学校にも行かず、他人の家で居候し、家事の手伝いや子守をしながら育ったテルミー。彼女が、祖母から教えられた技術を生かして、ながしの仕立て屋として自立していく物語です。シナイちゃんという人に、テルミーは絶望的な片想いをしているのですが、プロとしての自覚を持ったテルミーには、人間としての基本的な自尊心のようなものが成長し、シナイちゃんに対する思いも変化していきます。
芥川賞候補にまでなった作品にケチをつけるのは勇気がいりますが…言っちゃいますけど。この小説は、無駄が多い。短い中にデーターを詰め込みすぎ。
たとえば、テルミーの人格形成を語るのに、祖母と母の2人共を登場させる必要があるでしょうか?特殊な信念を持った祖母だけで十分だと思う。祖母がこんなにもテルミーを自立心旺盛な人間に育てたのなら、娘であるテルミの母親のことも、弱視というハンディがあるからこそ、同じように育てたはずだと思うのに、そうではないところが、何か納得できない。結婚妊娠も含めて、母親関連のくだりは、全部削除してもこの小説に影響はないと思います。
逆に、祖母を出さずに(そうするともう完全に違う物語になっちゃうけど…)弱視の母親だけを登場させて、杖としてのテルミーをたくさん描いても、説得力はあると思う。とにかく、どちらかでいいと思う。この2人を両方持ち出すと、ちょっと濃すぎる印象です。
それにしても、1つでも自信のある技術を身につけているというのは、すごい事ですね。それだけで、テルミーは胸をはって、かばん2つで生きていけるのですから。テルミーはかっこいいです。そこは好きでした。
実は、同時収録されている、「ABARE・DAICO」のほうが、ずーっとよかったです。私は、表題作より好きです。この作品には★★★★★をつけます。
こちらは、男の子の一夏の成長物語なのですが、主人公の誠二くんが、本当にいい!子供らしくバカで、でもバカなりに一生懸命で、応援せずにはいられません。父親がふいにいなくなった家庭で、母親を支えようと、安い卵を求めてスーパーに通い、モデル並にかっこよくて頭もいい友人、水尾くんに対するコンプレックスと戦い、誠二は誠二なりにがんばります。本当に健気です。
ラストの数十ページの成長した彼の姿は、かっこよくて、感動でした。特にお父さんとの会話とかね。