「私のおすすめは、皆様へのおすすめではありません」と警告文がまず入っています。まさにそのとおりの本です。新井素子さん個人の、それぞれの作品への愛情や、本と読書への愛情があふれています。「書評ではなく読書エッセイ」だそうです。だから1つの作品名をあげて、それに関する評なり、感想なりを書く、という形式にはなっていません。たとえば「ああ、おいしそう」とか「変!なミステリー」とかいう章タイトルがあって、そこにたくさんの作品名や、その感想が織り込まれているという形式になっています。だからエッセイ集として、気軽に、楽しく、さらっと読めます。
新井素子さんはSFとかサイコホラーの作家さんですが、読書のジャンルはかなり広いし、読書量もすごいです。比較的ミステリーが多い感じはありますが、児童文学あり、宗教本あり、もちろんSFもあり。読み終わると、本屋に直行したくなります。読みたくなる本がたくさんあります。新井素子ファンじゃない人にもオススメです。
私は小・中学生の時に、新井素子さんの本が大好きでした。でも、正直に言って、高校生以降の私は「新井素子ファン」とは言えません。新作が出たら読んでしまうけど、ああ、新井素子さんの本だなあ、と、思うだけです。小説が子供っぽい感じというか、あまりに視点が個人的すぎる気がして、入り込めないんです。だから、失礼ですが、新井素子さんがこれだけ幅の広い読書傾向を持っているという事は意外でした。
今は、新井素子さんという人は、結局、プロの作家さんなんだなあ、と、思います。あちらこちらで聞かれるように、若いときにブレイクしちゃったから成長できなかった永遠の子供というわけじゃなく。若くして結婚したのにずっと子供ができなかったからいつまでも少女である、というわけでもなく。自分のスタイルを崩さない、プロの作家さんなんでしょう。
さて。なんで今この本の感想を書いているかといいますと、今年に入ってから、文庫化されたんですよね。
もともとは2000年発売なんですが、それ以前に雑誌掲載されたものをまとめた形になっていて、だから、実際に書かれたのは6、7年前、っていうことになると思います。この手の本が文庫化するには少し遅いよなあ、と、思いませんか?実際、紹介されている本はやっぱり古いな、って感じがするし。わたしは、この本はもう文庫にはならないのかと思っていました。
でも、今になってわかる、この本のすごさというものもあって。たとえば、東野圭吾さん、小野不由美さん、この辺りは今でこそメジャーな人気作家さんですが、あの頃はそんなに受け入れられていなかったと思う。だって、私、当時から東野圭吾さんが好きだったのに、評価が低いことに憤ってて、この本で新井素子さんが同じ事を言って理由を分析してくれて、とても嬉しかった記憶があるんです。北川歩美さん、西澤保彦さん、なんてマニアしか知らないというか、一発屋みたいな評価で、残るとは思われてなかったんじゃないかなあ。今、とっても人気があるメフィスト系の人たちに、いち早くチェックを入れていた新井素子さんってすごい。
文庫版には少し加筆もあるので、元の本を読んだ方でも、立ち読みするくらいの価値はあります。
私の読書傾向は子供の頃にどっぷり新井素子さんの影響を受け、この本を読んでから現在に至るまで、さらに影響を受けています。「今はもうファンじゃないなんて」言うべきじゃないですよねー。ただ・・・どうも、新井素子さんは本が出るのが遅くってね・・・。待って、待って、待っている間に、色んな作家さんに浮気してしまうんです。新井さん、次作、待ってます!あと、あれの続きやら、これの番外編やらを絶対絶対読みたいので、長生きしてください!私もがんばって、長生きしますから(笑)!