| 女ともだち
真梨 幸子
講談社 2006-06-23 |
「決まっているじゃない、
私たちはいつまでも友達よ」
女同士の親密で濃厚な関係の底に沈殿しているのは闇のように黒い何か・・・・・・。女性の暗部を克明に描く!
帯より。
物語の中心人物は、ライターの楢本野江。単なるフリーライターから、名前つきで記事がのるようなノンフィクションライターにステップアップしたいと思っていた時期に、連続殺人事件がおこり、取材を始めます。
連続殺人事件の被害者の1人、ごく普通のOL、田宮瑤子。彼女は、高層マンションの最上階の部屋を、築3年の中古物件という事で、新築時に買った人の半分の値段で手に入れ、そのことから、嫉妬を買い、嫌がらせを受けます。
もう1人の被害者は、田宮瑤子と同じマンションの2階に住む吉崎満紀子。彼女のスキャンダラスな生活は、ネット上の様々な場所に克明に残っており、マスコミによって暴かれていきます。
そして、元モデルで、現在は「プチセレブ」生活を謳歌しているように見えた井沢詩織。彼女は、田宮瑤子の購入した部屋の、最初の住人だったのですが、近所に出来たもっといいマンションに住みたくて、その部屋を売ってしまいました。
瑤子の学生時代からの友人・小松佳苗は、野江の取材を受けるのですが、その時小さなウソをつきます。
そして、野江に「ヒステリックで無能」という記事を書かれてしまう、女検事。彼女は、司法試験に合格せずに検事になった特例検事だったため、コンプレックスの塊です。
読み終えて、えーと、誰と誰が女ともだちだったっけ?と、よーく考えないとわからなかったのは私だけでしょうか(笑)?よく考えればところどころに、過去の友情だの、ネット上のみの友情だの、ラストの大どんでん返しで明らかになる、隠された友情だのが散りばめられてはいるのですが、この本は帯にあるような、わかりやすい「女ともだち」の本ではありませんでした。なかなか複雑な構成で、2度読まないと、人間関係が把握できない感じです。
それぞれに「負けず嫌い」の女の心理のドロドロを、これでもかっていうくらいデフォルメして描いた、読み応えのある本でした。中心となる、立場は違うけれど、ほぼ同世代の6人の女性それぞれの暗部は、鳥肌がたつくらい、そら恐ろしいです。嫉妬や、優越感や、虚栄心でいっぱい。でも、どうせドロドロを描くなら、このくらいはやって欲しい、と、私は思います。これくらいデフォルメしてくれないと面白くない。それに、誇張されたほうがリアルに感じられることもあります。この本の6人の性格はリアルで、それに、痛々しくて切実でした。それに、このドロドロを、女だから、の一言で片付けないで、その生い立ちから人格形成の過程を描いていたのも良かったと思います。嫉妬も、優越感も、虚栄心も、女だけのものではありませんからね。
「ドロドロ」以外の部分で、ミステリーとしても面白い本でした。連続殺人の真相と、野江の記事や今後はどうなるのか、という2つの謎にひっぱられて、ぐんぐん読めます。事件のキーパーソンを間違えるあたりは、ちょっとわかりやすすぎたかな?無理があるというか・・・。瑤子さんの転職が、ステップアップのためのものだったかどうかなんて、ちょっと調べればわかったはずなのにね。でもまあそんなのは、些細な穴ですね。
読み終えてみれば、私、女検事さんは、かなり好きですね。ぜひ友達になりたい。瑤子さんや満紀子さんは、好きというにはあまりに現実離れした人でしたが、同情はできます。
絶対好きになれないのは、井沢詩織ですねー。いつも人と自分を比べては優越感を持ったり、悔しがったり、怒ったりしている。しかも、感情的で、その制御がきかない上に、あらわし方が陰険。女として甘い汁を存分に吸って生きていくつもりだったのに、そうはいかない人生に不満が蓄積して、噴き出している傍迷惑な人。この人が1番「女」の嫌な部分を体現しているように思いました。
中心人物の野江さんに関して、ネタバレなしで感想を書くのは難しいのでやめておきます。事件を記事にするライターという立場は、彼女をこの事件から少し距離を置いたところにおいていますが、間違いなく彼女こそ、この本の中心人物です。