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■ Run!Run!Run!  桂望実
RUN!RUN!RUN!RUN!RUN!RUN!
桂 望実

文藝春秋 2006-11

岡崎優は、子供の頃から父親に長距離ランナーとしての訓練を受けてきました。優の父親は自分がかなえられなかったオリンピック出場という夢を優に託して、ずっと練習に付き添っています。優はその期待に応えて、みごとに素質を開花させ、中学・高校では走るたびに記録を塗り替え、タイトルをとり、「不敗神話」を持つと言われるまでになりました。

そんな優は、より整った環境で練習すべく、S大学陸上部に入部します。そこでもひたすらストイックに練習に打ち込み、仲間を作ろうとはしません。陸上部の目標である箱根駅伝を、通過点、と言い切ってしまったことで、ますます孤立しています。そんな中で、突然、兄の死という悲劇が家族を襲います。その時に、母親が漏らした一言。その一言が、優に自分の出生に関してとある疑問を抱かせます。。。。

傲慢で鼻もちならない青年だった主人公が、自分と家族について悩み苦しむことで、少しずつ人間らしく成長していくストーリー。優がいだく「とある疑問」が、やや突飛で、興醒めしてしまった事を除けば、いい本だったと思います。陸上部の先生や、優の友人である岩本などは、優とは対照的に素敵なキャラクターで、いい言葉もいっぱいでした。

「風が強く吹いている」や「一瞬の風になれ」を先に読んでしまっていたので…。比べられてしまう時期に出版されたのはこの作品にとっては不運だったかなあと思います。これを最初に読んでいたら、全然違う評価になっていたかも。
| か行(桂望実) | 11:31 | - | - |
● 明日この手を放しても 桂望実
明日この手を放しても明日この手を放しても
桂 望実

新潮社 2007-06

19歳の時に突然失明して、裁判官になるという夢を断たれてしまった凛子。半年後に家族の太陽であった母は事故で亡くなり、やさしかった父は失踪。いい加減でだらしなくて、妹への思いやりもない兄・真司と二人だけの暮らしが始まります。両親と共に暮らしていたころは、そりの合わない同居人でしかなく、仲が良い兄弟とはとても言えなかった2人の、その後の12年間が描かれています。

章ごとに凛子と真司が交互に語り手をつとめる手法が、上手いなあ、と思いました。凛子が語り手をつとめる最初の章では、設定の悲惨さと、凛子の絶望と、兄への嫌悪感ばかりが描かれていて、硬くて暗くて読み続けるのが辛いかも、と、思ったのですが、適度なところで語り手がチェンジ。楽観的で、いい加減で、言いたいことを言いたい放題の真司の章へ。凛子ちゃんはあんな風に言ってたけど、真司にもいろいろあるんだよね、それに比べると凛子は可愛くないねえ、なんて思ったところで、また語り手がチェンジ。そんな風に、私は兄妹両方に共感しながら、2人共を応援しながら、最後まで読むことができました。

2人は2人だけの暮らしの中で、徐々に理解と信頼を深めていくことになるのですが、表面的には最後までケンカばかりです。兄弟の会話って辛辣ですよね。でもそんな風にやりあいながらも、お互いにお互いの事をちゃんと思っているところが、うん、兄弟っていいよね、と、思わせてもらいました。

2人の関係だけでなく、それぞれの成長が描かれているのも良かったです。短気で不平不満ばかりだった真司は、大人らしい行動がとれるようになり、自分の仕事に積極的に取り組むようになります。なにごとも計画を立ててから始め、計画どおりに進まなければ気がすまかった凛子が、先の事はまだわからないけど、と、言いながら、自立への第一歩を踏み出します。

いい小説でした。コスモス読んでみたい。

父親の失踪の謎が明かされなかったのはどうしてでしょう?ここにけりをつけておけば、イマイチ山場のないところがちょっと惜しいこの小説に、いいアクセントがついたと思うのですが…。
| か行(桂望実) | 23:51 | - | - |
▲ 女たちの内戦 桂望実
女たちの内戦女たちの内戦
桂 望実

