このレビューには『天使の卵』のネタバレがあります。
この小説はすばる新人賞を受賞した『天使の卵』の10年後を描いた続編です。
『天使の卵』を10年前に読んだ時、泣いたのを覚えています。だからと言って、べつに私の中で『天使の卵』の評価がものすごく高いか、といえばそういうわけではありません。『天使の卵』はすごく評判が良くて、賞もとっているし、売れた本だけど、わたしはなんだかご都合主義すぎる小説だなあ、と、思いました。登場人物は運命的な恋愛のために過去を作られた感じがしたし、エピソードのすべてがなんだか唐突で、周りがさわぐほど良い作品だとは思いませんでした。
それでも、最後にぼろぼろ泣いたんだよね。感動して泣いた、というより、あれは悔し泣きでした。どうして、こんなにも悲しいラストなんだろう。なんでこうなっちゃうの?って。まあ、それだけ登場人物に感情移入して読んでしまったのですから、やっぱり村山由佳さんはすごい、ということになるのでしょうか。わたしのように冷めた目で読んでいる人も、最終的には引き込まれてしまったのですから。
さて、前置きはこのくらいにして『天子の梯子』ですが。前作を読んだ人には、ぜひオススメです。読んだほうがいいと思います。前作ではただただ可哀想な目にあっていた夏姫ちゃんを、きちんと拾い上げています。それに、よく考えると前作では、ただただ情けなかった歩太くんのことも見直せます。
ご都合主義とか、唐突な展開とか、前作でわたしが気に入らなかった点に関しては、そのままです。というか前作以上です。だから前作を好きだった人は、きっと好きです。『天使の卵』で姉と恋人を失った夏姫が、姉の年になり、姉そっくりの姿になって、姉をなぞるような恋愛に落ちていく。前半の夏姫と慎一の、ありえないくらい綺麗で、あくまで真面目でひたむきな恋愛は、村山節全開です。今、純愛ものって人気あるみたいだから、そういう意味でもオススメです。
正直なところ、私は、プラスチックの表面をつるつるなでているような感じがして「あ、この本買わなくてよかったかも・・・」と、前半で一瞬思いました。
でも、後半が良かった。わたしは『天使の卵』より、この『天使の梯子』のほうが好きです。あくまでも『天使の卵』の続編として読んでいるので、10年がたった歩太くんの成長ぶりに感無量でした。辛い、重い、苦しい出来事を、こんな風にのりこえていく男の人って、かっこいいなあ・・・と。ワイルド歩太くん、かっこいい!慎一のばあちゃんや、社長さんなど、歳月の重みを背負った人たちのキャラクターも良かったです。
今回、私は泣きませんでした。でも、かなり感動しました。時が流れる、ということの悲しさ、残酷さと、美しさがあふれていました。