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■ 千年の黙(しじま) 異本源氏物語 森谷明子
千年の黙―異本源氏物語千年の黙―異本源氏物語
森谷 明子

東京創元社 2003-10

帝ご寵愛の猫、『源氏物語』幻の巻「かかやく日の宮」――ふたつの消失事件に紫式部が挑む。平安の世に生きる女性たち、そして彼女たちを取り巻く謎とその解決を鮮やかに描き上げた、大型新人による傑作王朝推理絵巻!
源氏物語をモチーフにした小説って、けっこうあるんですよね。ミステリーだけに絞っても、けっこうある。ライトノベルにだけに絞ってもけっこうあるし、少女小説だけに絞っても、たくさんあるんです。だけど

わたし世代にとっては、やはり、マンガ「あさきゆめみし」を超えるものではない、と、あらかじめ言っておいてからの感想になってしまうのですが…

うん、この小説は、けっこうよかったよ。

大作だったよ。力作だったよ。読み応えがあったよ。完成度の点から欠点を探そうとすれば、けなすこともできるけれど、そんな事をするのが野暮なくらいの、魅力のある小説だったよ!オススメ!
| ま行(森谷明子) | 12:15 | - | - |
★ 七姫幻想 森谷明子
photo
七姫幻想
森谷 明子
双葉社 2006-02

by G-Tools , 2006/04/20


寵姫の閨でなぜ大王は死んだのか?遥か昔から罪の匂いをまとってきた美しい女たちがいる。時代を経てなお様々に伝わる織女伝説をモチーフに、和歌を絡めながら描く七編の連作ミステリー。
この本は素敵!ロマンだなあ。匂いたつような文章で、しっとりと、読むことの楽しさを満喫できます。これからの雨の季節には、ぴっったり。オススメの1冊です!

どの物語も、「大王」「后」「帝」「皇子」「皇女」の物語となっていて、謀略あり、犯罪あり、恋愛ありの和製王朝ロマンミステリーです。7つの物語を、古代から江戸時代まで時系列順に並べています。歴史上の有名人や、古典の有名なエピソードがちょくちょく登場するのも、好きな人にはたまらない趣向ですよね。それぞれの物語は、「機を織る女」という共通テーマをもっています。またそれぞれの物語は、和歌でしめられます。

そして私が1番注目したのは、全体を貫く裏の物語があり、この本がある隠里の一族の年代記にもなっている、という凝った構成です。連作短編集としてもお見事です!

以下は、あらすじ。自分のための覚書なので、読みにくいし、面白くないと思います。以下を読むくらいなら、自分でこの本を読んで欲しいです。私は「歴史学」の観点から読んでしまいがちだったのですが、和歌に造詣の深い方は文学的に、恋愛小説が好きな方はロマンチックに、など、色んな読み方ができる本だと思いますし・・・。

・ささがにの泉
・秋去衣
・薫物合
・朝顔斎王
・梶葉襲
・百子淵
・糸織草子

第1話「ささがにの泉」の主人公、泉のほとりに住む衣通姫は、地の神の霊力を備えており、病弱な大王を癒すために側に仕えるようになります。衣通姫の屋敷は、夜になると、水がつむぐ糸の繭に守られます。誰もそれを破らずに入ってくることはできません。その「水の密室」の中で、大王は変死します。大王を殺したのは衣通姫なのか?この短編は、ミステリーの味わいです。1人の男を争った姉妹の悲劇は、「これぞ王朝ロマン」といった感じで、短編集の幕開けにふさわしい、印象的なストーリー。この衣通姫の悲劇は、けっこうあとをひくことになります。

「秋去衣」は、第1話の事件の直後の、大和朝廷を揺るがせた政権交代の陰謀劇を描いています。その中心となるのは、大王の娘で、同じく衣通姫と呼ばれることになった巫女姫です。彼女は、神事のための機を織るという役目を果たしつつ、この陰謀に気がつき、幼い頃から慕っていた兄の命を救うために、一計を案じます。彼女の計画とその成否についてのネタバレはしませんが、姫自身はどうやら、朝廷には戻らず、里にかくまわれひっそりと暮したのではないかという、昔話らしいオチがあります。これもけっこうあとをひきます。

第3話「薫物合」に入ると、少し時間が飛びます。都は平安京に移り、物語の舞台は京都へ。うだつのあがらない貴族、清原元輔が恋をした、夏野という女性が殺されました。夏野変死事件は、長いときを隔てて解決します。(解決編はネタバレしません。でも、面白かったです。)この変死の謎を明らかにすべく、京都にやってきた瑞葉という女性、彼女はどうやら、第1話で亡くなった衣通姫のいた藤原の地で、ひっそりと暮す隠里の一族の一員のようです。

第4話「朝顔斎王」は平安時代中期。主人公は第2話の衣通姫と同じく皇女であり、巫女として賀茂神社に奉仕するために捧げられた、元斎王。彼女に向けられた悪意について描かれた短編ですが、素敵なラブストーリーでもあって、短編としてはこれが1番素敵でした。なんといってもこの主人公の姫さまが、ピュアなのです。無菌培養された世間知らずの女性ですが、甘やかされたわけではなく、重い責任を背負い、厳しい訓練と禊の日々を生きてきた彼女は、清らかだけど、たくましい大和撫子。

