| 13階段
高野 和明
講談社 2001-08 |
この本は、江戸川乱歩賞受賞の時も、映画化された時も、読もうと思ったのに、なんだか気が進まなくて手に取れませんでした。基本的に、私は恐がりなんですよねー。もう、タイトルからして恐そうで・・・。今回読もうと思ったきっかけは、同じく江戸川乱歩賞を受賞された「天使のナイフ」の薬丸岳さんが、「13階段」に感動して「天使のナイフ」を書いた、という話を聞いて。むくむくと、読みたい気持ちになりました。
傷害致死の前科を背負った若者と、退職を決意した刑務官が、強盗殺人の冤罪で死刑になろうとしている若者の命を助けるために、事件の真相を追う、という、比較的単純なストーリー。この単純なストーリーの中に、さまざまな人々の、恐怖や、苦しみや、悲しみがつまっています。
人を殺すということに対する善悪の感覚が、なぜ人によってこうも違うのでしょうか。刑務官という仕事上の責任があり、それが正しいことだと信じて、上司の命令によって死刑執行を行った人間が、自分が人殺しであるという事に責めさいなまれて夜毎うなされる。かと思えば、私利私欲のために何人もの人間を惨殺した強盗殺人犯は、人生を謳歌し、自分の身を守るために、さらに多くの人の命を犠牲にしようとする。
良心と言うのは、ある程度、人が生まれつき持っているものだと思います。だから、世界のどこでも、いつの時代のどんな文化でも、殺人は罪なのでしょう。でも、人生のどこかで、それを忘れてしまう人がいる。どうして忘れられるのでしょう。真犯人の心中は、私の想像を絶するだけに、恐ろしいものがありました。
この本の中で、一番心を打たれたのは、やはり元刑務官、南郷の死刑執行人としての苦しみに対してでした。そして、傷害致死の前科を持ち、実は心の中にもっと大きな隠された罪の苦しみを背負っている三上の苦しみも、重いですね。可哀想に・・などという、軽い言葉しか、私には出てこなくて歯がゆいのですが、2人には、いつかきっと、心の平安を取り戻せるような「何か」があって欲しいです。ラストの南郷の言葉が、印象的でした。
「俺もお前も終身刑だ。仮釈放は、なしだ。」
他にも、色々考えさせられる部分があって、読み応えのある本でしたが・・・数々の矛盾をはらんだ死刑制度の是非とか、犯罪被害者に対する保償金問題とか、犯罪者の更生とか、社会問題を考えさせるにはちょっと弱かったかな。展開がスピーディーで、意外性もあって面白いので、やっぱりエンターテイメント小説として、傑作。面白かったです。
あとがきが笑えましたね〜。宮部みゆきさんが書いておられるのですが、冒頭できっぱり、映画化失敗宣言としか取れない文章を書いちゃってます。すばらしい!小説の映画化なんて、成功しているもののほうが圧倒的に少ないと思いますが、なかなか、ここまできっぱりとは書いてないものですよね。ぶらぼー。