舞台は関西のとある市民病院。いつからか、亡くなった患者さんの遺体に、一輪のバラの花が手向けられるようになります。あるときは赤いバラ、あるときは白いバラ。病院関係者は、それを好意的に解釈しながらも、誰が何のためにそれを行っているのか、不思議に思います。
主人公の若き美人女医、南野由利香は、医師である以上「患者の精神で医療を」と誓う、高潔な倫理観の持ち主です。経験は少ないながらも、赴任してすぐ病院内で一目置かれ、患者からも慕われる存在になります。
由利香だけではなく、この病院では、院長の陣内や、看護士の雪子も、医療過誤やミスが起こらないよう、誠実に努力しているようです。いわゆる「白い巨塔」小説ではないので、出世競争も、教授選挙も、裏金も、賄賂も出てきません。「悪い」医療関係者など、1人も登場しない小説です。それでも病院では、日常的に人為的なミスが発生します。院内の医師や看護士のミスもあれば、そこに運ばれてくる前の、町の開業医の初期の診断ミスや、応急処置のミスもあります。患者が死亡してもそれは表沙汰になることなく、家族に知らされることもなく、事実は闇に葬られていきます。
由利香はそのことにいつも胸を痛めています。ミスが繰り返される事のないよう調査をし、反省をし、緊張感を常に失わず、勉強を怠らず、患者に誠実な対応をします。彼女がここまで必死に医療ミスと戦おうとしているのは、なぜなのでしょうか?彼女が心の中でいつも話しかけている「さやか」とは、誰なのでしょうか?
失礼ながら、ミステリィとしても小説としても、高く評価できる作品ではなかったりします。あくまでも、わたしの個人的な評価ですけど。久坂部羊さんのほうが、印象が強いし、上手い。(と、思う・・・。)
ほとんどの謎は、「謎」として認識されるほどの事もなく、すべての答えが最初から見えているようなものでしたし、明らかになる真相には拍子抜け。小説としても、人物造形やストーリー展開が、理想主義的で現実味がなく、重いテーマの本のはずなのに、薄っぺらく感じました。人物造形に現実味がないと、心情にも感情移入しづらくて、すごくいい本だったのに、感動にはいたりませんでした。
その必要性がほとんどないのに、由利香や雪子が超絶美人である、ということを、しつこくしつこく書きすぎで、それも冷めました。あまりに真面目すぎる本なので、少し彩りを添えようという事なのでしょうか。だとしたら、安易すぎる。一昔前の二時間ドラマに、必ず入浴シーンがあったのを思い出します。読者には女性もいるのですから、イケメンも出さなきゃダメでしょう(笑)
でも、著者が現役の医師なんですよね。だから、この本で描かれている医療の現場の影の部分には、現実味がありました。患者としては、ふざけるな、勘弁してくれ、って感じです。恐い話です。
医療ミスや医療過誤をなくす事は無理だけれど、少しでも減らさなければならない。そのためには医療従事者の一人一人が、こんな思想と覚悟を持たなければならない。病院は、組織として、このように行動しなければならない。そんな著者本人の考えや、理想が、ストレートに描かれている本でした。プロの小説家が書いた小説として読むより、現役医師が心に描いている理想として読むと、いい本です。心が洗われる気がします。医師になるような人には、このくらい高い理想を持ち、自分に厳しく、謙虚であって欲しいものです。
医師も看護士もとても大変な仕事だと思うし、本当に尊敬もしています。だけど、病院、特に大病院に行くと、威張りくさった嫌な医師ばかりがいるような気がします。ただ単に学校のテストが得意で、経済的に恵まれていた、という人が、私利私欲のためだけに医師になり、患者を見下しているようで、不愉快です。国家試験で、人格もテストできたらいいのに、と、常々思っているわたしです。