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特効薬 霧村悠康
特効薬 疑惑の抗癌剤(二見文庫 キ 6-1 ) (ザ・ミステリ・コレクション)特効薬 疑惑の抗癌剤(二見文庫 キ 6-1 ) (ザ・ミステリ・コレクション)
霧村 悠康

二見書房 2008-06-25

認可間近の経口抗癌剤MP98の第三相試験中、末期肺癌患者が喀血死した。彼の死は当然のものと思われたが、主治医の倉石祥子だけが首を傾げた。同薬の「副作用がない」という触れ込みに疑問を抱いた彼女たちは、認可差し止めに動きだす。その一方で、関係者が次々と殺されていき…。製薬会社、大学病院、新薬認可を巡る思惑と深い闇を描き出した、人気作家による書き下ろし医療ミステリー。
現役医師による小説ということで、一般人には知りえない医療業界の裏側や、知られざる問題点を垣間見ることができるのが、霧村小説の読みどころだと思います。現代日本で、病院や薬の世話にならずに一生を終える事が出来る人はいない。だから社会は常に業界を監視しているべきだし、もちろん私たち一人一人も、たとえ今自分が健康だとしても、関心を持っていなければならない情報なのだと思います。だから、霧村小説には、価値があります。

という、今までの作品に対してと同じ評価を、この小説にもしているのですが、今まで▲印をつけていたのが、無印になってしまったのは…作品自体のレベルが変わったわけではなく、なんだか、霧村さんという作家さんがプロの小説家って感じがしてきてしまってねー。多作ゆえに、手慣れてきてしまった気がして。霧村作品の私にとっての魅力が、上に書いたようなところにある以上、それが、私には欠点のように思えたのです。それから、ラストが蛇足な様な気もしたし。

それにしても、霧村さんという方は、医者として働きながら、数多くの小説を発表し、切り絵の才能もお持ちだそうで…すごい人がいるものですねえ。
| か行(霧村悠康) | 18:01 | - | - |
▲ 昏睡 霧村悠康
昏睡 かくされた癌昏睡 かくされた癌
霧村 悠康

新風舎 2006-09-25

多少のネタバレあり

デビュー作「摘出−つくられた癌」の続編です。前作で、過ちを犯した人々のその後が描かれています。あんなに反省したはずなのに、あっという間に現場の緊張感は失われて、教授選がみんなの一番の関心事になっています。あいかわらずの、ベタな「白い巨塔」小説でした。小説としては、読むたびにどうしても好きになれない部分があるのに、著者が現役の医師であるということと、著者の医師としての良心と熱意が感じられるところが、霧村さんの本を手にとってしまう理由でしょうねー。

サイドストーリーという感じで、前作でミスをして病院をやめた、新人外科医、本木が、医師として再び仕事を始める様子が描かれます。本木は新しい病院に勤めるにあたって、その病院のHPで、3回ミスをしたら外科医をやめる、と宣言しました。彼はその病院で、生まれて始めての恋をします。相手は末期の癌患者です。HPで本木を知り、彼を頼ってきたのです。このシリーズで1番若手の医師である本木が、本当にいいお医者さんになってくれそうなラストは、全体的に暗いテーマの本を、後味良く終らせてくれました。でも、死期の迫った薄幸の美少女を最後まで見守る若き医師、なんて、ちょっと前の「泣かせる本」ブームっぽくて、ベタだったなあ。まあ、いいお話、ではありました。

