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● 人は、永遠に輝く星にはなれない 山田宗樹
人は、永遠に輝く星にはなれない人は、永遠に輝く星にはなれない
山田 宗樹

小学館 2008-06

医療ソーシャルワーカーの猪口千夏が迎えた新たなクライアント・西原寛治(87)は、妹の死を忘れ何度も病院に来てしまう独り暮らしの老人だった。弁当を届けてくる、デイサービスセンターの伊藤美春に密かに恋情を抱いていたが、彼女が担当替えでいなくなってしまった夜、寛治は意識障害を起こし錯乱状態になって入院してきた。千夏の尽力で、寛治は太平洋戦争のコタバル上陸作戦で共に戦った戦友の宮地と会うことになったが……。「誰も、永遠に輝く星には、なれない。わたしたちに許されているのは、消滅点に達するその瞬間まで、精いっぱい身を焦がし、光を放ち続けること」。大胆な表現を交えて描く、胸に迫る人生のラストシーン。

Amazonより
ある老人の死をじっくりと描いた一冊。色々な事を考えさせられる、とてもとても良い本でした。ただ、詳しく感想を書くと、なんだか滅入ってしまいそうなので、今はやめておきます。

この本で活躍されていたような相談員さん(ソーシャルワーカー?)を始め、介護や福祉や医療の現場で仕事をしておられるすべての方に、敬意を表します。
| や行(山田宗樹) | 11:47 | - | - |
▲ ジバク 山田宗樹
ジバクジバク
山田 宗樹

幻冬舎 2008-02-22

外資系投資会社のファンドマネージャー、麻生貴志は42歳。年収2千万を稼ぎ、美しい妻・志緒理と1億4千万のマンションを購入する予定を立てていた。自らを“人生の勝ち組”と自認する貴志は、郷里で行われた同窓会でかつて憧れた女性ミチルに再会する。ミチルに振られた苦い過去を持つ貴志は、「現在の自分の力を誇示したい」という思いだけから、彼女にインサイダー行為を持ちかける。大金を手にしたミチルを見て、鋭い快感に似た征服感を味わう貴志。だがそれが、地獄への第一歩だった……不倫、脅迫、解雇、離婚。 勝ち組から滑り落ちた男は、 未公開株詐欺に手を染め、 保険金目的で殺されかけ、 事故で片脚を切断される。 それでも、かすかな光が残っていた――。
ジバクはもちろん「自爆」ですよね。最後まで読むと「自縛」とも感じられましたが。

同じく転落していく人生を描いた「嫌われ松子の一生」に比べると、胸に来るものがありませんでした。まったく感動できなかった。作品自体も、作中で経過する時間も、「嫌われ〜」に比べると短いので、主人公に感情移入をする間もなく、終わってしまったからかもしれません。貴志が何を考え、何を感じているのかわからないまま、物語はどんどん展開し、そして終わってしまった感じでした。

わたし自身が女性なので、松子のほうに感情移入しやすいという理由も大きいのでしょうね。だって、この本の主人公である貴志の転落のきっかけってよくある浮気心なわけで、女性視点で見るとまったく同情の余地がない。

松子の最初のつまづきは、まだ若くて経験も力もない時に起こってしまったけれど、貴志は、社会経験も経済力も十分にあり、大人の分別を持っていて当然の年齢で、自らつまづく。松子の人生が、どうしようもないまま終わってしまったのに比べると、貴志の人生にはまだ可能性が残っているし、転落したとはいえ、最低限の生活が年金で保障されている。それなのに彼は過去の栄光を忘れられずに勝手に絶望している。なんだか、最後まで、貴志には同情も、感情移入もできないままでした。

そもそも、こんなに判断力が無く、向上心というか上昇志向もなく、意地もない男が、なぜ一度でも「成功者」になれたのか、不思議です。42歳まではファンドマネージャーとして有能だったとは、とても思えない…。

あの場面で終わらず、あと1日分、貴志の人生を描いてくれたら、また違った感想を持てたかもしれません。それから、ワーキングプアという社会問題を扱った小説であるということで、「嫌われ〜」とまったく比較しないで読むことができれば、また違った評価をすることができるのかもしれません。帯に「嫌われ松子の一生」男性版!だなんて、書かないでほしかったな。
| や行(山田宗樹) | 21:22 | - | - |
■ ランチブッフェ 山田宗樹
ランチブッフェランチブッフェ
山田 宗樹

