語。昔の江國香織さんの小説を思わせる雰囲気があります。

登場人物の会話がユニークで、テンポがよくて、個人的には、「ハミザベス」より好きです。きちんとオチのある物語なので、ネタばれはしませんが。
| か行(栗田有起) | 13:40 | - | - |
■ お縫い子テルミー 栗田有起
4087746887お縫い子テルミー
栗田 有起
集英社 2004-02

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学校にも行かず、他人の家で居候し、家事の手伝いや子守をしながら育ったテルミー。彼女が、祖母から教えられた技術を生かして、ながしの仕立て屋として自立していく物語です。シナイちゃんという人に、テルミーは絶望的な片想いをしているのですが、プロとしての自覚を持ったテルミーには、人間としての基本的な自尊心のようなものが成長し、シナイちゃんに対する思いも変化していきます。

芥川賞候補にまでなった作品にケチをつけるのは勇気がいりますが…言っちゃいますけど。この小説は、無駄が多い。短い中にデーターを詰め込みすぎ。

たとえば、テルミーの人格形成を語るのに、祖母と母の2人共を登場させる必要があるでしょうか?特殊な信念を持った祖母だけで十分だと思う。祖母がこんなにもテルミーを自立心旺盛な人間に育てたのなら、娘であるテルミの母親のことも、弱視というハンディがあるからこそ、同じように育てたはずだと思うのに、そうではないところが、何か納得できない。結婚妊娠も含めて、母親関連のくだりは、全部削除してもこの小説に影響はないと思います。

逆に、祖母を出さずに(そうするともう完全に違う物語になっちゃうけど…)弱視の母親だけを登場させて、杖としてのテルミーをたくさん描いても、説得力はあると思う。とにかく、どちらかでいいと思う。この2人を両方持ち出すと、ちょっと濃すぎる印象です。

それにしても、1つでも自信のある技術を身につけているというのは、すごい事ですね。それだけで、テルミーは胸をはって、かばん2つで生きていけるのですから。テルミーはかっこいいです。そこは好きでした。

実は、同時収録されている、「ABARE・DAICO」のほうが、ずーっとよかったです。私は、表題作より好きです。この作品には★★★★★をつけます。

こちらは、男の子の一夏の成長物語なのですが、主人公の誠二くんが、本当にいい!子供らしくバカで、でもバカなりに一生懸命で、応援せずにはいられません。父親がふいにいなくなった家庭で、母親を支えようと、安い卵を求めてスーパーに通い、モデル並にかっこよくて頭もいい友人、水尾くんに対するコンプレックスと戦い、誠二は誠二なりにがんばります。本当に健気です。

ラストの数十ページの成長した彼の姿は、かっこよくて、感動でした。特にお父さんとの会話とかね。
| か行(栗田有起) | 13:37 | - | - |
● オテルモル 栗田有起
4087747468オテルモル
栗田 有起
集英社 2005-03

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★★★☆☆

「オテル モル」は、都心の地下にあるビジネスホテル。会員制で、真に眠りを必要としている人しか泊まる事ができません。オーナー兼客室係の外山さんは「わたしたちは一致団結して、安眠・快夢をつかまなければなりません!」と、時には滑稽に思えるほど(笑えます)徹底的に、細心の注意を払って、ホテルを運営しています。接客・サービス業に携わる方は、必読です。

主人公は、まれに見る「誘眠顔」であるという理由で、フロント係に採用された、23歳の希理。彼女はとても可哀想な環境にあります。自分の恋人は妹と結婚、妹は薬中になって施設入り、両親は妹の看護で手一杯。というわけで、希理は姪の世話を押し付けられ、裏切った元恋人との3人暮らしを余儀なくされています。希理は家族を愛していますが、当然、息苦しさも感じています。希理が、このホテルに就職したことで、どう変化していくのか、と、いう本です。

「オテル モル」で繰り広げられる物語の雰囲気は、村上春樹っぽい。と、思いました。こんなホテル、消防法に違反しているんじゃないだろうか、とか、経営が成り立つわけがない、とか、チェックアウトが日の出までって、そんな早起き誰がするんだ、とか。つっこみ所はたくさんあります。でも、春樹的ファンタジーとして楽しめました。村上春樹が好きな人にはオススメです。

希理の家での物語は、とにかく暗いので、好き嫌いが別れると思います。希理の語り口が淡々としているので、それぞれのキャラクターがつかみづらく、どう考えていいのかわからないところもあります。それに、「オテル モル」での物語の雰囲気とかみ合っていない感じがします。

希理の家族の物語は短縮して、希理と、色んなお客様の関わり合いを描く部分を、もっと増やして欲しかったなあって思います。

好き、とは言えないんだけど、読んで良かったとは言えます。言葉とか、仕事とか、家族とか、睡眠とか、色んなことについて考えさせられる本でした。
| か行(栗田有起) | 23:45 | - | - |
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