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▲ ミハスの落日 貫井徳郎
ミハスの落日ミハスの落日
貫井 徳郎

新潮社 2007-02-21

海外を舞台にし、外国人が主人公になった5つの短編。

・ミハスの落日
・ストックホルムの埋み火
・サンフランシスコの深い闇
・ジャカルタの黎明
・カイロの残照

海外を舞台にし、登場人物が外国名ばかりなのは、雰囲気作りなのでしょうけれど、わたしにはその雰囲気が、いまいち伝わってこなかったような…。伝わっては来たんだけど、その小説の持っている雰囲気とマッチしていないというか、それぞれ、そのストーリーにその雰囲気作りをする、という必然性が感じられず、むしろ違和感ばかりが残ってしまいました。ストーリーは素敵なものが多いのに、そのせいで、どの作品も、小説として軽くなってしまった印象で、残念でした。でも、これは個人の好みの問題ですね。

そして私は、個人の好みとしては、貫井徳郎さんの小説は長編が好きなんです。
 
| な行(貫井徳郎) | 09:55 | - | - |
■ 空白の叫び 貫井徳郎
空白の叫び 上空白の叫び 上
貫井 徳郎

小学館 2006-08-25

空白の叫び 下空白の叫び 下
貫井 徳郎

小学館 2006-08-25

ネタバレ多少あり。

殺人者となってしまった3人の14歳の少年を描いた、貫井徳郎さんの超力作。長期連載のせいか、全体的に構成の荒さが目立ちますが、心情描写はとても丁寧でしたし、重いテーマなのにサービス精神にあふれていて、一気に読ませます。

少年犯罪をテーマにした本は、最近たくさん読んだような気がしますが、この本の世界観は、そのどれとも違いました。お涙頂戴シーンはなし。少年だからといって加害者に同情の余地なし。どの登場人物にも、リアルな絶望が用意されている、容赦のない本。それでも読者にとっては、1級のエンターテイメントとして楽しめる本。強いて言うなら、桐野夏生さんの『OUT』に似ているかなー。心のどこかに闇を抱えてはいても、一応は、ごく普通の人間として暮してきた人たちが、ある日すとんと犯罪という罠に落ちてしまう群像劇。一度落ちたら、戻ることはできず、その罠の中で心が磨耗していく。そんな絶望感が、なんだか似ていました。



第一部では、3人の14歳の少年が、殺人者になるまでの物語が、交互に語られます。

甘い母親と平凡な父親のいる、ごく普通の家庭に育ち、特に秀でた才能も持たない久藤美也。いじめられっ子だった彼は、中学校に入ってからいじめる側にまわり、暴力的に振る舞うことで、生徒からも教師からも恐れられるようになります。それでも彼は、自分を凡庸だと認識しており、その凡庸さを嫌悪し、常に苛立っています。いわゆる、肥大した自我を持て余している、というのでしょうか。ちょっと早熟ではありますが、文芸の世界ではありがちな「思春期」を送っている少年として描かれている、と、思いました。そんな彼の前にあらわれたのが、理想にもえる堅物の新米教師、理穂でした。(理穂とその父親のエピソードは、サイドストーリーとして興味深かったです。理穂は、かなり歪んだ女性なのですが、父親にその原因があることは明らかです。でも、父親がそれを認識することはありません。)

久遠とは逆に葛城拓馬は、あらゆる意味で特別な少年として描かれています。葛城は、医者である父親のもと、何不自由なく育ち、頭脳明晰で有名中学に通い、ルックスも際立って良く、運動神経も良い、あらゆる点で恵まれた人間です。趣味はガンプラの製作。血のつながった母親はいませんが、4人目の義母とは気が合い、義母の友人たちとも、うまくつきあっています。彼は、自分が特別であることを十分に認識していますが、奢ることなく、終始淡々としています。唯一、彼を苛立たせるのは、同じ屋敷の中で暮らし、共に育った使用人の息子、英之の存在です。ある日葛城に、人生で始めての挫折がやってくるのですが、その挫折は、英之に対するコンプレックスと結びついて、葛城の中で膨らんでいきます。

