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▲ スローモーション 佐藤多佳子
スローモーションスローモーション
佐藤 多佳子 ゴトウ ヒロシ

ジャイブ 2006-06-01

文庫化されたので読みました。もとは、1993年4月に出版された作品です。再読のように思いますが・・・記憶にはありません(笑)。

主人公は高校1年生の千佐。22歳のニイちゃんは元不良で、彼の噂がいまだに学校に残っています。だから千佐も、1番派手な不良のグループとつるんでいますが、実際の千佐本人は、水泳部の練習に真面目に参加しているし、クソ真面目な父親が定めた門限も出来るだけ守ろうとしている、いたって普通の少女のようです。ニイちゃんが、バイクの事故以来、リハビリもせず、就職もせず、家にゴロゴロしていることが、千佐を日々苛立たせています。

千佐は、いつも動作がスローで、いつも1人でいる同級生、及川のことが気になってしかたありません。ある日、ニイちゃんと及川が知り合いであることがわかり、その後千佐の生活は大きく変わることになります。

千佐の一人称で描かれているのですが、この本は、千佐の物語という感じはしません。ニイちゃんと及川の物語です。過去のある事情から、ゆっくりしか動かないと決意した及川という少女と、事故のせいでゆっくりしか歩けないニイちゃんが出会い、束の間寄り添い、再び走り出すまでの物語。でもこれを、2人の間にたった千佐の視点で描き、千佐の心情描写に徹したところが、上手いなあ、と、思いました。ニイちゃんや及川は少し特殊すぎて、読者は共感しづらい。でも千佐なら、読者に近いところにいます。さすが!でも、及川視点の話とか、ニイちゃん視点の話とかも、あったら面白いのになあ、と、思いました。

文章が、やっぱり今の佐藤さんに比べると、下手なのかな?という気もします。一人称の語り手、千佐が、不良だけど、どこか真面目で、言いたいことははっきり言うとても率直な少女なので、彼女らしい語り方をした結果、こんな風に、ぶっきらぼうでリズムが悪くなっちゃったのかな?とも思います。構成も、週刊誌の連載マンガがブツっと打ち切りにあったような終わり方で、「え?」って感じです。だから、あまり高い評価はつけられなかったのですが、でも・・・わたしはやっぱり佐藤さんのYAは好きだな、と、思いました。

あとがきを、荻原規子さんが書いておられるのですが、そこに書かれていることにとても納得しました。この作品は当時の「トレンド」だったのかもしれません。いまどき、この本の中に描かれているような、絵に描いたような不良なんて見ないですもんね。10年もたっていないのに、大人に「悪い」と言われる高校生は、外見ではっきりわかるような単純さや純粋さを失ってしまったし、「不良」なんていう可愛いものでもなくなってしまいました。賢くなったとも言えますが、自分が大人になった今では、最近の子は可愛くないな、と、思うことがあります。でも、時代は変わっても、家庭と学校という狭い世界で、くだらなく見える規則や、尊敬できない大人に縛られて、息苦しい思いをする時期だというのは同じ。千佐に共感する子は、多いと思います。
| さ行(佐藤多佳子) | 23:54 | - | - |
★ 黄色い目の魚 佐藤多佳子
4104190039黄色い目の魚
佐藤 多佳子

新潮社 2002-10

この本は長いけど、たぶん対象年齢、中学生・高校生あたりなんじゃないかと思います。主役はみのりちゃんというまっすぐで、絶交とケンカばかりして、家庭でも学校でも問題児の女の子と、サッカーが大好きだけど補欠でキーパーの悟君です。2人の小学生から高校生までを、一章ずつ交互に、それぞれの一人称で追っていく形式ですが、メインは2人の高校時代です。テーマは自分探し、自分の居場所探し。モチーフは、機能不全の家庭と、絵画。みのりちゃんは家族を憎んでいて、叔父さんだけが好きで、その叔父さんがイラストレーター。悟君の両親は離婚していて、離れて暮らす事になった父親が飲んだくれの絵描き。

とても純粋というかピュアというか、どまん中で青春しちゃっているラブストーリーです。そういう小説だから、双方の一人称という形式は、なんだかとても切実で、痛々しく、さすが佐藤多佳子さん、うまい!と、思いました。2人の将来とか、家族の問題とか、恋愛の行方とかに関しては、ネタばれしないことにします。一応オススメ本なのでね。

さて。基本的にラブストーリーは不得手なわたしが、この本のどこに惹かれたのかというと、わたしには、みのりちゃんの気持ちがすごいよくわかるんだよね。みのりちゃんは絵が好きなんだけど、いかんせん才能がなくて、絵はぜんぜん描けないんだよ。叔父さん以外に好きな人がいないように、絵以外に好きなものもなくて。絵が好きで好きで、絵から離れられないんだけど、描けないものは描けないんだよね。だから、何もしないで固まっているだけで、自分でそれをわかってるの。だから、描けるのに描かない人には、腹が立つの。

「わたしは絵が描けない。センスも能力もない。小学校のときから分かっていたけど、でも、美術の授業を迷わずに取ってしまうのは、絵の周辺にいたいからなんだ。私よりずっとうまい人が描く色々な絵」

