| 温室デイズ
瀬尾 まいこ
角川書店 2006-07 |
小学校6年生の時に学級崩壊があり、その恐さと虚しさをよく覚えている、みちる。彼女は、中学3年生になった今、その同じにおいを、その兆しを、敏感に嗅ぎ取っていました。そしてそれを食いとめようとして失敗し、崩壊した教室の中で、いじめられっこになってしまいます。
その同じ小学校時代の学級崩壊の中で、いじめに耐えられず、隣の小学校に転校した優子。彼女はみちるの唯一の味方でしたが、今回も教室に耐えられず、保健室登校をするようになります。みちるの幼馴染で、いわゆる不良の瞬には、クラスを立て直す力がありそうですが、今は、家庭の問題と将来への不安を抱えて苦しんでいます。小学校の時はクラスのリーダーだった斎藤くんは、クラスの有能なパシリになっています。
みちると優子が交互に語り手をつとめる物語ですが、瞬と斎藤君の気持ちも伝わってきます。それぞれがそれぞれの方法で、何かしよう、戦おう、としているのに、うまくいかない、辛い。そんな気持ちがとてもリアルで、息苦しいような本でした。
瀬尾まいこさんの本の中では、かなりリアルに痛くて、甘くない本だったと思います。ちょっといい話、なんかでは終っていません。友情とか、初恋とか、そんなものでごまかしてもいなくて、まっすぐに、学校という場で闘わなければならなくなった、二人の少女の心の軌跡を描いています。ラストもリアルで、甘くはない。この本を読むと、学校は「温室」だなんて、とても思えません。
私の中学生時代は、ずいぶん昔のことになりました。あの頃は、学級崩壊なんてなかったし、いじめもあったけど、ここまで陰湿な社会ではなかった。それでもやっぱり、「いじめ」という言葉に自分が完全に無関係であったとはいえません。みちるのように堂々と立ち向かったことなんてないし、斎藤君や優子のように、賢く立ち回ったこともない。なんとなくその言葉には、罪悪感を刺激されます。
私は、不登校の生徒と接する機会が多いのですが、学校が本当にこんな場所なら、行くようにと説得する気にはなりません。この本を読んでいる最中も、みちる、なんでそこまでがんばるの、やめちゃいなよ、と、ずーっと思っていました。でも、誰かが行かなくなれば、ほかの誰かがいじめにあうんですよね。やっぱり何か根本的な改革が、学校という存在には必要だと思います。それは、先生や保護者の学校に対する意識の問題かもしれないし、社会全体の子供に対する意識の問題かもしれない。とにかく、目に見えないものであることはまちがいないんでしょう。だから、なかなか解決しない。
どんな子供でも、その子にあった教育を受けるチャンスと空間が選べればいいのですが。