神原尚彦は、両親との縁が薄く、母方の祖母と叔母に育てられました。そんな自分の境遇に、ずっと不満を持っており、自分を省みずに遊び暮す母親に、怒りを感じています。しかし祖母と叔母のことは慕っており、家族思いの優しい少年として描かれています。友人と無邪気にはしゃいだり、幼馴染の佳津根という少女を意識したり、「普通」の中学生活を送っているようです。しかし、祖母の死後、遺産、そして男を巡って、母と叔母が争うようになり、その醜悪さを見て、彼の人生は変わってしまいます。

久遠、葛城、神原。3人が殺人を犯すに至る背景と、それぞれの心情が、丁寧に描かれているにも関わらず、共感はまったくできませんでした。「その気持ち、わかる」と思えない。ある程度は「わかる」し、かわいそうだと思う部分もあったけれど、やっぱり「え、そんなことで、もう殺しちゃうの?」という感じでした。第一部は、似たようなエピソードや、心情描写の繰り返しが多く、ところどころで退屈だったのですが、それを我慢して読んだわりに、共感できなかったのが残念です。もう少し、短くても良かった気がします。

まあ、実際の少年犯罪のニュースを見ても、「え、そんなことで・・・」と、思うことが多いので、そういう意味ではリアルでした。

第二部では、この3人が同じ少年院に収容され、不思議な連帯感を持つようになります。少年院は更生施設のはずですが、実際は、厳しい日課が課せられ、体罰と陰湿ないじめが公然と行われる、過酷な世界です(本物の少年院は、こんなところではないと信じたいです。これで、更生できるわけがない!)。久遠と葛城は同室になり、二人の間にはいつしか、奇妙な信頼関係が生まれます。そして神原は、保身のために味方を作ろうとして、葛城に接近します。

少年院の中では、3人の本性が徐々に明らかになります。いちばん「不良」っぽかった久遠は、ひたすらに経を唱えて自分を律しようとしており、実は、真面目すぎるほど真面目な人間のようです。約束は必ず守る、律儀な男でもあります。すべてにおいて優秀で、負けたことなどなかった葛城は、潔癖症で、完璧主義で、実は精神的な脆さを抱えていました。常に冷静な傍観者であろうとしましたが、いざ自分が攻撃されると、その脆さによって自滅します。「優しい良い子」に見えた神原は、考えの甘さ、精神年齢の低さを露呈します。他人に媚び、他人を利用することしか考えていない彼は、誰からもなめられます。

そして、第三部。少年院を出た3人は、更生できるのでしょうか?

世間は、そう簡単に3人を受け入れてはくれません。実家に戻った久遠は、保護司のもと、新聞配達の仕事を真面目にしようとします。しかし、過去を知る誰かの悪意のある嫌がらせによって、やめざるを得なくなります。葛城は実家に帰る事を許されず、父親にあてがわれたマンションで、一人暮らしをすることになります。神原も、叔母に捨てられ、アパートで一人暮らしです。葛城と神原も、様々な嫌がらせを受けます。3人は居場所を見つけられず、追い詰められていきます。

3人が再会してからの展開は、スピーディーで面白かったです。いきなりエンターテイメント性が増しています。登場人物も一気に増えます。ネズミ講、爆弾作り、銀行強盗、出生の秘密、初恋の行方、などなどなど、エピソードももりだくさんで、楽しめました。(連載が始まってから何年かたっているので、貫井さんの作風も多少変わったのかな?)

第三部はクライム・ノベルとしては1番面白いのですが、つめこみすぎで雑になってしまった印象があります。葛城と神原がつながった時は、たいそう驚かせてもらいましたが、全体のバランスを考えると、できすぎのエピソードだし、やりすぎの読者サービスだと思います。それに、久遠のほうのエピソードは、関係者が総じて無駄に再登場した感じがしました。(登場するたびに、この人誰だっけ?って思いました。水島とか。)



読後感は、ある意味、とても悪い本でした。その半分は、神原の本性というのが恐いというか、気持ち悪いからです。でも、彼が14歳であるという事実を考えると、複雑な心境になります。子供というのは、自分が弱くて小さい事を知っていて、誰かに守ってもらえると思っていて、それが許される存在のはず。守ってもらえるという安心感を、抱いていなければいけない存在のはず。殺人の罪の重さを自覚しきれなかったという点で、神原に同情の余地はないのですが、葛城と久遠が不幸にも大人すぎるのであって、神原の恐さ、気持ち悪さは、単なる子供らしさではないかと思いました。それでもやっぱり、ラストで葛城が佳津根に語った神原像には、溜飲が下がりましたけど。