小学館 2006-06

△ 二通の手紙
大人のための素敵な童話です。たまにはこんな物語もいいですよね。

□ 混入
社運をかけて開発した農薬「ブラサイド」で、稲が枯れてしまったというクレームが出て、二人の社員がその処理に出向きます。一生懸命で、体育会系で、でも人間の心理には、鋭い観察力と洞察力を発揮する、新入社員の緒方恵子のキャラクターがいいです。彼女の教育係である課長も、真面目で誠実で、素敵なキャラクター。この二人組で、何作か短編を書いて欲しいなあ。

□ ランチブッフェ
現在三十八歳になる信子たち幼馴染は、1、2ヶ月に一度、連れ立ってホテルのランチブッフェに行くことを楽しみにしています。今回のおしゃべりのネタは、元同級生で、アイドルになった鈴子のこと。

リアリティがあるのに、読後感が良かった!女の友情が、嫉妬と優越感でドロドロになるだけだなんて、誰が決めたのかしら・・・。まったく。

△ 電脳蜃気楼
オープニングとエンディングがなければ、これといって印象に残らない、ありがちな犯罪小説だと思います。今は下火のようですが、当時は流行りだった、デイトレを利用した詐欺事件を描いた短編。OPとEDのおかげで、リアリティがなくなって、コメディになった・・・のかな?それが作品にとって良いのか悪いのか・・・私の中で、びみょー。面白かったんですけどね。

△ やくそく
徹也と諒子の夫婦には、もうすぐ待望の赤ちゃんが生まれる予定です。しかし、諒子の妊娠中に、徹也は何度も不思議な体験をします。そして生まれた子供は・・・。なんとも言えない後味。徹也はもう、正気じゃないのかも。

□ 山の子
なんだか寂しい、というか、わびしい物語でした。でもとても短くて、その割に主人公の感情が複雑で、行間をちゃんと読み取れたかどうか、わかりません。主人公が、奥さんと上手くいっている夫婦のようで、それはとっても救いだな・・・、と、ラストで思いました。



バラエティにとんでいて、それぞれに面白い、粒の揃った短編集でした。まあ、私は、山田宗樹作品は、暗くて重い長編の方が絶対好きですけど。「嫌われ松子の一生」で一躍メジャーになってしまった山田さん。「ゴールデンタイム」「ランチブッフェ」と、暗くも重くもない作品が続いていますね。また以前のような力作も書いて欲しいです。
| や行(山田宗樹) | 22:46 | - | - |
■ 続・嫌われ松子の一生 ゴールデンタイム 山田宗樹
ゴールデンタイム―続・嫌われ松子の一生ゴールデンタイム―続・嫌われ松子の一生
山田 宗樹

幻冬舎 2006-05

あの「嫌われ松子の一生」から4年。今作は、あの時、松子の人生をたどった松子の甥・笙と、当時の笙の彼女・明日香の、現在進行形の青春小説になっています。基本的に明るくて、前向きです。爽やかです。気持ちがいいです。

「嫌われ松子の一生」の続編である、という感じは、ほとんど漂ってきません。営業的にはともかく、小説としては、その部分は必要なかったんじゃないかと思えるくらいです。もちろん、松子の人生について知ったことが、笙の人生観に与えた影響は大きかったと思うので、まったく関係なくはないんですけど。でも、この本の冒頭の4年後の段階では、笙は松子の人生を知ったことから得たことを、自分の中で消化しきれていません。だから松子についての記述が出てくると、そこだけちょっと浮いていました。

さて。笙は大学を卒業しましたが、就職活動に失敗。下北沢を中心に、フリーター生活を送っています。そんな中で出会った、演劇に人生をかける人々との交流が、彼を変えて行きます。笙が演劇を志し、1ヶ月という短い期間ではありますが、特訓を受けるシーンは面白かったです。少女趣味に走っていない分、「ガラスの仮面」より「チョコレート・コスモス」より面白かった。この部分だけ別の小説として1冊書いてほしいくらいでした。

あと3ヶ月という寿命を宣告されながらも、治療を拒否し、自分らしい人生を貫こうとする、ミックという人物との出会いを通して、彼が学んだことは大きいようです。ミックも、松子さん同様、彼の人生観を大きく変える1人になるのでしょうね。またミックの元奥さんの姿を通して、松子に対する理解を深めることが出来たりもしたようです。笙はずいぶん成長しましたね。

