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■ 時砂の王 小川一水
時砂の王 (ハヤカワ文庫 JA オ 6-7)時砂の王 (ハヤカワ文庫 JA オ 6-7)
小川 一水

早川書房 2007-10

ネタバレ!

骨太で読み応えのある、ちょっと懐かしいくらいSFらしいSF。小川さんやっぱり好きだわ〜。こういうの大好き。楽しい読書でした。

26世紀に人類はETの侵略を受け、一時は太陽系のほとんどを失い壊滅状態になりましたが、必死の反撃が功を奏し、現在は優勢に転じています。劣勢となったETは、人類の滅亡をはかって、時間遡行を行います。人類もまた、自分たちの先祖に警告を与え共に戦うべく、メッセンジャーと呼ばれる人型人工知性体を過去に送り込みます。メッセンジャーの1人であるオーヴィルが、3世紀の日本にまで遡行してきて卑弥呼と共にETと戦う、という物語。

オーヴィルは26世紀から3世紀まで一気に遡行するわけではなく、それまでにも様々な時代と国で、幾百もの戦闘を行い、幾度となく人類は壊滅状態に陥ります。そのたびに、さらに過去へとタイムトラベルを行い、卑弥呼たちと共に戦う3世紀は、いわば、最後の砦です。はたして人類は、ETに勝利できるのか?オーヴィルと卑弥呼の運命は?

長い期間、広い宇宙が舞台の小説であるだけでなく、タイムトラベルのたびに、新たな並行世界が生まれていくので、この小説には無限の広がりの可能性があるように思います。超大作シリーズにだって仕立て上げられそうです。でも、この小説は文庫で276ページという短さ。なんて潔い!あっぱれです。

まあ、個人的にはちょっと惜しい気もしたんですけどね。個人的に、かなりオーヴィルが好きだったので。ミーハーに萌えました。わたしにしては珍しく、ヒーロー萌えしましたよ。もっと色んなオーヴィルが読みたかった〜。

この小説、一応恋愛も絡まってるんですよねー。なかなかに、切ないの。でもそのあたりは、ちょっと薄くて、描きこみが足りなかったかも。この小説の持っているスピード感を損なわないためには、しょうがなかったのかな。
「戻れないんだ。俺たちは歴史を変更しすぎた。サヤカのいる時間枝は時の彼方に埋もれてしまった。再び彼女が生を享ける可能性は、億に一つもない。いや、そこにたどり着ける可能性がない。俺は……この俺が、俺でさえ、彼女を忘れてしまいそうなんだ」
「口を出すだけの主に何ができる?それで戦っていたつもりか?自惚れるな。これは妾たちの戦だ。主がおらずとも妾たちは生き、死んでやるわ!惑わしの魔女め、疾く失せろ!」
普通のタイムトラベルSFでは、過去を変えてはいけない、歴史に干渉してはいけない、という点がしつこいくらい強調されますよね。でもこの本の場合、全編通して人類は常に滅亡の危機にあり、その最悪のシナリオを防ぐために、そんな事は言ってられない状況にあります。その感覚に慣れてしまって読んでいたら、ラスト付近になって「過去に介入してはいけない」的な、常識通りのセリフを言う人が出てきて、そんな所に私は、「ああ、人類は助かったのね!」と実感して、ちょっと可笑しくなりました。そこでかよ!とセルフつっこみしました。
| あ行(小川一水) | 23:00 | - | - |
■ 天涯の砦 小川一水
天涯の砦天涯の砦
小川 一水

早川書房 2006-08

ネタバレあり。

地球と月を中継する軌道ステーション「望天」で、破滅的な大事故がおこり、その残骸と月往還船「わかたけ」は真空の宇宙に放り出されました。わずかな気密区画に隔離されていたために、幸運にも生き残った人々は、生存の可能性にかけて戦うことになります。お互いをつなぐのは、空気ダクトを通して聞こえる声だけです。

SF好きには、設定だけでもうたまらんって感じの本です。でも、人間ドラマ重視なので、SF好きじゃなくても楽しめると思います。ハリウッド映画みたいな、パニック&サバイバル小説なんですが、すべてが定石通りというわけではないので、興ざめすることなく最後まで読めました。もしかしたら、コアなSF好きには、理論武装が中途半端で物足りないと思われるのかもしれません。私には、とても面白かったです!