そしてもう1つ、読後感の悪さの大きな原因は、更生するのかも、と、かろうじて言えるのが葛城だけであったこと。葛城と久遠・神原の決定的な違いは、結局、葛城には親がくれる金があった、ということだと思うんですよねー。実家が経済的に豊かではなく、働かなければ居場所がないような状況だったら、久遠より、神原より、真っ先に葛城がまいっただろうと思います。世の中、やっぱり金か〜(^_^;)

「更生する」というのは、もちろん、単にもう罪を犯さないということではありませんよね。たぶん、健全な人間として社会に参加し続ける事を言うんですよね。それは自分だけの問題ではなくて、周囲の人々に、自分が更生した人間であるという事を証明し、それを認めさせなければならないということ。この本を読んでいると、少年たちの更生の邪魔をしているように見える、退院後の彼らを受け入れない人々や、悪意のある嫌がらせをする人々が、ものすごい悪人に見えますが、悪いのはもちろん殺人者です。いくら幼くても殺人を犯した人間が、たった10ヶ月拘束されただけで戻ってきてしまえば、彼らがもう罪を償ったと認めることは難しいですよね。周囲のある程度の割合の人が納得できるだけの罰を、きちんと受けることが結局、本人の更生に役立つのだと、改めて思いました。少年法の改正は、そういう意味でも、良い方向性だったのだと思いました。

贅沢を言うなら、少年法の改正前に出版されれば、もっと衝撃的で話題性のある本だったのに、と、思います。大作すぎて、完成までに時間がかかりすぎてしまいましたね。
| な行(貫井徳郎) | 13:51 | - | - |
■ 愚行録 貫井徳朗
愚行録愚行録
貫井 徳郎

東京創元社 2006-03-22

重要なネタバレはなくす努力をしましたが、保証はできません!
一家を惨殺した「怪物」はどこに潜んでいたのか? さまざまな証言から浮かび上がる、人間たちの愚行のカタログ。人間という生き物は、こんなにも愚かで、哀しい−。痛烈にして哀切、「慟哭」「プリズム」に続く、第3の衝撃。
プロローグとして、ネグレクトによる3歳女児衰弱死の事件が扱われます。物語の中心になるのは、6人の関係者へのインタビューによって語られる、エリートサラリーマン一家四人の惨殺事件です。その合間に、「ねえ、お兄ちゃん」という、少女の語りが挿入されます。この3つがどう絡み、どんな真相があぶりだされるのか?というミステリィ。

・・・と、書くと、いかにもショッキングな内容のように思われそうですが、心理描写メインの、どちらかというと地味な小説です。「慟哭」「プリズム」に続く、第三の衝撃、それは言いすぎなんじゃないかと・・・。貫井さんで衝撃といえば、なにかすごいトリックを期待してしまうじゃないですか!(わたしだけ?)全然そういう本ではありませんでした。

基本的に内容は、後味の悪い嫌な感じの本なので、せめて何か、トリックがあって、その謎解きがあって、カタルシスがあって、という快感があれば良かったのに、と、思ってしまいました。とりたてて「衝撃」というほどのものは、何もなかったですねー。ネタバレはしていないつもりのこの感想文ですが、これを読んだだけでも、真相が分かる人には分かってしまうような気がします。

わかりやすい私利私欲に安易に流され、表面だけを取り繕って生きてきた、エリートサラリーマンと、美人妻の、自己中心的な真実の顔。それが死後、周囲の人々によって、赤裸々に語られてしまう。「死者をそこまで悪く言う?生きているときは友達だったんじゃ・・・」って感じです。二人も、周囲の人も、だんだん悪い人に見えてくる。確かに人間の嫌な部分を描いた、後味の悪い本です。(慶応出身の人の感想が聞きたいなあ。本当にああなんでしょうか?)。

でも・・・意外にこの夫婦、底が浅かった・・・残念。哀愁に満ちた愚かさではなく、単に愚か、という感じ。周囲の人もね。だから後味の悪さが、中途半端です。桐野夏生さんあたりの、本物の後味の悪さとは、比べものになりません。

