ネタバレ警報!
ストーリー自体は、面白くなかったわけではありません。殺人事件の真相は、早い段階でわかってしまいますが、それでも面白かったです。関係者それぞれの複雑な思いが、きちんと描いてあるなあって思いました。それに主役の弁護士、リンメイ先生も、真面目で誠実ないい人キャラで、ステレオタイプではありますが、嫌いではありませんでした。
横山秀夫さんの「半落ち」を思い出しました。罪を犯したのは自分だと言いはる、容疑者の高潔な人間的魅力に、周囲の人が感じ入り、彼が犯人とは思えず、真相は他にあると信じてそれを知りたがる・・・というストーリーが似ていますよね。
でも、この本の場合、著者が魅力的に描こうとし、リンメイ先生が友情を感じるその容疑者に、私は全然魅力を感じられませんでした。全部自業自得じゃん、何人もの人を不幸にして、今さらいい人ぶってんじゃないよ、と、思ってしまいました。
だってすべての原因は、彼の不倫と優柔不断にあるんです。不倫がはじまってしまったことに関しては、百歩ゆずって許せるとしても、その後が実にいただけない。不倫相手は彼のために離婚し、子供まで生んで、彼にも離婚して欲しいと言っている。不倫はスキャンダルとして報道されてしまい、妻にも、相手の夫にも、幼い息子にもバレバレで、みんなが苦しんでいる。そんな中ですべてをうやむやにしたまま、15年も不倫を続けるなんて、もう同情の余地がありません。
「妻には悪いところはないので、離婚は言い出せない」とか「朝帰りはしても泊まってはこない事で、妻への誠意を示しているつもりだった」とか、考えている事がいちいち腹だたしい自己満足男です。
事件が起きて愛人が亡くなった後は、自分の過ちや思い違いに気づいて、つぐなおうとしているように見える彼ですが・・・。そして、そんな彼にリンメイ先生はひかれるわけですが・・・。
全財産を妻に譲って、息子の罪を肩代わりして、それで何かのつぐないになると思っているあたりが、余計にいただけない。つぐないたいのならまず、妻にはきちんと会って話をするべき。息子ともちゃんと向き合って、真実を明らかにするべき。この期におよんで、まだ逃げるか!って感じでした。
こんな男を、魅力的、と感じる主人公には、全然共感できません。読めば読むほど、なんか釈然としない本でした。