明日香のほうは、医師への夢を捨てきれず、大学を中退。九州の医大に入りなおして夢を追いかける毎日です。笙ともわかれて、現在は、ある地方の大病院の御曹司と交際中。明日香には、笙とは違い、自分の未来に対する夢、明確なビジョンがあるので、それが、御曹司との恋愛・結婚という人生と、折り合っていけるのかどうか、というのが見所です。明日香は、実に素敵な女性に描かれています。

ここからは、読了後の人にしかわからない感想文ですが・・・。この御曹司くん、悪い人ではないんですよね。でも、「理由がわからない。」この彼のこの言葉で、私は彼に見切りをつけました。この御曹司くん、やっぱりダメ男だわ!理由、簡単じゃん!これ以上ないくらい、わかりやすいじゃん!明日香の選択、大正解!

ちょっと残念だったことは・・・。最後のほうで、笙と明日香が再会するのですが、その部分を、私は、無意識に予想をたてながら読んでいたようなんです。「こうだったら嫌だなあ」パターンと、「こうだったらいいなあ」パターンの2種類。そうしたら、「こうだったら嫌だなあ」パターンにドンピシャ。けっこう細かいセリフまで、あててしまいました。しょぼーん。

たとえば数年後とかに、「こうだったらいいなあ」パターンの再会が、2人にあることを祈ります。
| や行(山田宗樹) | 22:47 | - | - |
■ 聖者は海に還る 山田宗樹
4344007638聖者は海に還る
山田 宗樹
幻冬舎 2005-03

by G-Tools

テーマは「カウンセリング」。ミステリーとしての、先の読めない物語の展開に、ハラハラドキドキ。ラブストーリーも織り込まれていて、テンポが良くて、一気に読みました。面白かったです。山田宗樹さんの小説の中では、かなり読みやすいほうだと思います。

とある進学校で、生徒が教室に拳銃を持ち込み担任教師を殺し、自分も自殺する、というショッキングな事件が起きます。学校側は、生徒達のショックをケアするため、そして同じような事件の再発防止のために、学校カウンセラーをおくことにします。そこにやってくるのが、天才的な才能を持つカウンセラー・亮です。物語は、亮と、この学校の養護教諭・律を中心に進んでいきます。

二人の勤める学校の物語と、プロローグで語られる「猫を殺す少年の物語」を結びつけるのが、「定岡療法」です。これは、催眠術で危険な心を封印し、犯罪を防止したりする治療法で、生徒達を勉強に集中させることにも大きな効果を発揮します。やがて、学校側は生徒達にカウンセリングを強制するようになり、律はカウンセリング自体に疑問を抱くようになり、亨は「定岡療法」を施す自分に自信が持てなくなっていきます・・・。

カウンセリングが、アメリカほどではないにしろ一般的なものになり、あちらこちらでこの言葉を聞くようになったのに、これをこんなに真っ向からテーマにした小説も珍しいんじゃないかな?ノンフィクションはたくさんあるけどね。わたしにはとても新鮮でした。

帯に「その“気持ち”は本当にあなたのものですか?」と書いてあるのですが、そういう意味で、とても恐い本でした。自分の気持ちは自分のものか?誰かにつられたり、何かに操られたりしてないか?カウンセリングなど受けなくても、時々わからなくなる事はあります。催眠術なんてかけられたらもう、絶対にわからなくなる。それでも成績をあげるため、あるいは仕事で業績をあげるため、カウンセリングを受けようと思うほど、追い詰められる・・・恐すぎです!私は絶対に催眠術なんてかけられたくないけれど、かけられたことに気付かない可能性もあるんですよね。恐い・・・。

ラストはとても切なかったです。
| や行(山田宗樹) | 22:11 | - | - |
■ 死者の鼓動 山田宗樹
4048731556死者の鼓動
山田 宗樹
角川書店 1999-03

by G-Tools

テーマは臓器移植。移植しなければ助からない、と、診断されている心筋症の少女・玲香。彼女には、洋子という友人がいて、洋子は何かあった時に、自分の心臓が玲香に移植される事を願って、ドナーカードを作っていました。夏のある日、玲香はあと1月の命と言われるまでに病状が悪化。そこへ、事故で重症を負った洋子が運び込まれます。

洋子は奇跡的に一命を取り留めたとしても、植物状態になることは間違いなく、逆に死ねば(脳死になれば)、ドナーになるという望みをかなえる事ができます。(でも、玲香のドナーになれるとはかぎらず、そこが難しい所なんですが…。)玲香のほうは着実に死に近づいており、洋子の容態がはっきりする前に、玲香の心臓が持ちこたえられずに死んでしまう、(つまり、結局は2人とも死んでしまう)という可能性が高い、という状況です。

