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■ GOTH 「夜の章」「僕の章」
GOTH 夜の章 (角川文庫)GOTH 夜の章 (角川文庫)
乙一

角川書店 2005-06-25

GOTH 僕の章 (角川文庫)GOTH 僕の章 (角川文庫)
乙一

角川書店 2005-06-25
主人公の「僕」は悲惨でやるせない凶悪な事件、とりわけ凄惨な殺人事件に人一倍の興味を抱いている青年。クラスメイトと一切の交流がない少女「森野夜」と唯一コミュニケートを行える存在。最近の彼らの話題はもっぱら隣の県で起きた女子高生の殺人事件に集中していた。
ある日「夜」が拾ってきた手帳。それにはその事件の犯人らしき人物の手記が残されていて、、、。

事件に巻き込まれることで「僕」と「夜」の抱えた闇が徐々に明らかになっていく短編集。
ネタバレ!

第三回本格ミステリ大賞受賞作。再読。

私が初めてこの作品を読んだときは、本格ミステリ大賞受賞前で、2分冊にはなっていない、ライトノベルの「GOTH〜リストカット事件」のほうでした。

今回、この作品についての感想を語るには、まず、僕も夜も、彼らの街の異常犯罪者たちも、この作品の世界の中に現実に存在し、事件も現実に起きたのだ、ということを前提として始めなければならないと思っています。もう現実に起こってしまった出来事なんだから、そこに「ありえない!」「そんなやついない!」などとつっこんでも無駄なんですよね。私は初読のときは、さんざんそれをやってしまったので、失敗したんですが…。

だから、僕や異常犯罪者たちが、このような人格に生まれてしまったことの理由が描かれないことを不満に思ってはいけないし、彼らの心理分析をすることに意味はないし、著者の意図を探ることもこの小説に関しては不要だったのだな、と思いました。ただ、彼らの異様な世界を感じればよいんですよね。そんな部分を理解できなくても、十分に良くできた(構成のしっかりした)、面白い小説なのですから。

今回私は、この小説世界に、実際に、僕と夜が生活しているのだと感じながら読みました。そうしたら、クライマックスシーンが自分の記憶にある以上に切なく、絶望的な余韻のあるものに思えました。あ、クライマックスとは、「僕の章」のラストシーン、2人の別れのシーンです。

夜にとっては、たった1人、自分の真の姿を知ってくれていて、自分と同じ生き方をしているように見えた人が、実は逆の人間であったということから受けたショック。僕にとっては、そんなことは分かっていても、それでも執着していた夜という少女からの拒絶。別離のシーンは絶望的で、辛かったです。

僕の夜への執着は、彼女からの拒絶程度で消えるものではないでしょう。同じ街に住んでいれば、何度もそうしたいと思ってきたように、僕はいつか夜を殺すかもしれない。どうやら自殺願望があるらしい夜も、いつか、それを望むようになるのかもしれない。夜を殺さなくても、僕は夜に似た他の誰かを殺すかもしれない。彼らのその後を想像しても、暗澹たる気分になるばかりですが、でも、その物語を読んでみたいと思う自分がいます。

さらにダークな続編希望…かもしれない。
なぜ自分は、このような穢れた魂を持って生れついてしまったのだろう。なぜ、ほかの人と同じではないのだろう。心の中に、そのことへの疑問と悲しみがあふれ出す。

人を殺して喜びを得るようなことをせず、自分も普通の人のように生きたかった。人間を生き埋めにするという妄想に取りつかれず、夜に一人で穴を掘って心を落ち着けることもせず、ただそっとだれにも迷惑をかけないよう生きたかった。

消して多くを望まない。どんなにささやかでもいい。だが自分は、上司が子供の写真を眺めるように、同僚が真新しいシャツで職場へ現れるように、普通の人が送るような、当たり前の人生をいつも夢見ていた。自分にそれが与えられていたなら、どんなによかっただろう。
このとある変質的殺人者の独白は、命を奪った被害者への視点が欠けているので、ただの身勝手な自己憐憫で同情の余地無しなのですが…、それでもちょっと、涙線にきました。共感できてしまう自分がいました。
| あ行(乙一) | 10:03 | - | - |
▲ さみしさの周波数 乙一
さみしさの周波数さみしさの周波数
乙一

角川書店 2002-12

再読。

□ 未来予報
△ 手を握る泥棒の物語
△ フィルムの中の少女
□ 失はれる物語

「手を握る泥棒の物語」と「失はれる物語」は、のちにハードカバー版「失はれる物語」に再収録されています。

失はれる物語失はれる物語
乙一

角川書店 2003-12

「手を握る泥棒の物語」は、白乙一さんにしても、黒乙一さんにしても珍しい、ユーモラスで読みやすい短編。主人公はかなり鬱屈した人物ではありますが、自分の夢を追いかける、行動力のある人で、賢い、とは言いがたいけれど、憎めない人物。最初から最後まで、楽な気分で、追い詰められることなく読めて、乙一さんの作品にしては希少価値があると思います。

一番印象的だったのは「失はれる物語」。左腕以外のすべての感覚を失ってしまった主人公と、家族の物語です。およそ世の中で、これ以上はないというくらいの、孤独と絶望を描きつつ、静かな愛と自己犠牲も描かれていて、後味がいいんだか悪いんだか・・・。