それに、このインタビューという手法、直木賞がらみでは、恩田陸さんが「ユージニア」で落ちて、宮部みゆきさんは「理由」でとってるんですよね。「理由」クラスの大作でないと、直木賞は無理かなあ、と、思います。だって、インタビューが続くという事は、作家の文章力で勝負!という、使い方によっては有力な武器を封印してるんだもんね・・・。不利だと思います。貫井さんのことだから、そこに何かしかけ(叙述トリックとか・・・)があるのかと思ったら、特にそんなこともなかったし。

うーん。この本、貫井作品の中では、はずしちゃったほうだと思うのは、私だけでしょうか。貫井さんの作品には、もっとすごいものがたくさんある!

結局、東野圭吾さんの後釜として、これから直木賞としては、本格ミステリィ畑からは、貫井さんをフューチャーしていきます、って事かな?また何度も候補になっては、落とされるんなら可哀想だな。貫井さんが本当にすごい作品を出してくれたときにはもちろん候補にしていただいて、いつか貫井さんに直木賞作家になって欲しい。でも、広い視点で、色んなミステリィ作家さんに、ちゃんと注目してもらって、ちゃんと認めてもらいたいです。今、ブームじゃないのはわかってるけどさ。



えー。直木賞候補になったので、あわてて読みました。直木賞候補作品連続3作目だったりします。ですから、不当に評価が辛くなっている自覚はあります。それなりに、読み応えはある本です。

| な行(貫井徳郎) | 00:59 | - | - |
● 追憶のかけら 貫井徳郎
photo
追憶のかけら
貫井 徳郎
実業之日本社 2004-07

by G-Tools , 2006/04/15




うん、いい本でした。この厚さで、上下ニ段組、そして一部旧仮名遣い、というところで、読むのを躊躇している方がおられたら、大丈夫だから読んでみましょう!と言いたいです。読み始めてしまえば、面白いし、テンポもいいし、最後まで一気に引っ張ってもらえます。

主人公は、国文学の研究者である大学講師・松嶋。いい人なんだけど・・・。お人よしで、騙されやすくて、流されてばかりの、情けない男なんですよね。でも、とにかく一生懸命ではあって、好きなタイプの主人公でした。

彼は、上司である教授の娘と結婚していたのですが、自分の浮気が原因で夫婦喧嘩をし、妻はちょうど実家に戻っているときに事故で亡くなりました。その結果、妻の両親とは冷戦中で、娘もとられてしまっています。娘と一緒に暮したい。仕事もできれば失いたくない。けれど、義父には冷たくあしらわれるばかり・・・。

そんな絶体絶命の松嶋のところに、戦後間もなく自殺を遂げた作家・佐脇依彦の、50年前の未発表手記が持ち込まれます。手記には、佐脇が死を決意するにいたったいきさつが克明に描かれていました。この手記を発表することができれば松嶋は、画期的な業績を上げることができ、大学に残ることができるかもしれません。

手記の中で、佐脇を追い詰めた犯人についてはわからないままになっていました。佐脇の知り合いだったという手記の提供者から、佐脇の死の謎を解くことが資料を提供する条件である、と言われ、松嶋は、過去の事件を調べはじめます。

小道具となっている、佐脇の「手記」がとてもよかったです。これだけで、単独の青春小説にして欲しいくらい、いけてます。敗戦直後の日本に、生き残ってしまった若い男性は、それぞれ複雑な心情を抱えて生きています。戦争に行ったものは行ったことで苦しみ、行かなかったものは行かなかったことで苦しむ。女性も生きるために、毎日が闘いの連続です。貧困と飢餓の続く中で、若者たちは、それでもまっすぐに生きていますね。ちょっと感動的でした。それに、終盤、佐脇がじわじわと追い詰められていく様子も怖かったです。

手記の謎を探る松嶋もまた、何者かによって追い詰められていきます。学会誌に発表した後、「手記」が偽者であることが発覚。「手記」を持ち込んだ人とも連絡がとれなくなります。しかし、「手記」の内容を裏付けるような関係者は次々に現れ、手記の内容は本物らしいことがわかります。それでは、誰が何のために、松嶋に偽の手記をつかませ、松嶋を破滅させようとしたのか・・・二転三転する展開に、はらはらです。