そしてもう1つのサイドストーリーが、今回の、どうしても好きになれないエピソードなんですが・・・。前作のミスの責任をとる形で教授職を退いた、高木医師の不倫の結末が描かれます。もともと、不倫小説は嫌いなんですが、この本の不倫の描かれ方は最悪でした。長年つきあった愛人は肺癌になってしまい、高木医師は懸命に看病します。男の身勝手全開なんですけど、一応その姿は誠実に見えます。愛人の陽子さんという人もいい人で、言葉も、手紙も、感動的で良かったです。でも、それでも、あの最後はいかんですよ。いくらなんでもダメですよ。小説の中では綺麗にまとまっていて、「ここは感動するところですよ」という無言の圧力を行間から感じましたけど(笑)、それが許せない〜。だって、夫にあんな死なれ方をしたら、奥さんと子供の立場は!
| か行(霧村悠康) | 23:20 | - | - |
▲ 瘢痕 殺意の陰に 霧村悠康
瘢痕―殺意の陰に瘢痕―殺意の陰に
霧村 悠康

文芸社 2006-07

舞台は関西のとある市民病院。いつからか、亡くなった患者さんの遺体に、一輪のバラの花が手向けられるようになります。あるときは赤いバラ、あるときは白いバラ。病院関係者は、それを好意的に解釈しながらも、誰が何のためにそれを行っているのか、不思議に思います。

主人公の若き美人女医、南野由利香は、医師である以上「患者の精神で医療を」と誓う、高潔な倫理観の持ち主です。経験は少ないながらも、赴任してすぐ病院内で一目置かれ、患者からも慕われる存在になります。

由利香だけではなく、この病院では、院長の陣内や、看護士の雪子も、医療過誤やミスが起こらないよう、誠実に努力しているようです。いわゆる「白い巨塔」小説ではないので、出世競争も、教授選挙も、裏金も、賄賂も出てきません。「悪い」医療関係者など、1人も登場しない小説です。それでも病院では、日常的に人為的なミスが発生します。院内の医師や看護士のミスもあれば、そこに運ばれてくる前の、町の開業医の初期の診断ミスや、応急処置のミスもあります。患者が死亡してもそれは表沙汰になることなく、家族に知らされることもなく、事実は闇に葬られていきます。

由利香はそのことにいつも胸を痛めています。ミスが繰り返される事のないよう調査をし、反省をし、緊張感を常に失わず、勉強を怠らず、患者に誠実な対応をします。彼女がここまで必死に医療ミスと戦おうとしているのは、なぜなのでしょうか?彼女が心の中でいつも話しかけている「さやか」とは、誰なのでしょうか?

失礼ながら、ミステリィとしても小説としても、高く評価できる作品ではなかったりします。あくまでも、わたしの個人的な評価ですけど。久坂部羊さんのほうが、印象が強いし、上手い。(と、思う・・・。)

ほとんどの謎は、「謎」として認識されるほどの事もなく、すべての答えが最初から見えているようなものでしたし、明らかになる真相には拍子抜け。小説としても、人物造形やストーリー展開が、理想主義的で現実味がなく、重いテーマの本のはずなのに、薄っぺらく感じました。人物造形に現実味がないと、心情にも感情移入しづらくて、すごくいい本だったのに、感動にはいたりませんでした。

その必要性がほとんどないのに、由利香や雪子が超絶美人である、ということを、しつこくしつこく書きすぎで、それも冷めました。あまりに真面目すぎる本なので、少し彩りを添えようという事なのでしょうか。だとしたら、安易すぎる。一昔前の二時間ドラマに、必ず入浴シーンがあったのを思い出します。読者には女性もいるのですから、イケメンも出さなきゃダメでしょう(笑)

でも、著者が現役の医師なんですよね。だから、この本で描かれている医療の現場の影の部分には、現実味がありました。患者としては、ふざけるな、勘弁してくれ、って感じです。恐い話です。

医療ミスや医療過誤をなくす事は無理だけれど、少しでも減らさなければならない。そのためには医療従事者の一人一人が、こんな思想と覚悟を持たなければならない。病院は、組織として、このように行動しなければならない。そんな著者本人の考えや、理想が、ストレートに描かれている本でした。プロの小説家が書いた小説として読むより、現役医師が心に描いている理想として読むと、いい本です。心が洗われる気がします。医師になるような人には、このくらい高い理想を持ち、自分に厳しく、謙虚であって欲しいものです。