「未来予報」は、ああ思春期!って感じの、淡い思いを切なく描いて、なかなか素敵です。わたし的には、ちょっと照れちゃいますが・・・。

タイトルの「さみしさの周波数」っていう言葉、けっこう印象的だし、ひきつけられるものがありますよね。でもそのタイトルの短編集は収録されていないんです。この短編集全体が、「さみしさ」について描いていたのかな。とりあえず、「失はれる物語」のさみしさには、恐怖すら感じるので、想像しないようにして、もう寝ます(笑)。
| あ行(乙一) | 07:20 | - | - |
■ 銃とチョコレート 乙一
銃とチョコレート銃とチョコレート
乙一

講談社 2006-05-31

久しぶりの、乙一さん。今回は、うちの市の図書館では児童文学の棚にはもちろん、YAコーナーにもおいてもらえず、普通に大人向けの小説の棚に置かれている、「かつて子どもだったあなたと少年少女のためのミステリーランド」です。でも、この本は、ミステリーランドの他の作品に比べれば、ちゃんと子供向けになっていたような気がします。あくまでも、比較の問題ですが。

ヨーロッパのどこかの国で、貧しい母子が、暮しています。主人公は、チョコレートが大好きな少年、リンツ。亡くなったばかりの父親が、おそらくユダヤ系と思われる移民の血を引いており、リンツはそのせいで差別やいじめを受けています。

このあたりの描写は、とっても乙一さんらしい!ふたたび「死にぞこないの青」って感じです。ちょうどこれを読んだ頃、中東、イスラエルの周辺で、また戦争が起こっていました。ずっと日本に住んでいると「祖国」と言う感覚はもちろん、自分の血統や国籍など、考えずに生きていける。せいぜいオリンピックの時に、ふと気がつけば日本を応援しているな、というくらいです。でも、自分が生まれ育った国で受け入れられず、帰るべき国も持たないという事は、ずいぶんと辛く、寂しく、心細いことなのでしょうね。

でもリンツには、料理の上手な優しい母親と、友人たちがいて、なんとか楽しい毎日を送っています。少年たちの間での一番の話題は、「GODIVA」のカードを残して財宝を奪う、怪盗ゴディバと、彼を追う、名探偵ロイズの活躍です。少年たちはみんな、ロイズに憧れています。

ある日リンツは、父親の形見の聖書の中から、謎の地図を見つけ出し、それが怪盗ゴディバ事件の鍵を握るものである事を確信します。情報提供者に懸賞金が出ることを聞いて、リンツはロイズに手紙を書いたのですが、そうしたらなんと、憧れのロイズが、リンツに会いにやって来てくれたのです・・・。

という、典型的な少年向け児童文学の王道的な作品の始まり。でももちろんそこは、乙一さんですし、ミステリーランドですし、このままただの楽しい冒険譚では終りません。でも、これ以上はいっさいネタバレ出来ない感じ。読んでリンツの冒険に、ワクワク、ハラハラ、ドキドキしましょう。事件の真相と背景と、色んな人の正体にビックリしてください。

ちゃんとした冒険小説でしたが、伏線のばっちりはられた、ちゃんとしたミステリーでもありました。子供が読んでも面白いと思うし、大人が読んでもしっかり読み応えがあります。楽しみました。

個人的には、リンツの母親がたくましくて好きでした。全体的に、挿絵が恐い本なんですけど、母親の絵が一番恐いんですよね。ほとんど妖怪(笑)。でも、最後まで読むと、なんか納得できます。

そして、ラストの2ページが好き。ゴディバについてはなんとなく、予想できた展開ではありましたが、気持ちよく読み終わりました。そしてその気持ちの良いラストシーンのあとに、乙一さんの「あの」あとがきがついている・・・。
| あ行(乙一) | 11:16 | - | - |
■ ZOO 乙一
4087745341ZOO
乙一
集英社 2003-06

by G-Tools

死体が大量に出てくる、ダークでグロテスクな短編集。映画化の話を聞いて再読。印象的だった作品は2つ。

「SEVEN ROOMS」。ある日突然、コンクリートの小部屋に閉じ込められた姉と僕。部屋が全部で7つあり、1人づつ女性が閉じ込められており、閉じ込められてから7日目に殺される、というルールだけが分かっています。果たして二人は生き残れるのでしょうか・・・。小説中では「どうしてこんな事が起こっているのか」「誰がこんな事をしているのか」といった基本的な謎は全く解かれません。それなのに、ラストがあまりに衝撃的で、それだけで小説として見事に着地してしまっている。力業です。

「冷たい森の白い家」。家を持たない主人公が、はじめて作った自分の家の材料は、人間の死体です。そこに行方不明の弟を探す一人の少女が訪れて・・・。とても哀しい物語です。一人称の小説にもかかわらず、「〜を思い出した。」「〜をしようと考えた。」といった文章はあるものの、彼がどんな感情を抱いていたのかがまったく描かれません。感情が未発達で未分化なのか、それとも麻痺しているのか、書かれていないだけなのか。深読みすればきりがない物語でした。

全体としては。作品の完成度にバラつきがありすぎる。テーマやネタがかぶる作品が一緒に収録されてしまっている。似た傾向の本なら「GOTH」のほうが断然良かったです。「GOTH」は同一の主人公が出てくる連作短編集だから、比べちゃいけないかもしれないけど。

私は乙一さんが好きですが、この本は、単なる恐い話や、気持ち悪い話の寄せ集めに見えます。
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