この時代の斎王は、もう実際に機を織ることはなくなっています。できあがった布を、儀式の一貫として運ぶだけです。また斎王の霊力に関しても、斎王自身が「自分にそんなものが本当にあるのだろうか」と悩んでいます。「神」に仕えていたはずの斎王が、「仏」に祈ったりもします。第1話では、どっぷりファンタジーかと思いましたが、このあたりからは、古来日本人が信じてきた「神」というものへの信仰が、かなり曖昧になっている様子を見ることができます。

第5話「梶葉襲」では、元女御とその女房が、宮中にいたころの七夕祭りの思い出を語り合います。日常の謎系ミステリーの味付けがされています。女房たちが準備した晴れ着が、すべてびしょぬれになってしまった、という事件が過去におこったのですが、女房の話を聞いた元女御様は、ことの真実に気がつきます。時代は全然違うけどちょっと「大奥」みたいなストーリーでした。子供を武器にする女の戦いですね。この事件の黒幕は、隠里の一族に代々伝わる名前・瑞葉を名乗っています。また、彼女が里から連れてきた、止利彦という少年も登場します。

第6話「百子淵」の舞台は不二原の村(=隠里の一族の村のようです)。ここで第1話の衣通姫の泉のその後が描かれます。第5話の止利彦のその後も描かれています。不二原の村に代々伝わる、水都刃と鳥比古という神への信仰、また、成人のための儀式には、いったいどんな意味があったのか?言い伝えや、儀式には、それが生まれるきっかけとなった出来事が何かあるはずだ。村の生まれではなく、外から入ってきた鵙という青年が、その謎を解いて過去の出来事を明らかにします。もう神もへったくれもありません。感覚的には現代人に近くなってきました。個人的にはこの話が、時の流れを感じさせてくれて1番好きです。

第7話「糸織草子」では、とうとう江戸時代になります。機を織るのは、貧乏武家の奥方の内職になりました。染めの技術なども発達し、色糸が登場します。この時代、政治の実験を握っているのは武家。皇子、皇女にはなんの実権も財産もなく、お金のある町人の庇護の下、ほそぼそと暮しています。この物語は町人の見た、皇子、皇女の悲恋の物語でした。
| ま行(森谷明子) | 08:26 | - | - |
★ れんげ野原のまんなかで 森谷明子 
448801710Xれんげ野原のまんなかで
森谷 明子
東京創元社 2005-03-01

by G-Tools

これはすごく好きなタイプの本。一応「日常の謎」のジャンルに入るミステリー短編集。私の大好きなこのジャンルは、北村薫さんという大御所がでーんといて、後から出てきた作家さんたちは、彼をどうしても超えられない(あくまでも私見)。どうしても2番煎じ、3番煎じに見えてしまう(これも私見)。最近なんとなく、そんな閉塞感を感じるジャンルだ(私見!)。

この本もやっぱり、2番煎じ感はある。特に光原百合さんには酷似。でもまあ、それは、作品自体の欠点ではないよね。読むほうが、書くよりずっと速く簡単にできちゃうんだから、好みの作品を書いてくれる作家さんがたくさんいるにこしたことはない!

「れんげ野原のまんなかで」は、「日常の謎」系のほのぼの感を残しつつ、少しだけ重さや棘のある作品。光原百合さんの「時計を忘れて森へ行こう」を読んで、「これはこれで好きなんだけど、もう少し甘さ控えめでお願いしたい」と思った私には、ちょうど良かった。(光原百合さんも好きですけど)

図書館が舞台であるというところが、まずツボ。図書館の裏側というものを少し見れて、業界(?)小説としても楽しめました。季節感をとても重視している文章で、そのあたりも癒し系。それから、子供の頃から本が好きだった人には、「あ!懐かしい!」という児童書が出てきます。タイトルがはっきり書いていないのがまた、「わかった!あれのことだよな〜。」という満足感というか、優越感に似たものをくれます。美術館に家出するクローディアや、借り暮らしの小人の物語、私も子供の頃大好きでした。

5つの短編が収められているのですが、1話から3話までは、ほのぼの系の事件だけど、4・5話では過去の暗い変死事件を扱って、ひきしまった本になっています。特に5話は、よかったです。突然本棚に紛れ込んだ、廃校になった中学校の蔵書から、一人の少年の過酷な人生が明らかになっていく。しっかりしたストーリーで、読み応えがありました。つらい話だったけど、後味も良かったしね。4話も印象的でした。

シリーズ化を望みますが・・・無理かなあ。弱点は、キャラクターが弱い事、なんですよね。主人公の文子は、まあ、いいんです。語り手で、ワトソン役なんだし、弱いくらいでちょうどいい。でも、図書館の他の職員、探偵役の能勢さん、有能な日野さん、館長、この辺りのキャラが強く出てくると、シリーズ化しても面白いと思う。この本では、大地主の秋葉さんや、図書館の常連さんたちのほうが、キャラがたっているというのが、ちょっと惜しい。
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