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■ モノレールねこ 加納朋子
モノレールねこモノレールねこ
加納 朋子

文藝春秋 2006-11

温かく、穏やかな、加納さんらしい短編集。じわじわっといい話ばかりでした。当たり外れがあまりなく、どの作品もわたしは好きです。粒ぞろい。さすが。

以下覚書。

ネタバレ!

△ モノレールねこ
私は「タカキ」という表記を見て、自然に、名字の高木だと思って読んでいたし、文通の内容から、相手は女の子だろうなあ、そして2人は小さな恋に落ちるのね、と、思って読んでいたので、驚きは皆無でした…しまった。でも、一般的に「タカキ」って下の名前なんですか?素直に名字だとおもってしまった私は少数派?なんだかいじけちゃうなあ。高木(=タカキ)裕也のせいだ(笑)(ごくせん3に出ていたジャニッ子若手俳優さんです)

○ パズルの中の犬
夫の帰宅を待つことに、異常なストレスを感じる奥さんの物語。彼女はその時間をやりすごすためにジグソーパズルに没頭します。しかしある時、真っ白なはずのパズルの中に、いないはずの犬の姿を見てしまい、さらに追い詰められていきます。彼女の過去のトラウマとは?

全体として重く暗い雰囲気だったので、最後にハッピーエンドを迎えても、将来の幸せになったこの家族の姿を思い浮かべる事が出来なくて、それが残念でした。

この短編からは、新井素子さんの「おしまいの日」という小説を思い出した。「おしまいの日」は長編なのでストーリーも派手ですし、「パズルの中の犬」より重い感じです。でも、帰りの遅い旦那様を待つ、子供のいない、心配性の奥さんって、本当に大変なんだろうなあって、ひしひしと感じさせられるという部分では同じです。

○ マイ・フーリッシュ・アンクル
両親と祖父母を一度に亡くしたわたしは、いわゆるニートのダメ男である叔父と2人で残されてしまいます。子どもの頃はそれなりに優秀であったらしい叔父が、ここまでダメ男になってしまった理由とは?この叔父が本当にダメでダメでアホで泣ける!でも、とてもいいお話でした。

○ シンデレラのお城
私の偽装結婚相手のミノさんは、10年前に亡くなった婚約者が、そばにいると信じています。幽霊のような存在の彼女と、3人でくらす奇妙な生活と、その結末とは?

個人的にはこの短編が、一番印象が強かったです。こんな幸せは悲しすぎるんだけど、主人公にとても共感できました。全体的に、いい人や正しい人がばかりが主人公であるこの短編集の中で、この一編は、主要登場人物のしていることは、傍から見ると、明らかに間違っている。でも、そんな主人公の方が、共感しやすかったりしますよね。

□ セイムタイム・ネクイストイヤー
娘を亡くしたある母親は、毎年、娘の誕生日にあるホテルの同じ部屋に行くと、そこで死んだはずの娘の成長した姿に会う事ができるという、不思議な体験をしています。いいホテルだし、あったかい人たちですよね。世にも奇妙な物語、って感じでした。

□ ポトスの樹
犬猿の仲である父と息子の物語。息子が結婚し子供が生まれ、そこに嫁と孫という存在が加わったことで、少しずつ、息子は父を理解するようになります。登場する男性が、父も息子も義父も、どこか可愛らしくて、微笑ましく読みました。要するに、愛してたし、愛されたかったって事なんだよね。

○ バルタン最期の日
愛情いっぱいなんだけど、なかなかそれを表現できない不器用な家族を、ペットのザリガニの視点で描いています。家族のために「脱皮」するお母さんが健気で素敵。そしてラストにバルタンにはやられました。うっかり感動させられちゃった。
| か行(加納朋子) | 22:32 | - | - |
● ぐるぐる猿と歌う鳥 加納朋子
ぐるぐる猿と歌う鳥 (ミステリーランド)ぐるぐる猿と歌う鳥 (ミステリーランド)
加納 朋子

講談社 2007-07-26

小学校5年生のシンは、父親の転勤に伴って、東京から北九州に引っ越すことになりました。東京でのシンは、腕白で乱暴ないじめっ子というレッテルを貼られ、唯一の理解者であった祖母も失って、つまらない生活を送っていました。しかし、北九州でシンが暮らすことになった社宅では、同じ登校班の個性的なメンバーが、彼を徐々に受け入れてくれます。