そして、結末。

とうとう明らかになった「黒幕」の、純粋な悪意、その残酷さと理不尽さには、恐ろしいものがありました。怖いなあ〜。

そして・・・しまった・・・。これは感動本だったか・・・。

わたしったら、勝手に最後の最後まで大どんでん返しを警戒していて、泣きそびれてしまいました。最後まで来たら、警戒心は解いて、家族や夫婦の愛の物語として、素直に感動できるはずだったんですね。「慟哭」の著者ということで、やたら警戒してしまって、失敗でした。

素直な気持ちで読みましょう。とってもいい本です
| な行(貫井徳郎) | 07:26 | - | - |
■ 悪党たちは千里を走る 貫井徳郎
4334924689悪党たちは千里を走る
貫井 徳郎
光文社 2005-09-26

by G-Tools

素直に、面白かったです。

真面目に生きることが嫌になった3人が企てる、「人道的かつ絶対安全な」誘拐とは?そしてその結末は?

テンポが良くて、スピード感たっぷりで、楽しい楽しい本でした。登場人物も、お人好しで、どこかマヌケで、愛すべき人ばかり。ちょっとしたユーモアが、あちこちにちりばめられていて、私は笑えました。個人的には、巧の父親がツボでした。

まあ、ただ楽しいだけの本に千七百円を投じる価値があるのか、と言われると微妙ですが・・・。うーん、ほぼ映画一本分かあ。私は図書館本で読んだので問題無しですが、友達がこれから買うと言ったら、図書館にあるよと、教えてあげたいかもしれません。図書館で借りる、あるいはブックオフで買うという人には、オススメの本です。読んで損はありません。(一応、誉めてるつもりです。)

帯に、こう書いてあるんです。
「慟哭」の著者がユーモアとスピードたっぷりにおくる誘拐ミステリの新境地
いまだに貫井さんは、「慟哭」の著者って書かれてしまうのね・・・。これだけ、違うイメージの作品にまで、「慟哭」がついて回るなんて、貫井さんも微妙な心境でしょうね。「慟哭」のインパクトがそれだけすごかったということではあるけど。

この本に、この帯は、やめて欲しかったなあ。

だって「慟哭」系列の作品を期待して、この本を読んではいけないんだもの。もう、最初から、全然違う読み方をしなくてはならない作品なんだもの。誘拐ミステリの新境地、というよりは、貫井徳郎さんの新境地なんだもの。

この本は、犯罪小説ではあっても、推理小説ではないので、真相をあててやろうとか、作者に騙されないぞ!とか、そういうミステリファンにありがちな読み方をしたら、駄目なんですよね。些細な描写に振り回されたり、疑心暗鬼に陥って、集中できなくなるだけなの。オチが読めたからって自慢にもならないし、快感でもないの。些末な欠点が気になって、ただただ、楽しさを追求した小説なのに、楽しくなくなっちゃうの。

というわけで、私は帯に、一言文句があるのでした。文字が小さかったことが救いかな。
| な行(貫井徳郎) | 23:57 | - | - |
■ 失踪症候群 貫井徳郎 
4575506362失踪症候群
貫井 徳郎
双葉社 1998-03

by G-Tools

こんな堅いタイトルなのに、エンターテイメント性の高い、すっごく面白いミステリーでした。映画化したら、受けると思うんだけどなあ。2時間ドラマ化でもいい。

警察が表立って動けない仕事を秘密裏にこなす「仕事人」シリーズの第一作目、だそうです。今回、謎の若者連続失踪事件のために、環のもとに集まったメンバーは3人。元警察官で私立探偵の原田、托鉢僧の武藤、肉体派の倉持です。3人が手分けして謎を追います。

前半のテンポがやや悪いことと、後半に入ってからがらっと雰囲気が変わってしまうことが、欠点といえば欠点かも。最初のうち読みにくかったし、途中でも少し違和感がありました。でも面白かった!二作目・三作目も読みます!原田と、原田に反抗する娘とのストーリーが心に残りました。
| な行(貫井徳郎) | 16:41 | - | - |
烙印 貫井徳郎
448801268X烙印貫井 徳郎東京創元社 1994-10by G-Tools