朝日新聞社 2007-11-07

女たちの戦いは終わらない――。
キャリアウーマン、専業主婦、バツイチ、OL……20代から40代、理想と現実の間をさまよう4人の女たちの内なる戦いを描く連作短編集。

今年中に絶対結婚してやる。私はこの目標のためだけに生きている。こんなにかわいい私が、幸せな結婚をできないわけがない。もし、万一、できないとしたら、それは私が美し過ぎるから。アプローチする前に諦めてしまうほど、私は最高級の女。私に相応しい最高級の男を、必ずゲットしてやる。

うーん。女って大変だね…と、他人事のように思った、っていう感想です。女の傲慢さと、狡猾さと、逞しさと、そして弱さと。心理描写はすごく上手なんだろうなあと思ったのですが、どの短編の主人公も、なんだか「型にはまった」感じがしてしまって、どこかで(テレビドラマや小説やマンガの中で)見たことがある、薄っぺらい人物に見えてしまいました。そのせいで、自分みたいだ!と感情移入したり、自分の周囲の誰かに重ね合わせたりすることができなくて…うーん。上手な小説なんだろうなあとは思ったのですが…個人的にはイマイチでしたねえ。
| か行(桂望実) | 11:26 | - | - |
● レディー,ゴー 桂望実
Lady,GOLady,GO
桂 望実

幻冬舎 2006-07

面白かった♪

南玲奈、23歳、派遣OL。なけなしの貯金を出してあげたとたん彼氏に振られ、派遣先をクビになります。面接で落ち続けて、次の派遣先は決まりません。エアコンは壊れて修理費が必要だし、アパートの契約更新も迫っています。

玲奈は自分に自信がなくて、でもとても真面目で、素直ないい子なんです。玲奈が16歳の時に両親は離婚し、それぞれの新しい家庭を作りました。それからずっと「最悪、最低、人生最大の危機の時にしか、両親に頼らないと心に決め」、誰にも頼れずもがく玲奈が、とても健気で、なんとか味方したくなります。

そして結局玲奈は、当面のお金の必要に迫られて、キャバクラで働くことになるのです。
かわいくないし、ネクラだし、上手に嘘もつけないし…… こんな私がキャバクラ嬢!?

席に座って、まず挨拶(第一印象)。水割り作って話を聞いて(聞き上手)、無口な客には話を振って(話し上手)。客との会話は忘れないようメモを取り(顧客管理)、送るメールは返信が 来るよう工夫を凝らす(営業努力)……

できるわけないよ、こんな私に。

帯より。
最近多いですよね。ホストクラブとか、キャバクラとか、いわゆる夜のお水の世界を舞台にした、業界小説。ちょっと昔ならそういう世界を舞台にした小説は、「みじめ」で「可哀相」な主人公の、どこか暗いイメージの小説になったんじゃないかと思うんですけど、すっかり世間のイメージも変わりました。そこは、華やかだけれど、実力主義の厳しい世界。主人公はそこで自信をつけ、たくましく成長していくんですよね。

この小説の玲奈もそうでした。彼女には親がなく、年上の兄弟もなく、ずっと派遣社員だったため特定の上司や先輩などもいない。友だちも極端に少ない。でも、クラブで玲奈は、個性的な上司や、オカマのスタイリストや、店のナンバーワンである先輩や、友人たちと、濃い付き合いをするようになります。クラブにいたのは短い期間だったのに、自分の事を話したり、相談したり、お互いの夢を応援しあったりする、きちんとした人間関係を作り上げていきます。それは玲奈にとって、ものすごく大きな財産だと思います。

ラストは、まったくリアルではありませんが、とても爽やかで好きです。
| か行(桂望実) | 01:22 | - | - |
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