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● K・Nの悲劇 高野和明
K・Nの悲劇K・Nの悲劇
高野 和明

講談社 2003-02

良かった!面白恐かった!上手い!

フリーのライターである修平は、最近「快適暮らし学」という本がヒットして莫大な印税を手にし、それを頭金にして、ずっと夢だったマンションを購入しました。ローンは契約社員として働く、妻、果波の収入で払っていくつもりです。夫婦は幸せの絶頂にいます。

ところがそんな折、果波が妊娠します。果波が仕事をやめれば、せっかく手に入れたマンションを手放さなければなりません。修平は、果波に中絶するように言い、果波もそれに納得します。しかし、その決断をくだしたときから、果波は精神に異常をきたします。それは傍目には、誰か別の凶暴な人間が、胎児を守ろうと「憑依」したように見えました。

彼女の治療をすることになったのが、休職中の精神科医、磯貝です。磯貝は、不妊を姑に責められてうつ病になってしまった自分の患者が、目の前で自殺を図るというショッキングな経験をしたばかりです。磯貝は修平と果波の周りで起こる、数々の超常現象に、科学的・医学的な説明をしながら、果波を治療しようとします。

果波の中に生まれた別な人格は、いったい誰なのか?果波の精神の病なのか、それとも死者の憑依か。修平は果波を愛し、支え、守り抜くことが出来るのか。赤ん坊はどうなるのか。磯貝は、医師として立ち直ることが出来るのか。

読みどころ満載で、とっても展開の面白い本でした。修平、果波、磯貝、というそれぞれの人物造形と、その配置が上手い!超重要人物が、ラスト近くにやっと出てくる、など、ちょっとした欠点も見られるのですが、やっぱり全体として、上手い小説でした。

1冊の本の中での修平の心境の変化が、とても清々しくて、読んでよかったなあという気になりました。それから磯貝先生も、小説の中では最近珍しい、本当にいい先生なので、これからも頑張って欲しいです。
| た行(高野和明) | 17:21 | - | - |
● 13階段 高野和明
13階段13階段
高野 和明

講談社 2001-08

この本は、江戸川乱歩賞受賞の時も、映画化された時も、読もうと思ったのに、なんだか気が進まなくて手に取れませんでした。基本的に、私は恐がりなんですよねー。もう、タイトルからして恐そうで・・・。今回読もうと思ったきっかけは、同じく江戸川乱歩賞を受賞された「天使のナイフ」の薬丸岳さんが、「13階段」に感動して「天使のナイフ」を書いた、という話を聞いて。むくむくと、読みたい気持ちになりました。

傷害致死の前科を背負った若者と、退職を決意した刑務官が、強盗殺人の冤罪で死刑になろうとしている若者の命を助けるために、事件の真相を追う、という、比較的単純なストーリー。この単純なストーリーの中に、さまざまな人々の、恐怖や、苦しみや、悲しみがつまっています。

人を殺すということに対する善悪の感覚が、なぜ人によってこうも違うのでしょうか。刑務官という仕事上の責任があり、それが正しいことだと信じて、上司の命令によって死刑執行を行った人間が、自分が人殺しであるという事に責めさいなまれて夜毎うなされる。かと思えば、私利私欲のために何人もの人間を惨殺した強盗殺人犯は、人生を謳歌し、自分の身を守るために、さらに多くの人の命を犠牲にしようとする。

良心と言うのは、ある程度、人が生まれつき持っているものだと思います。だから、世界のどこでも、いつの時代のどんな文化でも、殺人は罪なのでしょう。でも、人生のどこかで、それを忘れてしまう人がいる。どうして忘れられるのでしょう。真犯人の心中は、私の想像を絶するだけに、恐ろしいものがありました。

この本の中で、一番心を打たれたのは、やはり元刑務官、南郷の死刑執行人としての苦しみに対してでした。そして、傷害致死の前科を持ち、実は心の中にもっと大きな隠された罪の苦しみを背負っている三上の苦しみも、重いですね。可哀想に・・などという、軽い言葉しか、私には出てこなくて歯がゆいのですが、2人には、いつかきっと、心の平安を取り戻せるような「何か」があって欲しいです。ラストの南郷の言葉が、印象的でした。
「俺もお前も終身刑だ。仮釈放は、なしだ。」
他にも、色々考えさせられる部分があって、読み応えのある本でしたが・・・数々の矛盾をはらんだ死刑制度の是非とか、犯罪被害者に対する保償金問題とか、犯罪者の更生とか、社会問題を考えさせるにはちょっと弱かったかな。展開がスピーディーで、意外性もあって面白いので、やっぱりエンターテイメント小説として、傑作。面白かったです。

あとがきが笑えましたね〜。宮部みゆきさんが書いておられるのですが、冒頭できっぱり、映画化失敗宣言としか取れない文章を書いちゃってます。すばらしい!小説の映画化なんて、成功しているもののほうが圧倒的に少ないと思いますが、なかなか、ここまできっぱりとは書いてないものですよね。ぶらぼー。
| た行(高野和明) | 15:18 | - | - |
▲ 夢のカルテ 高野和明 阪上仁志 
4048736493夢のカルテ
高野 和明 阪上 仁志
角川書店 2005-11-30

by G-Tools

他人の夢の中に入る能力を持っている、心理カウンセラー・来生夢衣。彼女が訪れる患者さんの悩みを解決する、連作短編集。

カウンセリングの過程で、患者が、精神科医やカウンセラーに恋愛感情を抱いてしまう事を、転移、とよぶのですが、それが大きなテーマになっています。物語にでてくる最初の患者・健介と、夢衣は恋に落ちるのですが、途中から相手の気持ちにも、自分の気持ちにも、確信がもてなくなってきます。これは恋愛感情なのか、それとも単なる転移なのか。

自分の気持ちが、自分でもよくわからない。そんなこと、私は、よくある話なんですけど。心理学のプロでも、同じなんでしょうね。人間の気持ちほど、複雑で多様なものはないですもんね。

ミステリーとしても、サイコサスペンスとしても弱かったんですけど・・・ラブストーリーとして良かったです。
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