今年の夏は、貫井徳郎さん(他数名の男性ミステリー作家)のコンプリートを目指している。この「烙印」は、貫井さんの2作目。

妻に自殺された元警察官が、その理由を探すうちに、暴力団の抗争に巻き込まれて…

という物語。

私には、「つっこみ書評」とか「こきおろし書評」を面白おかしく書く才能はないし、嫌いな本の感想を書くなんて面倒だと思う。それに、その本を好きな人に読まれてしまって嫌な思いをさせたくもない。というわけで、いつもなら、マイナスの感想文は書かない。

でも、この本は、のちに「迷宮遡行」というタイトルでリライトされて、より完成度が上がったらしい。だから、「迷宮遡行」を読む前の、「烙印」の感想を残しておこうと思う。

なんというか…ミスリードにしろ、真相にしろ、あらゆる部分で無理がありすぎる。ラストも、どうして主人公がそういう行動をとらなければならないのか納得できない(つまり、彼に感情移入できなかった)。それに、明らかになる、妻側の事情も甘いと思う。なんでそこまでしなくちゃいけなかったのか、説得力がない。

著者があとがきで、「私はハードボイル書いたつもりもなければ、本格として読んで欲しいわけでもない。ハードボイルドファンにも読んで欲しいし、本格ファンにも楽しんでいただけるように書いたつもりだ。」と書いているが、本格ファンには、発表当時、こきおろされたんじゃないかと思う。前作が良かっただけになおさら。この謎解きは…本格ファンじゃなくても認められないというか、あんまりだ、と、思うと思う。

それに、全体として良くも悪くも、ジャンルとしてはハードボイルドだと思う…。大きな組織を離れて一匹狼になった主人公が、別の巨大な組織に1人で立ち向かうんだよ。彼は孤独なんだけど、昔馴染みの協力者が少しはいたりして、そこを攻撃されるとすごく怒るような熱い一面もあるんだよね…。だけどこの小説には、主人公が全然かっこよくない、という欠点があって、そこがハードボイルドとしてはかなりの致命傷。というわけで、ハードボイルドファンにも、好まれないのではないか、と、推測。

以上。酷評してしまった…。「迷宮遡行」が楽しみです。
| な行(貫井徳郎) | 16:49 | - | - |
★ 慟哭 貫井徳郎 
4488425011慟哭
貫井 徳郎
東京創元社 1999-03

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再読。

刑事佐伯を中心に幼女誘拐事件の捜査を行う警察の行動と、犯人らしき謎の男の行動が交互に描写されて、ストーリーは進行していきます。初めて読んだ時から、「図書館本」で帯がなかったので、先入観はありませんでした。だから、この本にはゴーンとやられました。名作だと思いました。

いっさいネタバレができない本なので、感想を書くのが辛い・・・。

再読してみて。この本は、名作ではあるけれど、季節ものだったような気がします。私が初めて読んだ頃は、すごく評価が高かったらしい。それにはとても納得できます。それから6年近くたった今でも、読み応えのある本であることに変わりはないし、佐伯の内面や家族に関する描写など、「名作!」と思う部分も多かったです。でも、やっぱりあの時期だったからこその、高評価だった、とは言えると思う。

「この手」のトリックや、「この手」のトリックの更なるアレンジ版などが、次々と出過ぎてしまった今となっては、最大の売りであった○○○の衝撃は、やはり薄れてしまっている。(ネタバレできなくて辛い!笑)

でも、再読する価値はちゃんとある本でした。 
| な行(貫井徳郎) | 16:12 | - | - |
★ 天使の屍 貫井徳郎 
404873007X天使の屍
貫井 徳郎
角川書店 1996-11

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子供には子供の論理があります。それは大人の社会では通用しない、子供達だけの論理です。その論理は大人の目からすれば理不尽にも、また正当性を書くようにも見えるのでしょうが、子供には法律以上に大事なことなのです
中学生の連続自殺事件を追う、父親の物語です。最初の自殺者、優馬の父親は、「絶望した」という息子の走り書きを見ても、息子の友人のもとに届いた「失恋したので自殺する」という遺書を見ても、「親の直感」で息子の自殺を信じる事ができません。しかし、警察は自殺と断定。しかも息子はLSDを常用していた事が検死により明らかになります。