中心人物は、「望天」で働く軌道業務員だった二ノ瀬。彼は職業上の義務感も、責任感も持っており、「望天」という構造物に詳しく、宇宙での行動にも慣れていますが、宇宙航行のプロではありません。軌道業務員というのは、ステーションのメンテナンスや清掃などを行う雑用係であって、専門的な知識や技術があるわけではないのです。それに二ノ瀬は最初の爆発で腕に怪我をして、いつもどおりに動くこともできません。また彼は、惑星間航行士の試験を落ちたばかりで自信を失っており、リーダーとして生存者たちをひっぱっていく事を、重荷に感じています。二ノ瀬は、ハリウッド的な「ヒーロー」ではありません。でも、彼が最後まで他の生存者を助けようとし、出来ることを必死でやる姿は、感動的でした。

二ノ瀬が最初に救出した生存者、甘海は、レスキューオペレーターとして地球で働いていたときに、少年の自殺を止められたなかったことで、自分を責めています。とにかく真面目な性格ですが、宇宙には不慣れで、二ノ瀬の足をひっぱることも多いです。でも、生き残った子供たちを助けたいと、二ノ瀬と共にがんばります。映画なら、このふたりは、絶対に恋に落ちるパターンで、そうなったら本当に興ざめなんですが、甘海には別のストーリーが用意されていて、そこも良かったです。

前半でリーダーシップをとろうとする医師の田窪にも、船室に二人きりで取り残され、いがみ合い続ける功とキトゥンにも、「わかたけ」のブリッジで計器の操縦をすることになる久我山にも、機関室にいて久我山としか言葉をかわせない門前にも、幼い啓太と風美にも、それぞれのストーリーがあります。読んでいると、どの登場人物にも途中で一度くらいは腹が立ってきます。二ノ瀬がひたすらに生還を目指しているというのに、他のメンバーは、事の重大さをわかっていなかったり、自分の事しか考えていなかったり、くだらないプライドや嫉妬から馬鹿げた行動をとったりして、状況をどんどん悪くしていきます。二ノ瀬目線で読んでいると、本気でむかつきます。

でも、誰が敵で、誰が味方で、それぞれが何をたくらんでいるのかが、徐々に明らかになっていくと、だんだんみんなに感情移入できるようになります。全体としてはハッピーエンドで、爽やかな読後感でした。(啓太のハッピーエンドはやりすぎだと思うけど。あの二人はなんで生きてるの?)
| あ行(小川一水) | 23:17 | - | - |
● 老ヴォールの惑星 小川一水
老ヴォールの惑星老ヴォールの惑星
小川 一水

早川書房 2005-08-09

小川一水さんの中編作品集。モチーフはどの作品も、典型的なSFらしいSFだったにも関わらず、全然小難しさがなく、読みやすい本でした。読みやすいけれど、設定も構成もキャラクターも、よく作りこまれていて、レベルは高い(・・・と、思う)。

□ ギャルナフカの迷宮
政治犯が落とされる、巨大な迷宮。そこに落とされた主人公が、迷宮の中の人々をまとめあげ、コミュニティを作り上げていく物語。どっかで見たような設定ではありましたが、とにかく面白かったので、中編集の一作目として、ふさわしい作品でした。この人は、もっと恋愛要素を強く打ち出せば、女性に人気が出るんじゃないかな。ラブストーリー部分が上手い。

面白かったんだけど、ラストだけがちょっと不満。60年代のにおいがする。変に政治的な主張が感じられて、冷めました。ご都合主義というか、青臭い理想主義というか・・・。

○ 漂った男
この作品は、とても印象が強い。忘れられない一編です。自分が主人公の男の立場だったら、と、考えると、恐いし、本当にやりきれません。

彼は、偵察機の墜落により、陸地のない惑星、パラーザの海をたった一人で漂うことになります。大きな惑星の上を漂う彼の位置を特定することは出来ず、救援は望めません。しかし幸いにも、彼が漂うその海の水には、生命を維持するだけの栄養分があったのです。通信機での会話だけを心の支えに、何年も何年もただ、海を漂い続けることになった男の生涯を描いています。

恐くてやりきれないだけではなく、この作品には、環境に適応し生き延びていく、人間の生命力の強さが現れていて、その部分が好きでした。ラストは絶妙でした。その先を描かないでくれてよかった。(勝手な想像ですが、生還した彼のその後は、あまり幸せではないような気がします。「英雄」と呼ばれはしても、実態は「見世物」にされてしまうんでしょうから・・・。)

そうそう。奥さん、ちょっとひどすぎ。奥さんは結局、彼と離婚し、彼の同僚と再婚してしまうのですが・・・。私なら彼が生きている限り、離婚なんて考えられないし、とくにこの特殊な状況では絶対にそんなことできない(たぶん愛情というよりは罪の意識から)けど、彼女がそうでなかったことを責める気にはなりません。彼女にも同情の余地はたっぷりあると思うから。でも、彼女が離婚を言い出したのって、彼の遭難から、たった2ヶ月半しかたっていないときですよ。早すぎる!あんまりだよ。あなた、妻として以前に、人間としてどうなのよ!

ほかに
□ 老ヴォールの惑星
△ 幸せになる箱庭

この本は、「SFが読みたい!2006年版」で、ベストSF2005・国内篇の第1位を獲得しています。

それから、7月は、直木賞に気が行ってしまいますが、星雲賞の発表も7月でしたね。日本短編部門で「漂った男」が受賞しています。おめでとうございます。

日本長編部門 をとった「サマー/タイム/トラベラー」の感想も、そのうちあげます。
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