「描くのやめんなよ。あれでいいんだよ。私は好きだよ。いっぱい描けよ」

この辺りのセリフを読んだとき、そうだ、そうだ、とふかーく共感した次第です。わたしの場合、親の教育方針で、幼稚園にも保育園にも行ってなかったから、図工っていうものに最初から慣れてなくて。小学校では当然、クラスでも目立つくらい絵は下手でした。それは6年間努力してもどうにもならず、だから、私は小学生の段階で、自分が絵が描けない人だということはわかってたんです。

でも、高校3年間美術部にいてしまったし(マン研にもいたようなもんで)、大学ではサークルの活動で絵本を描いたりしてたんだよね。やればやるほど、自分が下手だって事はわかったんだけど、そんなコンプレックスを吹き飛ばすくらい、絵の周辺にいたいという気持ちがあったんだと思います。今でも、絵を見るのはすごい好きで、もちろん美術館に行ったり、画集を見たりもするけど、それだけじゃ物足りないの。好きな絵を見つければ描いた人のことを知りたくなって、伝記を読んだりしてしまうし、絵を描く人とは友達になりたくなってしまう。音楽仲間の中でも、文学サークルでも、ボランティア集団でも、気がつけばなんとなく、絵を描く人に寄って行ってしまう。

最近仲良くなった友達(というより、友達の旦那さん、ですね)が、美大の油絵科を出ている人で、ちょっと頼むと、ささっと何かデッサンしてくれたり、お見舞いに模写をポンってくれたりするの。彼は本当は「現代美術」っぽい「空間アート」みたいなもの、私から見ると「わけがわかりません。ごめんなさい」っていうようなものが好きで、やりたいらしいのですが、やっぱりその基本として身につけた絵の技術は、私からみると、すごい。ただのコップを普通に鉛筆で描かせてもね、あっという間に質感とか、透明感とか、光が屈折している感じとかがそのまま紙に出てきちゃうんだよ。描いてるの見てるとすごい楽しい。嬉しい。大学卒業して以来、誰かが絵を描くところを見ている、というチャンスが全然なかったから、この感じは久しぶりですごくワクワクする。普通の生活してたら、そういうチャンスってなかなかないもんね。思えば、学生時代の私は、幸せだったなあ。だって、行けば誰かが絵を描いている、っていう場所を、常に確保していたんだもの。無意識だったけどね。

じゃあ、また絵を習いに行けばいい、駅前のカルチャースクールで絵画講座があるぞ、などと思わないわけじゃないんだけどね。でも、結局、わたしは楽器を弾く人だからなあ。そっちに割くエネルギーがあるなら、やっぱりもっと、音楽をやりたいんだよね。身体が2つあればなあ。「好きなのかどうかわからないけどできること」と「できないけどすごく好きな事」、両方できるんだけど。(2004.10.21)
| さ行(佐藤多佳子) | 02:00 | - | - |
■ サマータイム 九月の雨 佐藤多佳子
403744030Xサマータイム
佐藤 多佳子
偕成社 1993-05

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4037440407九月の雨
佐藤 多佳子
偕成社 1993-05

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いつか読んでみようと思っていた佐藤多佳子さんのデビュー作。『サマータイム』が、MOE童話大賞を受賞して、デビューされたんですね。

小学校5年生の優しい少年、進、その姉の気の強い美少女、佳奈、そして同じ団地に住む左手のない広一、この3人の物語です。『サマータイム』の主役は進で、3人がともにすごした一夏の思い出を描いています。『サマータイム』に収録された「五月のみちしるべ」には、佳奈を主役に、佳奈と進のある五月の思い出を、そして『九月の雨』では、その後の3人の成長と再開が描かれています。

童話というにはちょっとシビアですが、文学というには甘ったるい感じ。「私は少女よ。少女が少女趣味で何が悪いの」っていうセリフがあるのですが、ちょうどそんな感じの本です。私はもう少女じゃないので、ちょっとくすぐったい甘さでした。でも、「ピアノ」というのが重要な小道具になっていて、それだけでも、わたしには嬉しい本でした。

『サマータイム』は確かに、詩的で、絵的にも綺麗で、さすが大賞だなあ、なんて思ったんですけど。シリーズを全部まとめて読むと、『サマータイム』の主役、進、って完全に脇役なんですよね。進くんって、地味だけど優しくて努力家で、なかなか素敵な男の子なんですけど、やっぱり華のある姉と、ドラマチックな人生を送る友人に、物語をのっとられた感じですね。ちょっとかわいそー。



上記の2冊を読み終えて、今、『四日間の奇蹟』浅倉卓弥 という本を読んでいます。第1回このミス大賞ということで、こちらもいつか読もうと思って読みそびれていた本です。内容を全然知らずに選んだのですが、こちらも、「ピアノ」の本です。しかも、才能あるピアニストが左手の怪我で弾けなくなり、でも、彼の影響で別の人間がピアノを弾くようになるというところまで同じです。まだ読み始めたばかりだし、『サマータイム』とはまったく違うストーリー展開になる事は確実ですが、こんな偶然あるんだなあ、と、ちょっと面白がっています
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