心臓外科医であり教授でもある玲香の父、その部下である助教授や看護婦達、臓器移植に反対する洋子の父、娘を愛する玲香と洋子それぞれの母親。様々な人物が、自分のエゴと良心の間で、人の命に関わる重大な決断を強いられることになります。探偵役としてストーリーを引っ張るのは、臓器移植コーディネーター、というあまり良く知らない仕事をしておられる方で、こんな仕事があるんだぁ、と、勉強になりました。

さすが、山田宗樹さん。はずれがないですねー。ミステリーとしても真相に驚かされましたし、色んな意味で読み応えがありました。ラストも、私としては、すごく好きです。

…でも、一人暮らしを始めたばかりの人間が、夜中に読むべき本ではなかったかも…。暗いし、重いし…。
| や行(山田宗樹) | 16:04 | - | - |
● 直線の死角 山田宗樹
4048731157直線の死角
山田 宗樹
角川書店 1998-05

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最近好きになった、山田宗樹さんの、デビュー作。横溝正史賞を受賞しています。

やくざに詐欺のアドバイスもすれば、法外な値段をふっかけたりもする、どちらかというと悪徳な方の弁護士・小早川。彼は同じ日に二つの交通事故関連の事件をひきうけます。1つは、夫を轢き殺された未亡人から、もう1つはサラリーマンをはねてしまった20歳の女性から。この二つの事件の解決が、この小説の縦軸です。二つとも意外な結末を迎えます。特に、未亡人の依頼のほうは、読者が「これは妻が怪しいのでは…」と思うのを見越した上で、それでもなお意外な結末を用意してくれていて、エンターテイメントとして最高でした。タイヤ痕などからの、交通事故鑑定というのは、最近でこそTVドラマでも見かけるようになりましたが、当時はかなり新鮮な題材だったんじゃないでしょうか。

もう1つの見所は、主人公の弁護士と、パートの事務員ひろこの恋愛です。なかなか、感動的なドラマです。でも、選評で宮部みゆきさんもおっしゃっているのですが、この「ひろこ」という女性が、理想でしかなく現実的ではないところが、ちょっと弱いです。

でも、さすが山田宗樹さん。というか、デビュー作がこれってすごいですね。そして、最近の作品は、ちゃんとこの頃より、すごくなってる。いい作家さんに出会ったなあ…。
| や行(山田宗樹) | 21:53 | - | - |
● 黒い春 山田宗樹
4048732080黒い春
山田 宗樹
角川書店 2000-03

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和製ロビン・クックといった感じ。新種の病原菌ものですが、ホラーではなく、リアルな社会派ドラマです。毎年5月になると、死亡者を出す、未知の真菌症「黒手病」。何の前触れもなく発病し、30分で死に至る致死率100%の、この恐ろしい病と、戦う人たちの物語です。

研究チームは、リーダーの岩倉、三和島、飯森、の3人。彼らを中心に、研究が進められます。3人とも自分の仕事に誇りを持っていて、誠実で、熱心で、素敵です。かっこいいです。

真菌同定の過程では、小野妹子が持参した、隋の皇帝にあてた聖徳太子の手紙に関する、ユニークな仮説が登場します。歴史ミステリーとしても、なかなか面白かったです。

終盤では、飯森医師の奥さんで雪子さんという人物が、感染してしまいす。彼女の生き方が、たくましく、感動的でした。

何年も前の作品ですが、昔からすごかったんだなあ。山田宗樹さんの実力を見た、という気がします。個人的にはかなり好きでした。
| や行(山田宗樹) | 21:34 | - | - |
● 嫌われ松子の一生 山田宗樹
4344002857嫌われ松子の一生
山田 宗樹
幻冬舎 2003-01

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この本が流行っていた時には、タイトルがあまりに暗そうで、手を出さなかったのだが、最近の『天使の代理人』が良かったので、手をだした。確かに暗かったけど、スピード感があるし、構成も凝ってるし、面白く読めた。

主人公は川尻笙。松子は笙の叔母だが、彼女の存在を、笙は、彼女が殺されるまで知らされていなかった。松子の部屋の後始末を頼まれた笙は、興味本位から松子の人生を調べ始める。松子の人生は、ごく普通の大学生である笙の想像を絶するような、凄まじいものだった。

殺人事件から始まるので、ミステリーに見えるが、この本はミステリーではない。タイトルどおり、松子の転落人生を描いたものだ。松子はバカだ。その場しのぎの浅知恵で、取り返しのつかない失敗ばかりする。男に出会うたびにどんどん堕ちていく。

松子は、特にみんなに嫌われるわけでも、性格の悪い女、というわけでもない。努力家だし、情が深くて、いいところもたくさんある。ちょっとバカで、ちょっとプライドが高くて、ちょっと惚れっぽい。こういう種類の女性は、たぶんたくさんいると思う。山田さんは彼女をそういう風に描いている。それなのにインパクトの強いこの「嫌われ」という言葉をタイトルに持ってきたのはなぜだろう?