シンという少年は、今どきの子にしては珍しいくらい、子どもらしい子どもとして描かれています。やりたい事を思いついたら、そのワクワクする気持ちを抑えきれず、行動に移さずにはいられない。危険であればある程、大人に止められれば止められるほど、やりたくなってしまう。でも、ずる賢い所はあまりないので、言い訳をするのは下手で、大人には怒られてばかり。でも、本当に素直な少年で、自分を認めてくれる大人には、相談もするし、言うこともちゃんと聞く。この本の爽やかさは、そんなシンのキャラクターに負う部分が大きいなあと思いました。彼が大人になった姿は想像できないのですが、きっと、いいパパになるんじゃないかなあと思います。

シンの仲間たちも、ひとりひとり個性的で、魅力的な子供たちでした。パックも、ココちゃんも、あやも、竹本兄弟も、完全に幸福な子供というわけではありません。それぞれに、子どもが抱えるには重すぎる苦悩を抱えており、それでも、それぞれの個性を失わず、たくましく、優しく、助け合って生きています。実はDVやネグレクトなど、深刻な社会問題を扱っているにも関わらず、彼らの満ち溢れる生命力が、この小説を暗いものにはしていませんでした。

全体としては、少年たちの冒険と友情と成長の物語ではありますが、一応ミステリーランドなので、謎解きも、軽くありました。社宅の子供たちが共有している、という秘密とは?シンの心の傷になっている、前の学校での、とある事件の真相は?5歳のころに誘拐されかけた時の、シンの思い出の中にだけいる、幻の少女の正体とは?

貼られた伏線が見事に収束して、さすがミステリー作家!と、思いました。その謎や秘密も、派手で残酷なものではなく、温かいもので、さすが加納朋子さん!と、思いました。最後まで気持よく読むことができました。ラストシーンが大好きです。

正しく「かつて子どもだったあなたと少年少女のためのミステリーランド」であった気がします。むかーしむかしに子どもだったわたしにとっても奥の深い題材が扱われていて、様々な事を考えさせられながら、読書の楽しみを満喫できた一冊であると共に、今現在子どもである人にも、オススメしたいなあと思える一冊。きっと子どもは子どもなりに、この本を楽しんでくれるのではないかと思います。

素敵な本でした。
| か行(加納朋子) | 09:59 | - | - |
★ てるてるあした 加納朋子
4344007840てるてるあした
加納 朋子
幻冬舎 2005-05

by G-Tools

ネタバレ警報!

一生懸命勉強して、やっと念願の高校合格を果たした照代は、その高校に入学することなく、夜逃げをすることになってしまいます。浪費壁のある母親と、車好きの父親が作った借金が、とうとう返せなくなったのです。照代は一人、佐々良という田舎町で、遠い親戚だという久代おばあちゃんと一緒に暮らすことになります。

ちょっとしたミステリー仕立てになっています。佐々良という町は、普通の田舎町ではなく、「不思議なことが起こる町」なんです。照代も佐々良で、少女の幽霊を目撃したり、不思議なメールを受け取ったりします。照代(と、ユウ坊という赤ちゃん)にだけ見えるこの幽霊は、なぜ姿を現すのか、何を伝えたがっているのか、この謎がこの本の重要な鍵です。

映画も漫画も小説も、2番煎じは、はずれが多いですよね。シリーズ化すれば、3作目に名作が出たりしますが、2作目は可も不可もなくといったところで…。だから、この「てるてるあした」も、シリーズ一作目の「ささらさや」が好きだったので読みましたが、実はあまり期待していませんでした。

でも、「てるてるあした」はすっごく良かった!「ささらさや」より好きだったかも。久代おばあちゃんはもちろん、「ささらさや」のサヤさん、珠ちゃん、お夏さん、エリカさんなど、前作のメンバーがたくさん出てきます。でも前作では、いい人ばっかりの温かいだけの本だったのが、今作ではちょっと雰囲気が違います。いい人がたくさんいて温かいのは同じですが、主人公の照代が最初のうち本当にひねくれた嫌なガキなんです。物質的には甘やかされて、でも親の愛は足りてなくて、ふてくされたガキ。

照代が、佐々良という不思議な町で、どんな風に成長していくのかという物語です。挨拶すること、人を好きになること、助け合うこと、働くこと、勉強すること。照代は、大事な事をたくさん学びます。そして、自分のコンプレックスをのりこえ、愛してくれなかった母親との関係を修復し、自立し・・・照代、がんばったなぁ。

そして何よりも、久代おばあちゃんがかっこいい!かっこよすぎ。感動的に!泣けます。
| か行(加納朋子) | 12:11 | - | - |
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