その後、息子の友人達が次々と自殺をとげます。父親は、次から次に、意外な真実を知る事になります。そして、最終的に、1つの推理にたどり着くのです…。

この最終的な推理、つまり事件の真相ですが、それは読めませんでした。本当に意外でした。やられたー!そこまでやるか!って感じ。だから読み終わった時に満足感がありました。

1つ難点をあげるとすれば、ある子供の遺書に隠された「暗号」。あまりにベタすぎて、見た瞬間にわかっちゃったので、興ざめでした。

10年近く前の本なので、イマドキの中学生はこれよりさらにすごいのかな、と、思うと、私はちょっと恐いです…。
| な行(貫井徳郎) | 21:43 | - | - |
● さよならの代わりに 貫井徳郎 
4344004906さよならの代わりに
貫井 徳郎
幻冬舎 2004-03

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劇団「うさぎの眼」の看板女優が、上演中に殺害されました。事件と前後して和希の前に現れた、謎の美少女、祐里。和希は、彼女に振り回されながら、彼女と共に事件の謎を追うことになります。しかし、祐里には、なにやら秘密があるようで・・・

という、ミステリーです。また、プロローグの段階で、タイムスリップの物語であるという事もあかされていて、SFとも言えます。私はミステリーも、SFも好きで、その二つが融合したものも好きです。だから、この作品はとても楽しめました。「未来を作るのは現在である」という、単なるSFであれば、ちょっと古く感じられる、気恥ずかしいようなメッセージ性も、ドロドロとした人間関係の中で起こる殺人事件と絡まりあう事で、程よくおさまっています(←ほめてます)。

ラストの50ページぐらいが、本当に秀逸です。そこだけ、何度も読んで、読むたびに感動するほどです。切なくて哀しくて、それでも前向きで、かっこいいラストでした。読者には、かなり早い段階で、祐里がタイムスリップをしていることはわかってしまうのに、その上で、最後にさらに「え!」と驚かせてくれて、感動させてくれるなんて、すごいです。

その割に星が少ないんですけど、その理由は・・・

ここからはネタバレ&私情入りまくり。なので、他の投稿サイトでは切っちゃった、投稿しなかった文章です。





ひとえにこれは、私には、男心の行間は読めなかったから、だと思われます。

主役の僕「和希」は、恋愛に関してはとても生真面目で一途で不器用で、と設定されています。そして、もう何年も報われない片想いを「智美」さんという女性にしています。和希くんは、本当に智美さんが好きで、智美さんとデートできて大喜びしたり、お見合いをすると言われて落ち込んだり、その後もまた悩みを相談したり、事件の間ずっとそうしてるんです。

それでも男心のわかる人なら、和希くんの気持ちが祐里に移っている事なんて、疑いようもないし、はっきり書かれてなくても「当然そうでしょ」ってところなんでしょうね。そのつもりで読んでたら、あのラストは切なくて切なくて、ボロボロ泣けたかもしれません。

でも私は、和希くんが告白するまで、「?」のまま保留にしていました。そうかもしれないけど、そうじゃないかもしれない、と、思いながら読んでしまいました。普通の小説なら、当然和希と祐里のラブストーリーだよね!と、思うところだけど、これはタイムスリップものでしょう。祐里と和希に血縁関係がある可能性とかも考えちゃったし。

だから、和希くんの告白からラストまで、だと、ページ数的に感情移入するには足りなくて、切なくなりきれなくて残念だった。それで星を1つ減らしました

もう1つの減らした星は、真犯人が途中でわかってしまったから・・・。細かい部分までは、もちろんわからなかったけど、誰かという事と、だいたいこんな動機なんじゃないかって辺りは、全然意外性がなくてね。「こう」と思わせておいて、裏切ってくれるんじゃないか、と、期待しながら読んでいったら「こう」と思ったそのままだったから、びっくりした。ある意味、意外と言えるんでしょうか・・・。それで星が減っちゃいました。

私は、貫井徳郎さんの小説は、この本がはじめてだったのですが、これから、さかのぼって他の本も読んでみようと思います。どうやら、他の本のほうが評判もいいし、私の好みらしいので。
| な行(貫井徳郎) | 23:42 | - | - |
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