しいて言うなら松子は「運命」に嫌われたのかな。そういえば、松子の弟、笙の父である紀夫には徹底的に嫌われているな。

松子の人生を狂わせた男達はみんなどうしようもない。部下をレイプする校長も、女に水商売をさせて貢がせる男も、薬中男も、最低だ。でも、私が一番許せないのは、弟の紀夫である。紀夫は家族が、松子が去った時に田舎で苦労したので、松子を恨んでいる。妹のほうはずっと松子を慕っていたし、親も心の底では松子を心配し続けていたのに。紀夫はいい大人になっても、松子の言い分を聞こうともせず、両親や妹の意を汲むこともなく、ひたすら松子を憎むばかりだ。松子はもちろん故郷には帰れなかっただろうけど、遠く離れていても、妹・弟との良い関係をもっていたら、それは松子の転落の歯止めになったかもしれない。松子が次々に悪い男にひっかかるのも、結局は彼女がいつも一人ぼっちだからだと思うし。

松子には、紀夫に許されなかった事が、最大の不幸だったのかもしれない。物語の終盤で、小道具の聖書がクローズアップされ、「神の許し」について語られた時、そんなことを考えた。松子は色んな人を許しているし、誰にも復讐していないのに、たった一人の弟に、死んでもなお許されない。本当にかわいそうな一生だ。
| や行(山田宗樹) | 13:55 | - | - |
★ 天使の代理人 山田宗樹 
4344006194天使の代理人
山田 宗樹
幻冬舎 2004-05

by G-Tools

ファンシーなデザインの表紙と、かわいらしいタイトルに魅かれて手に取りましたが、騙されました!「生を守るための挑戦!今、1つの奇蹟が起ころうとしている!」っていう手書きのオススメカードがはられて、平積みで売ってたんです。だから、どうせ最近ブームの、死とか病気とか純愛の話で、泣かし系だと思いました。そうしたら、全然違いました。

この本は、妊娠中絶をテーマにした、ヒューマンドラマです。日本では法的規制が空洞化して、先進国としては類を見ないほどの「中絶天国」と化しているという、医療の現場の実態を暴いており、なかなか衝撃的です。最初のほうは、重くて暗くて、読み進めるのに苦労しましたが、途中からサスペンスの要素も加わって面白くなり、ぐいぐいと引き込まれました。

20年間も中絶手術にかかわってきた罪悪感から、中絶を減らすための地下組織「天使の代理人」を作った助産師が主人公です。犯罪行為であると知りつつ、たくさんの助産師や看護士が、協力者となり、妊婦達と関わっていきます。

それと平行して、もう1つの物語が語られます。同姓同名患者の取り違えという医療ミスで、待ち望んでいた胎児を中絶された奥さんの物語です。彼女がどのように悲しみから立ち直っていくのか、また、もう一人のサトウユキエさんはどんな人生を歩むのか。この2人の物語があるおかげで、この本はずいぶん読みやすくなっています。

物語の前半ではテレビ番組の討論という形で、後半ではネット上の掲示板でのやりとりで、「胎児はヒトか」「母親のライフスタイルと、胎児の命は、どちらが優先されるべきか」という問題が提示され、様々な立場の人たちが、様々な意見を言います。ほとんどの人の意見に、一理はあり(胎児は腫瘍か虫歯と同じ、という意見にはさすがに絶句しましたが・・・。)、判断は結局、読者にゆだねられています。

作中に登場する、ある編集者が、「ほんとうに訴えたいことは、できるだけ感情をおさえて、淡々と書いたほうが、迫力も出るし、読者に伝わるんです。」と、言うのですが、それを実践したような本でした。

とりあえず、物語としてのラストは爽やかですから、ぜひ、安心して読んでみてください。名作だと思います。

| や行(山田宗樹) | 22:40 | - | - |
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