医師も看護士もとても大変な仕事だと思うし、本当に尊敬もしています。だけど、病院、特に大病院に行くと、威張りくさった嫌な医師ばかりがいるような気がします。ただ単に学校のテストが得意で、経済的に恵まれていた、という人が、私利私欲のためだけに医師になり、患者を見下しているようで、不愉快です。国家試験で、人格もテストできたらいいのに、と、常々思っているわたしです。
| か行(霧村悠康) | 12:14 | - | - |
▲ 摘出 霧村悠康
摘出―つくられた癌摘出―つくられた癌
霧村 悠康

新風舎 2005-09

画像だとわかりにくいけど、表紙があまりに印象的で、思わず手にとってしまいました。

主人公は、若い希望に燃えて、癌の分野で国際的に有名な国立O大学の高木教授の医局に入った、二年目の研修医、本木。本木は乳癌で右の乳房を切り取らなければならなかった、広子という担当患者の手術で、左の乳房を切り取ってしまう、というミスを犯します。仕方なく、執刀医の高木教授は、両方の乳房を切り取り、左の乳房にも癌あったことにしよう、と、事件のもみ消しをはかります。

2週間後、病理検査の結果が出て、広子の左の乳房には、本当に極小の癌があったことがわかり、本木は、ひょうたんから駒、と、安堵しますが、ことはそう簡単には終らなかったのです・・・。

後半に入ると、匿名の手紙によって、広子とその家族が医療ミスのことを知ります。また、DNA鑑定によって、広子の左の乳房から発見されたはずの癌が、広子のものではなかったこともわかります。誰が何の目的で匿名の手紙を書き、広子の病理検査の結果を操作したのでしょうか?外科学会の会長選を控えた高木教授と、彼の追い落としを狙う部下の神崎教授の動きは?しだい良心の呵責に耐えられなくなっていく本木の行く末は?

数々の医療ミスをもみ消していく大学病院。治験で患者が亡くなっても、新薬を完成させようとする製薬会社。出世目的の政治的活動に熱心な医師たち。いわゆる「白い巨塔」小説で、目新しくはありませんが、著者が現役の医師ということで、本当にこんなことがおこっているんだ・・・と思うと、実に恐ろしい本でした。ドキュメンタリーとして読めば、下手なホラー小説より恐いです。読み応えはあります。

ただまあ、小説としては・・・素人っぽかった!とりあえず文章が、小説の文章にはなってない。それに、視点の乱れがすさまじい。一人称と三人称が混ざった文章なのですが、それが意図的ではなく、単なる混乱に見えます。

本木に感情移入して、共に悩み苦しんだり怒ったりできるほど、本木の人間像が描きこまれていません。被害者の広子さんや家族の苦しみも、描ききれてはいない。2人とも主役をはれている、とは言いがたいです。「白い巨塔」の中の人々の群像劇として読むには、登場人物それぞれのキャラがたっていないし、人物造形や、心理描写が、ステレオタイプで、嘘くさい。ストーリーも本流と傍流の整理が出来ていないようで、無駄なエピソードが多い。

おそらくこれらは、読者の胸を打つ小説を書くことよりも、大学病院の内情を告発することに、この本の目的があるから仕方なかったのでしょう。でも、だったら、小説にする必要なんかないと思います。現実に起こったことを詳細に公表し、堂々とノンフィクションと宣言するべきです。その上で、一般の人たちが読みやすいように「小説仕立て」にすればいいと思います。色々と難しい大人の事情はあるのでしょうから、お察ししますが・・・。このような本を、現実を知り、問題意識を持っている医師が描いておいて、「この作品はフィクションです。実在の人物、団体とは関係ありません。」などと注意書きをつけるのは、「逃げ」「自己欺瞞」に見えて、感じが悪かったです。
| か行(霧村悠康) | 14:31 | - | - |
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